バーニャ係の職人芸

ミハイル・フォミチェフ/ロシア通信撮影

ミハイル・フォミチェフ/ロシア通信撮影

バーニャ(ロシア式蒸気風呂)とヴェニク(体を叩くための葉の豊かな木の枝)は、ロシアの風呂文化。蒸気のたちのぼる風呂で人々をリラックスさせるバーニャ係は、専門職として昔から存在している。現代のロシアのバーニャ係は、どのように暮らし、働いているのか。ロシアNOWが調べた。

 モスクワ市中心部にある「サンドゥノフ」バーニャで、バーニャ係のデニスさんと会った。地元民から「サンドゥヌィ」と呼ばれている1808年開業のこのバーニャは、モスクワでもっとも歴史の長い公衆浴場であり、とても人気がある。

 デニスさんはここですでに11年、バーニャ係として働いている。蒸気風呂に入ってきた訪問者をリラックスさせるため、デニスさんと同僚はしっかりと工程の管理を行う。風呂の清潔度を管理し、蒸気風呂の温度を維持し、ヴェニクで訪問者の体をパシパシと叩く。これらすべてが本格的なロシア・バーニャに欠かせない。一見簡単そうに見えるが、実際にはバーニャの作業は真の芸術であり、誰もができるわけではない。バーニャ係は難しい職業だ。

 

バーニャまでの長き道のり

 サンドゥヌィで働くバーニャ係は多才だ。専門職務以外にも、有資格マッサージ師として仕事をこなす。

 デニスさんは、ヴェニクで叩く技術よりも、マッサージを習得する方が簡単だと話す。「ヴェニクと蒸気をうまく使いこなす能力は経験から培われる」。若いバーニャ係は先輩の技を盗む。「バーニャにプロがいたら、その人がどんな風にヴェニクをあつかっているのか、蒸気を調整しているのかをしっかりと見て、技術を覚える。そうやって真似ながら、徐々に自分の流儀を身につけていく」

 バーニャ係には誰でもなれるわけではない。たとえバーニャの愛好家であったとしても。デニスさんは、就職試験が厳しかったと話す。「経験豊富なバーニャ係が横たわっていて、その人を相手に、その人のヴェニクを使って自分のスキルを示す。どれだけ正しく叩けているかが評価される」

 

バーニャ係の1

 デニスさんとその同僚の1日が始まるのは早い。最初に清掃をして、次にバーニャのドアを訪問者のために開ける。バーニャ係はバーニャの中で訪問者を迎え、健康状態について聞き、それに応じてヴェニクの木の種類を選ぶ。「オークは動脈圧をしっかりと回復させる。白樺は喘息の人や喫煙者など、肺の問題を抱えている人に役立つ」。ユーカリ、ペパーミント、その他ハーブの浸液を少量バーニャで噴霧することもよくある。これも健康にいいという。

 「1日に何度もマッサージをしたり、洗ったりすることもあるけど、訪問者の目的は蒸し風呂でのヴェニク叩きであることが多い」とデニスさん。平均で1日10回ほどのヴェニク叩きを行っているが、当然ならが、それより多いこともある。

 

バーニャ係の健康維持

 バーニャ係の仕事は大変だ。高温多湿の環境で作業する。

 1週間に1~2回バーニャに通うのは健康に有益で、デトックスができる。だが仕事で長時間バーニャの中にいると、体から必要なミネラルやカルシウムが排出されるため、健康には有害である。デニスさんは対策として、ビタミンやアミノ酸が役立つと話す。バーニャ係は栄養素の損失を補うために、特別なドリンクを飲んでいる。

 仕事のシフト制「2勤2休」も助けになっている。「休日に休息をとったり、運動したりすることができる。これは回復に役立つ。バーニャ係が普通の会社員みたいに週5日働いたら、体はもたない」とデニスさん。

 バーニャ係には頑健さが必要だ。肉体的にも、精神的にも。バーニャの中で人々はリラックスし、心から語りたがることも多いため、異なる訪問者との会話能力も必要である。

 デニスさんはうまく対応できているようだが、やはり例外もある。「ある時、2人の外国人が来て、バーニャに座って温まっていた。するとプールに飛び込んで、その中でいきなりヴェニクを使って体を叩き始めた。ヴェニクはプール用ではなくて、蒸気風呂の中で使うものだということを、一生懸命説明した」