ガッチナ宮殿は2016年、建設250周年を迎える。パーヴェル1世のイメージが強い。母の女帝エカチェリーナ2世からプレゼントとしてもらい、15年以上暮らしていた。パーヴェル1世が皇帝に即位すると、ガッチナ宮殿は皇帝の住居となり、ロシア革命頃までそのままであった。とはいえ、エカチェリーナ2世が宮殿を建てたのは息子のためではなく、愛人のためである。
エカチェリーナ2世はクーデターを起こして女帝に即位した。ロシア革命前の有名な歴史家ヴァシリー・クリュチェフスキーによると、エカチェリーナ2世は「夫から政権を奪い、その自然後継者である自分の息子に渡さないという、二重の奪取を行った」(これにより、パーヴェルは『ロシアのハムレット』と呼ばれるようになった)。
クーデターの指導者の一人になったのは、エカチェリーナ2世のお気に入り、グリゴリー・オルロフ。体格の良い美男子、サンクトペテルブルクで有名なドン・ファン、決断力のある無謀な伯爵であった。女帝エカチェリーナは即位して3年経過した後、オルロフ伯爵に豪華なプレゼントをした。サンクトペテルブルクから40キロに位置する、絵画のように美しい林と湧き出る湖のある土地のガッチナ荘園である。狩猟小屋の建設はすぐに始まった。
建設工事は15年かかったが、オルロフ伯爵はプレゼントを楽しむ間もなく、完工後すぐに死去した。エカチェリーナ2世は伯爵の相続人から不動産を購入し、息子のパーヴェルのもとに長女アレクサンドラが誕生した際に、プレゼントした。18世紀、このような状況を恥ずかしいと思う者はいなかった。
ガッチナはパーヴェル1世お気に入りの家になった。すべてが自分の好みに合わされていた。「パーヴェル1世が夢中になっていた、演劇と軍という2つの要素が反映されていた。宮殿ではサンクトペテルブルクきっての劇団が演劇を行い、皇族やその近しい関係者のお気に入りの演劇も上演された。ガッチナ軍はロシア帝国軍の将来の改革のモデルになった。大砲は重視されたが、1812年のナポレオンとの戦争でこれは重要な役割を果たした」と、ガッチナ宮殿科学文書保管担当のアレクサンドラ・ファラフォノワ氏は話す。ナポレオンは1798年のエジプト遠征の途中でマルタを占領し、マルタ騎士団は島を追われた。騎士団の理想を愛していたパーヴェル1世は、マルタ騎士団の団長に選ばれた。そして1年後、ガッチナの敷地内にマルタ騎士団の住居として、プリオラト宮殿を建設した。
パーヴェル1世の死後も、その秘密のベールはガッチナを軽く覆い続けた。ファンタジーを好む女官は、夜更けに宮殿の間をまわり、パーヴェル1世の霊との遭遇を試みたが、結局あらわれることはなかった。宮殿は皇家の幸福の家になり続けた。休暇や娯楽、庭園内の散歩のためにここを訪れ、また健康な子供を育てるのに理想的な場所だと考えていた。
ニコライ1世は近郊で行われる演習の帰りに、ガッチナに立ち寄っていた。アレクサンドル2世の時代、ガッチナに皇帝の狩猟場を移し、外国の君主や大使を招いて、同時に重要な政治問題を非公式に協議していた。その息子のアレクサンドル3世は、ガッチナ宮殿を公式住居の一つとし、国の仕事をしながら、半年間滞在した。
ガッチナ宮殿は、皇族の他の宮殿と比べると、外観に違いがある。ペテルゴフやツァルスコエ・セロのラストレリによって建てられたバロック様式の横長の宮殿にも似ておらず、有名なヴィラ・ラ・ロトンダを基礎としているパヴロフスク宮殿にも似ていない。オルロフ伯爵は宮殿の建設に、当時ロシアで働いていたイタリア人の一流建築家アントニオ・リナルディを招いた。リナルディのエクステリアとインテリアは、パヴェール1世の時代に、宮廷建築家兼装飾家ヴィンチェンツォ・ブレンナによって一部改修されたが、全体的なデザインは守られた。
ガッチナ宮殿は初期の古典様式に分類されるのが一般的だが、実際には様式を明確にわけるのは難しい。外観は後期のイタリア・バロック様式や、ロココ様式、ヨーロッパの中世の城のロマンチックさを組み合わせたものとなっている。「ガッチナ宮殿には具体的なサンプルがない。だが現代の研究者は、ルネサンスとバロックの時代に類似性を見いだしている。イタリア・ローマのパラッツォ・フィエスキや、イギリスのマールボロ公爵のブレナム宮殿がそう。ロシアの建築遺産の中で、ガッチナ宮殿は最もロシアらしくない建物だが、これによっておもしろみが増していると言える」と、18世紀建築史家で国立美術研究所の主任研究員であるアレクセイ・ヤコヴレフ氏は話す。
皇帝の住居であるガッチナ宮殿は、建築だけでなく、絵画、彫刻、家具、磁器のコレクションなどでも有名になった。当時の人は宮殿を「郊外のエルミタージュ」と呼んでいたほどだ。だがソ連時代の最初の数年間と第二次世界大戦中に、この財宝の大部分が失われてしまった。変わらずに残っているのは、独特な建築のみである。
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