Little Big:不快な気持ちになるかもしれないが、間違いなく頭に残るイカれたやつら

カルチャー
トミー・オカラガン
 ロシアのネットのばかげた不愉快なメンツが皆を魅了している――古くなったオンラインミームを削除したり取り消したりするのは「skibidi wap pap pow」と言うよりも速い。

 「本当に恐ろしい。安っぽくて不快でクソだよ。でも大好きだ」。ロシアのバンド、Little Bigのビデオ「SKIBIDI」に最初に書き込まれたこのコメントがすべてを語っている。この1週間以内にネットにアクセスしたことがあるなら、これがどういう意味なのかはっきりと分かるだろう。 

 そのダンスが流行している「SKIBIDI」#skibidichallengeは、すぐれたネットビデオがすべきことをすべてやっている。つまり、ギョッとさせ、頭に残り、そしてあっという間に、ばかげた中毒性のダンスだと分かっていながらもスクリーンに釘付けになってしまうのだ。

 けれども、 Little Bigのクリックベイトは一時的なブームにとどまらない。むしろそれは、この「一風変わったレイブ」グループが2014年に、恐ろしい道化の警官とウォッカを飲んでいるクマを登場させてロシア全土をゾっとさせた『俺は毎日飲んでいる』でブレークして以降ずっとやり続けてきたことだ。超現実的で虚構的なミュージックビデオで衝撃度を軽減したこの恥ずかしいジャンルの寄せ集めは、音楽の領域外というよりは、ネットのアグレッシヴなバカバカしさの中にその運命を委ねている。

 まあ、つまり、ダイ・アントワード(Die Antwoord)のことを想像してみよう。だけど、それにタトゥ(t.A.T.u.)のようなはっきりとした性的な部分が付加されているのだと。

狂気のメソッド

 すべてはただのひどい冗談?

  そういうときもある。いいかな、私たちは「SKIBIDI」に深い意味を見い出そうなどというつもりはない。だから『LollyBomb』は、金正雲が自分の恋人である核爆弾と性の自由を探求しているという、そのままだ。

 しかし、多くの風刺と同様にこの不条理に対して辛辣なコメントもある。2017年のユーリー・ドゥジのインタビューで、Little Bigのリーダーとグループ結成メンバーのイリヤ・プルーシキン(別名イリイチ)は、過去に心理学部の学生だったときのことを打ち明けた(老人ホームでのボランティア活動中に認知症の現実に直面し、すぐに断念したという話だ)。この経験が彼の作品に、とりわけフロイト的な色調を添えるきっかけになった。

 その特徴が残っていると確実に言えるのは、おそらく2016年のトラック『BIG D * CK』だ。ペニス羨望は生きていて、今日のポップカルチャーに健在だということを大胆に思い出させてくれる(ピアノを弾いているメンバーと裸のプルーシキンが自分のペニスのサイズを激しく主張し合っている)。「今は、おまえはクソだと言うのがカッコいい、自分のことをペニスのサイズで測るのがカッコいいんだ」と、プルーシキンは説明する。「これはありとあらゆるポップビデオのパロディなんだ。それらはどれもこれもセックスのことばかりで、それでごまかそうとしているんだ」。 

 さらに、破壊的で病的な『憎しみに満ちた愛』がある。「あなたが死ねばいいのに/今すぐ死んでよ」といった歌詞やあからさまな性描写を単なるクリックベイトとして解釈することは、この歌を正しく評価することにならないだろう。私たちが実際に見せられるものは極端で、限界まで抑圧された女性の不満だ。これは、恥ずかしくも神秘的な家母長制であり、そこでは、バービー人形がバーベキューにされ、美女はカラシニコフ銃と手を取り合い、男の役割は単なる本棚に切り下げられている。

ロシアの悪い顔?

 国内ではLittle Bigの閲覧者の評判は、控えめに言っても複雑なものとなっている。ロシアは 「SKIBIDI」の感染を免れることはなかったが、ロシア人たちが彼らをやめさせるよう求めていたのはそんなに前のことではない。

 ロシアのトークショー「ヴェチェルニー・ウルガント」もSkibidi Challengeをやった。 

 その理由は簡単。正直に言うと、頭飾りのココシュニクをつけてAK-47(カラシニコフ)を持つサイコパスのイメージは、ほとんどのロシア人が自国に求めるイメージとは限らないからだ。プルーシキンは、外国人たちが冗談の隠された意味を理解していると言ってこのイメージを守ってきたが、皮肉なことに、彼自身が繰り返しこう言っている。「ロシアでは、私がこの国を中傷していると言われる」。彼はこうも主張する、「…あるいはこう言われる、“きみが本当にロシアを思うなら、どうしてロシア語で歌わないんだ?”と」。

 善かれ悪しかれ、彼はきちんと従った。イリイチのサイドプロジェクトであるThe Hattersはロシア語で発信するバンドで、2016年からトーンダウンしたロシア語の風刺をリリースしている(カラシニコフや奇妙なダンスよりは、アコーデオンやハッピーグラス割りを考えてみよう)。彼の妻イリーナ・スメラヤ(別名タタールカ)もまた、Little Big Familyでは珍しく誠実なメンバーとして前面に出され、ここ数年のロシアでもっとも面白いトラップバンガーを多く発表している(彼女はタタール語でラップを歌う)。

 しかし、結局のところ、芸術的なクオリティや倫理という点でLittle Bigを評価するのはまったくもって間違っている。実験的に見えるかもしれないが、彼らはこの語の伝統的な意味での「ミュージシャン」ではなく、おそらくは、ネットトロールやパフォーマンスアーティストと言ったほうがしっくりくるのではないだろうか。

 事実、私たちはプルーシキンとその仲間たちに大いに感謝すべきなのだろう。結局のところ彼らは、自分たちのミームを限界ぎりぎりまで公開することで、目覚ましい勢いで古いネットミームを消していっているのだから。心理を巧みに操るポップカルチャートレンドの中心は剥き出しになっていて、こうしたトレンドは、Little Bigがもう使えないという時点に至れば、彼らとともに消えてしまうことだろう。

 「SKIBIDI」に関して言えば――もちろん、金の成る木なのだろう。正直に言ってみよう、他のハッシュタグチャレンジを実際に楽しんだことがあるだろうか? #InMyFeelingsChallengeをどなたか試したことがあるだろうか? もちろんないだろう。これを使えば、ショックを受けることもあるくらい品のない人になるだろう。Little Bigがやったことすべてが、あなたに赤裸々な真実を見せてくれるだろう。

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