初めてロシア文学を読む方へ:とっつきやすい5作品を紹介

Film poster Aleksandr Rou/Gorky Film Studio, 1961
 ひとつロシア文学を読んでみようかな…と思っても、さて何を読んだらいいか?必ずしもトルストイの超大作『戦争と平和』やドストエフスキーの重厚長大な陰鬱な小説から始めなくてもいい。これほどとっつきにくくなくて、内容的には同じくらい素晴らしいものがいくつもある。

 ロシアの作家を読んでみようとは、素晴らしい!ロシア文学は世界最高の評価を得ているものの一つだ。あなたはきっと好みに合ったものを見つけるだろう。だが、問題がある。

 ロシアの有名な小説の多くは、途方もなく長い。レフ・トルストイの全 4巻の『戦争と平和』を読破するのは真のチャレンジだ。多くの場合、途中で挫折して、トルストイ、ロシア文学が嫌になり、自己嫌悪に陥ることにもなる。

 ひとつ回避策がある。もうちょっと軽めのものから始めることだ。それは何も、作品として劣ることを意味しない。ここに、そういう読みやすい作品のリストがある。ロシア作家の技量を存分に示すとともに、ページ数(それも字の詰まった)で圧倒することもない。  

1. 『ディカーニカ近郊夜話』(ニコライ・ゴーゴリ、1832年) 

 ロシアの最も機知に富んだ作家の一人である、若きゴーゴリが書いた短編小説集だ。19世紀ウクライナ(当時はロシア帝国の一部)の色彩豊かで温暖な世界に、読者を浸らせてくれる。物語は、ゴーゴリが知悉していたウクライナの民間 伝承にもとづいている。

 純粋にファンタジックな世界で、とにかくおもしろい!クリスマスイブに、勇敢なコサックが悪魔にまたがってサンクトペテルブルクに飛び、恋人がほしがっていた女帝の靴を手に入れる。『降誕祭の前夜』はこんな話だ。

 一方、時にはスティーブン・キングの小説よりも怖いホラーもある。たとえば『恐ろしき復讐』だ。ヒロインは自分の父親がアンチキリストであることを発見する…。でも、8つの物語すべてに共通することが一つある。決して退屈しないことだ。

2. 『現代の英雄』(ミハイル・レールモントフ、1840) 

 詩人レールモントフの唯一の小説。おそらく、19世紀ロシアの、心理を掘り下げた作品のなかで最も魅力的なものの一つだ。その『現代の英雄』の筋は、ロシア帝国の野生味あふれるフロンティア、カフカスで展開する。ロシアの「ウエスタン」といったところだ。そこを舞台として、絶えず冒険を探し求める主人公グリゴリー・ペチョーリンが、次から次へと危機に遭遇する。

 しかし、ペチョーリンの主たる敵は、実は彼自身だ。レールモントフは、この男の厭世的で冷酷な性質を見事に描き出している。それは、他者の人生のみならず、自分自身のそれをも破壊するのだ。

 心理的な深みとカフカスのロマンティックな背景、そして時空が交錯する複雑な構造により、実に魅力的な小説ができあがった。それは、ロシア人のイマジネーションを――この作品を初めて教わる中学時代から――虜にしている。正直言って、これはめったにないことだ。

3. アントン・チェーホフの三部作:『箱に入った男』、『すぐり』、『恋について』(1898)

 主に短編小説と戯曲を書いたアントン・チェーホフには、ロシアの他の作家から際立った特長が二つある。軽やかでアイロニカルなユーモアのセンス、そして簡潔さだ。わずか1時間で、この三部作、つまり三つの物語からなる一連の連作を読むことができる。

 筋はシンプルだ。ロシアの3人のインテリが、ある雨の日に、エピソードを語り合う。それぞれの物語には、人間性、その感情、弱さについて、悲しい哲学的な思索が含まれている。チェーホフはあなたに、何らの回答も与えないが、彼がその簡潔な傑作で提起した問題について考えるのを止めるのは難しい。

4.  『神父セルギイ』(レフ・トルストイ、1898)

 『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』のように有名ではないが、はるかに短いこの作品は、ここでの目的にはおあつらえ向きだ。

 トルストイは、『戦争と平和』ではロシア社会を叙事的に描いたが、やがて、哲学、思想に焦点を当てた短編、中編を書くようになる。

 主人公は神父セルギイ。若い近衛士官であったときに、深刻な衝撃を受け(婚約者の女性がかつて皇帝の愛人であったことを知る)、修道士となって修行に励み、やがて聖人として崇められるようになる。大きな成功を収めたように思われたが、しかし彼の内面奥深くには、まだ罪と疑惑が隠れていた…。

 結末は言わないでおこう。ただ、次の点は言い添えたい。『神父セルギイ』はロシア正教会をいたく刺激し、国がその出版を許可したのはようやく1911年、つまりトルストイの死後のことであった。

5. 『十二の椅子』(二人組のソ連作家、イリフとペトロフ、1928) 

 オデッサ(現ウクライナ領)出身の、若い二人組のソ連作家は、ロシア文学史上最高に滑稽な風刺小説の一つを生み出した。

 1920年代、ソビエト政権は内戦でほぼ勝利を収めつつあったものの、国はまだ非常な混乱のさなかにあった。こうした状況を背景として、この作品では、貴族出身でいかにも貴族然としたキーサ・ヴォロビャニノフと、稀代の詐欺師オスタップ・ベンデルが、キーサの家宝のダイヤモンドを探す話が軸となる。

 ダイヤモンドは、かつては邸宅を飾っていた12の椅子のうちの1つに隠されていたが、今はオークションで売られている。キーサとオスタップは、いったいどの椅子に隠されているのか分からないので、南ロシアをあちこち歩き回って家具商をペテンにかける。二人が出会う人々にはクレイジーなのが多く、そのせいでこの旅は読者にとっては滑稽だ。だが、この軽快な小説の幕切れは、予想されるよりはるかに暗い。

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