グジェリやマトリョーシカの変容:現代のデザインに甦る伝統工芸

カルチャー
オレーシャ・ハンツェヴィチ
 装飾を凝らした木製の窓枠、伝統の玩具が、デザイナーの手で、現代美術、工芸品となって甦った。

 陶器のグジェリ、入れ子人形のマトリョーシカ、ホフロマ塗り、ジョストヴォの装飾盆(鉄板に絵付けしたお盆)、パレフの細密画、ヴォログダのレース編み…。ロシアには、これら以外にも多くの伝統工芸があり、その歴史は、数世紀におよぶ。これらはすべて、ロシアの美術工芸の誇りだ。だから当然、最も人気のある“ロシアっぽい”お土産でもあるわけで、旅行者たちがモスクワ、サンクトペテルブルクその他の都市から持ち帰ってくる。

 そして、これらの昔ながらのロシアの装飾、模様は、しばしば現代のデザイナーたちのインスピレーションの源泉ともなってきた。彼らは、衣類やアクセサリーに、一見してそれと分かるロシア風の模様をプリントする。が、現代ロシアのデザイナーやアーティストが、こうした豊かな遺産の「捉え直し」を本格的に始めたのは、比較的最近のことだ。その好例をいくつか挙げよう。

HALF&HALFのお皿

 伝説的な「グジェリ統一工房」は、17世紀以来続いており、陶磁器の製造工場がある27の村からなる。白地に青のグラデーションが印象的で、素朴な温かみがある。この工房が、優雅なお皿「HALF&HALF」の生産を始めたのは昨年のこと。やはり、白と青の模様をあしらい、グジェリ様式を踏襲している。しかし、古典的な花柄を現代風にデザインし、幾何学的な模様と組み合わせた。これを考案したのは、デザイナーのアンナ・クラチョクさんだ。

 グジェリは今秋、このデザインを、食堂、レストラン用のバリエーション(直径27.5㌢)でも、リバイバル生産する予定だ。また、青だけでなく二つの色を使ったお皿も限定販売する。

 グジェリは来年も、同様の模様をあしらった製品の生産を続けることにしており、お皿だけでなく、茶わん、砂糖入れなども発売する。 

www.halfand.co

彫像「アガタ」

 この巨大なオモチャ(2.5㍍近い)は、9月に、モスクワのアート見本市「Cosmoscow」にお目見えし、セルフィー好きの注目を集めた。

 また、この像はインタラクティブでもある。手袋をはめて像を押し倒すと、ゆらゆら揺れて、また直立するさまを見ることができる。アガタを制作したのは、彫刻家グリゴリー・オレホフで、そのベースになったのは、ソ連時代の人気の玩具「起き上がり人形」だ。しかし、閃きを与えてくれたのは、アメリカの美術家、ジェフ・クーンズのバルーン(風船)のオブジェらしい。像は、滑らかなスチールでできており、庭園のオブジェとしても十分面白い。

www.orekhovgallery.com

家具「AUGUST」

 ヴィタリー・ジュイコフは、イギリス高等美術学校モスクワ分校を卒業した後、「退屈でない」家具・インテリアのデザインを手がけてきた。なかでも最高に魅力的なものの一つは、「PORTAL Collection」のタンス、鏡、棚などだろう。そこでは、ロシア伝統のユニークな形と花柄のある窓枠が、うまく活かされている。そういう窓枠を見つけ出すために、ジュイコフは、ロシアの農村や小都市を回った。

 こういう窓の外側を飾る框は、とくに19世紀に広まった。彫刻の模様には、実にさまざまなモチーフが使われている。おとぎ話の「火の鳥」からはじまって、ありとあらゆる動植物、そして家族の紋章にいたるまで。 

www.august-august.ru

ランプ「Fedora」

 世界28カ国の「エル・デコ」誌編集長の投票により、その年に活躍したデザイナーと優れたデザインを選ぶ「エル・デコ インターナショナル デザイン アワード(EDIDA)」(Elle Decoration Best Of The Year Award)を、ロシアのデザイナー、ディーマ・ロギノフは2014年に受賞。彼はすでに、「Artemide」や「VitrA」などの有名ブランドと仕事をしている。

 昨年は、イタリアの「Axo Light」のために、ランプのシリーズ「Fedora」を制作。さて、そのデザインだが、世界で最も知られたロシアの玩具、入れ子人形の「マトリョーシカ」をもとにしている。

 マトリョーシカの形態は、ベルギー出身のファッションデザイナー、マルタン・マルジェラなど、何人かの欧米のデザイナーをもインスパイアしてきた。ロギノフのランプは、そのシルエットが、マトリョーシカのように真ん中がくびれ、二つの部分から成っている。上の部分は、光沢のあるアルミニウムで、下は透明なガラスでできている。

www.dimaloginoff.com