「松林の朝」
=イヴァン・シーシキン作/Wikipedia
カジミール・マレーヴィチ、ワシリー・カンディンスキーといったロシアアヴァンギャルドの画家たちは世界中で知られ、高く評価されている。人々に広く知られているという事実はもちろん名画の模倣に勤しむ詐欺師たちにも魅力的なことである。
とりわけ人気があるのがオークションの統計でももっとも高値がつけられるロシアの画家マレーヴィチである(2008年、マレーヴィチの作品「シュプレマティズムのコンポジション」は6000万ドル≒68億4000万円で落札された)。
大きなスキャンダルが起こったのは2013年。ドイツの特務機関がアヴァンギャルド画家の作品を専門とした贋作詐欺師グループを摘発したのである。このとき贋作と特定された作品は400点に上った。
また同じ年、ロシアでは800点を超える贋作をコレクターに売りつけたとしてアレクサンドル・チェルノフとその娘が逮捕された。どちらの事件でももっとも多かったのがマレーヴィチの作品であった。
「自画像」 / =ナターリア・ゴンチャロワ作/Wikipedia
模倣されたマレーヴィチの作品の数については予測することしかできないが、アヴァンギャルドの女流画家ナタリア・ゴンチャロワの疑わしい作品は数年前にヨーロッパの出版物に印刷までされた。
2010年にイギリスでアンソニー・パートンの著書「ゴンチャロワ」が出版され、2011年にはベルギーでデニズ・バゼトゥのカタログ・レゾネ(全作品集)「ナタリア・ゴンチャロワ、伝統と現代性の間の作品」の第1巻が発表されたのだが、この2冊の本はいずれもロシアで大スキャンダルを巻き起こした。というのも、トレチャコフ美術館とロシア美術館のアヴァンギャルド専門家らはその本に印刷されている作品の半分以上について本物かどうかきわめて疑わしいとの見解を示したのである。
「第九の波涛」 / =イヴァン・アイヴァゾフスキー作/Wikipedia
海を題材にした海洋画家を代表するアイヴァゾフスキーは生きているときからかなり人気があったため、すでに19世紀には「アイヴァゾフスキー風」の海の絵が大量に描かれた。そのうちの多くが現在もオリジナルとして市場に出回っている。
しかもアイヴァゾフスキーはきわめて精力的に活動した画家で、研究者たちの間でも、彼が遺した作品の数については6000から15000とその計算に幅があり、今なお共通の見解には達していない。そこで全作品のカタログというものも存在していないほどである。そしてたまに行われるロシア芸術のオークションでは彼の作品が必ず1〜2点出品される。こうしたオークションでの出品により、世界中の贋作画家たちはまた「新たな作品」を生み出しているのである。
「松林の朝」 / =イヴァン・シーシキン作/Wikipedia
贋作画家らは、優雅で、驚くほど自然な風景画を描くイワン・シーシキンが長い間ドイツに住み、19世紀末のドイツ人画家に典型的な作風の持ち主であることをうまく利用してきた。
ロシア人にとってシーシキンは偉大な比類ない画家であるが、ヨーロッパの芸術愛好家にとってはデュッセルドルフ派の平均的な画家でしかない。贋作画家らが作り上げた手口はいたって単純だ。ヨーロッパの小規模なオークションで同じようなスタイルの作品を1〜2万ユーロ(約121万円~242万円)ほどで落札し、そこに書かれたヨーロッパの画家の名前を消し、ロシアの風景画らしいディテールを付け足して、シーシキンの作品として数10万ユーロ(1ユーロは約121円)の値をつけ市場に出すのだそうだ。
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