アナスタシア・プシュコワ
在ロシア日本国大使館、国際交流基金と同料理スタジオが主催するこのワークショップの主役は、大使公邸料理人の樋口陽介さんと宮岡和幸さん。東京都内の日本料理「源氏香」で修業を重ねた末、海外への任務が決まったそうだ。樋口さんはこれまで、在ニューヨーク日本国総領事館でも公邸料理人として3年半勤め、外務大臣より「優秀公邸料理長」賞も受賞している。
現地の素材をいかに和風にアレンジするかが勝負
プロの二人が披露したのは、本格日本料理の三品:茄子とほうれん草の胡麻酢和えに、じゃがいもと鶏腿肉の煮っ転がし、そして、2種類の変わり天麩羅:海老アーモンド揚げとウナギの磯辺揚げだ。日本料理には珍しい、クラッカーやアーモンドのほかに、ロシア固有のベーシェンキ茸も使われているが、どれも樋口さんのアレンジ・レシピだそうだ。レシピのアイディアは、ニューヨーク勤務当時から、世界中の料理を市内のレストランで試食し、ありとあらゆる素材や調理法の組み合わせを考えてきたことから湧いているとのこと。
「外国で働くにあたって一番重要なのは、現地の素材になるべく早く慣れて、それを料理の中にどう取り組めるかを考えること。必要な調味料さえあれば、その土地の素材で和食にはなるので」と言う樋口さんも、ビーツなどのロシアの食材を日頃から料理に取り組んでいる。
日本食ブームで食材も豊富に
しかし、肝心な調味料であるミリンや鰹節、味噌や昆布がロシアではまだまだ手に入りにくいことで、実はシェフも困っているそうだ。日本料理に必要な材料の多くがまだまだ手に入らないそんなモスクワだからこそ、今回のワークショップは実用性を高めるべく、市内で手に入る材料のみを使用していた。「ウナギの蒲焼や焼き海苔など、それほど一般的ではないと思われる食材も、近年の日本食ブームのおかげで、実はいくつかのスーパーで購入することができるようになっています」と説明するのは在ロシア日本国大使館の日下部陽介参事官。
わずか1時間で素早く作り上げられた三品は、味と香りはもちろん、飾りつけにまでプロの心が行き届いていた。「ロシアだと、食材で旬をだすのは出来ないから、盛り付けで季節感を出しています。春だったらお花を添えたり、にんじんをお花の形にしたり。秋だったら枯葉とか紅葉をあしらったりと、そのような演出で季節感をだしています」と樋口さんは、すり鉢で香ばしい胡麻をすりながら、参加者の絶えない質問に答えていた。
「和食が普通に一般の食卓に並ぶようになって欲しい」
参加者は、数多く寄せられたアンケートから抽選で選ばれた、10代から60代までの20人。その中には、弁護士や教師、会計士や画家など実に様々だが、誰もが日本文化に熱い人たち。ワークショップ後の試食では、参加者の感想も聞けた。「ジャガイモやニンジンなど、普通の素材の味を引き出し、短時間でこんなに美味しく日本らしい料理が出来ることに非常に驚きました」と話すのは、学生のアンナさん(19)。IT企業のアナトリーさん(33)も、「今回はたくさんのことを学び取りました。早速家で作って見ます」と、やる気満々。
「このような事業を機会に、モスクワも早く、和食が他の料理と一緒に食卓に並ぶような時代になって欲しい」と、願いを寄せる料理人二人には、参加者の熱い拍手が送られた。
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