だまされたと思って手に取ってみよう:年末年始に読むロシア文学の傑作10選

カルチャー
アレクサンドラ・グゼワ
 年末年始の休暇は、温かい飲み物を手に、毛布にくるまって読書をするのに最適だ。読み出せば、我を忘れて読みふけること請け合い。それでも、時代を超越したこれらの古典的名作を読み切るには時間が足りないだろう。

1. アレクサンドル・プーシキンの連作小説『ベールキン物語』

 アレクサンドル・プーシキンは究極のロシア詩人だが、多くの人は、彼がすばらしい散文も書いていることを忘れがちだ。例えば、この連作小説は、トリッキーなひねりの利いた筋立て、緊迫感、恋物語が見事で、読者は息を呑むだろう。

 すべての収録作品を読む時間がなければ、雪の降るクリスマス・イブにぴったりの中編『吹雪』から始めることをお勧めする。

 若いマリアは貧しいウラジーミルに恋するが、彼女の裕福な両親は結婚を許さないので、カップルは秘密裏に結婚することに決める。マリアは教会にやって来るが、新郎は猛吹雪に遭い、道に迷ってしまう。それでも結局、彼女は結婚することになるのだが、さて誰と?…

2. ニコライ・ゴーゴリの『降誕祭の前夜』(短編小説集『ディカーニカ近郷夜話』に収録)

 地方の田舎を舞台にしたこの短編小説集は、ゴーゴリにとって大ヒットとなった。毛布にくるまって快適に読書する作品に、『降誕祭の前夜』を選ぼう(他のいくつかの作品には、ホラーの要素があるので、ハロウィーン用にとっておこう)。

 若いウクライナ人のワクーラは、村の気まぐれな美女に惚れ込んでしまう。彼は、自分の愛の証として何でもやる覚悟があるが、彼女はおよそ不可能なことを望む。女帝の履く靴を持って来いと言うのだ。もはやワクーラには、悪魔と取引をするしか手はない…。

3. フョードル・ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』

 それは一見するほど、長大で退屈な作品ではない。全然そんなことはない!この作品には真のサスペンスがあり、読み出したら止まらず、一気に読了するだろう!

 3人の兄弟はそれぞれ非常に違った人間だ(実際、互いに深く接したこともなかった)。末弟は、善良で親切な見習い修道士だ。次兄は、物静かな合理主義者で無神論者。長兄は酒とどんちゃん騒ぎが大好きな情熱的で衝動的な男だ。

 そして3人とも、父親と胸襟を開き合ったことはない。それどころか長男は、ある若い女をめぐって父と争う。そしてある夜、何者かが父を殺す。長男が唯一の容疑者だ…。

4. レフ・トルストイの『戦争と平和』

 いや、真面目な話、そろそろこの大長編を読む時だ。ただ座って読み始めてみよう…。すると、その世界に強力に引き込まれ、我に返るのは、仕事始めの1月2日ということになるだろう!

 この作品は、19世紀初頭のロシアを描いており、ナポレオン・ボナパルトとの戦争(アウステルリッツの会戦)の前夜に始まる。激動の歴史を背景に、帝都サンクトペテルブルクとモスクワのいくつかの貴族の家庭で物語が展開していく。

 いく人かの登場人物が戦場で戦っている間、他のいく人かは宮殿で壮麗な舞踏会を楽しんだり、サロンで家族のお金を賭けてひと財産すったりしている…。愛、裏切り、偉業、素朴な少女、賢明な老人――この作品にあなたは、新たなひとつの世界を見出すだろう。

5. アントン・チェーホフの短編群

 チェーホフは短編の名手だ。トルストイが登場人物を描くのに100語を要するところ、チェーホフはわずか2語で足りた。しかも、見事にその全体像を描き出して見せた。『かわいい女』、『六号室』、『箱に入った男』――これらの物語はあなたの人生を変え、人生観を覆すだろう。

 しかし、冬とクリスマスにふさわしい作品を、ということなら、『ヴァンカ』がお薦めだ。少年は靴屋の徒弟として働いており、祖父に手紙を書く。それは可憐な文面で、最後にあなたは涙するだろう。

6. ミハイル・ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』

 ブルガーコフの作品世界は広大なので、その時々でいちばんお気に入りのトピックを選ぶべきだろう。雪に覆われた冬の気分に浸るには、『白衛軍』がいい。これは、ロシアの革命と内戦を描いた小説だ。あるいは『犬の心臓』かな。才能ある医師と科学者が、人間の脳を犬に移植する…。その犬は手術を生き延びるが、「彼」には、若いソビエト国家はどうにも耐え難く感じられる。

 しかし、最高のチョイスは、ブルガーコフの最も有名な小説を読むこと。これは真の天才の作品、『巨匠とマルガリータ』だ。神秘的で、すご~く面白くて、哲学的である。黒魔術をあやつる外国人教授がモスクワにやって来て、次々に奇想天外なことが起こる。

7. ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ』

 このノーベル賞受賞作は、ロシアの内戦に関する最高の作品の一つだ。内戦が、貴族であれ農民であれ、あらゆる人々の生活をいかに劇的に一変させたかを描き出している。

 ユーリー・ジバゴは、虚偽とカオスが蔓延するなかで自分自身を貫こうとする。彼は真のキリスト教徒であり真の医師であって、極めて寛大で思いやりがある。他者のために犠牲を払う覚悟があり、おそらく、人を赤軍側と白軍側に区別、差別しない唯一の人だ。なぜなら彼にとっては、誰もが人間であるから。

8. 二人組のソ連作家、イリフとペトロフの『十二の椅子』

 2人のカリスマ的な山師といっしょにこのアドベンチャーワールドに飛び込んでみよう。彼らは、椅子の中に隠されたと噂されるダイヤモンドを探している。しかし、同じ椅子が12脚もあり、おまけにオークションで売られ、全国に散ってしまったので、宝探しは途方もない冒険になった。目当ての宝石を手に入れるために、彼らはどこでも誰でも欺く。必要とあらば、ニセ政党を設立し、画家、チェスの名人、警官になりすます。

9. ヴェネディクト・エロフェーエフの『酔どれ列車、モスクワ発ペトゥシキ行』(「ペトゥシキ」は、モスクワから東方に向かう郊外電車の終点だった)

 この作品の筋は、郊外電車に乗り、酒を飲んでいる男を中心に展開する。彼は、偶然の様々な道連れを相手に自分の哲学を語り、自らを振り返る。彼は、モスクワからペトゥシキへ、恋人を訪ねに行く途中なのだが、二人は結局会えるだろうか?

 この一見シンプルな韻文小説は、複雑なポストモダンのイデーを体現している。ロシア文学の古典的名作となっただけでなく、一般読者にも非常に人気があった。モスクワには、主人公ヴェニチカ(ヴェネディクトの愛称)の記念碑さえある。この作品を読むと、ロシアの酒飲みが少しわかるかも…。

10. リュドミラ・ウリツカヤの『通訳ダニエル・シュタイン』

 クリスマスは、永遠の問題について考え、キリストとその叡智に思いをいたす時だ。これは、ある人物の実話に基づいた作品で、彼は、さまざまな宗教や民族の間に平和をもたらし、ローマ教皇とイスラエルとの間に対話を確立すべく尽力する。それは、バチカンがこの新しい国家を正当なものと認めなかった時代のことだ。

 ダニエル・シュタインは、ユダヤ系ポーランド人で、出自をナチスに隠し、第二次世界大戦中にカトリックの司祭になる。彼は数十人の命を救い、イスラエルに行き、教会に仕える。そして、社会のはみ出し者やどこでも理解されないような人(例えば、イスラム教徒とキリスト教徒の双方から拒まれた、アラブ人のキリスト教徒)を受け入れ、助ける。信じ難い物語であり、信じ難いほど面白く深い読書ができる。

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