型破りな“コンセプト書店”

「Magic Bookroom」店=写真提供:Press Photo

「Magic Bookroom」店=写真提供:Press Photo

ロシアの大都市に一風変わった書店が続々と登場している。モスクワとサンクトペテルブルクで最も目立つ“知とエンターテインメントの牙城”をロシアNOWがご紹介する。

 売り場は狭いが、コンセプトは面白く、文化イベントが盛りだくさん。こんな新タイプの書店は、単なる販売拠点ではなく、コミュニケーション空間を兼ねている。クラブあり、講演あり、出会いの場あり…。重要なのは、経営者の趣味が現れた独特の雰囲気と品揃えだ。

 ベストセラーは売らず、利益は少ないものの、学術的、美的観点からより価値のある本を置くこともしばしば。この種の書店の多くは、零細出版社と協力している。それらの本は、大手書店では見つけるのが難しい。

 この手の書店のパイオニアは、モスクワの「プロジェクトOGI」(1999~2012年)と「ファランステール」。後者は、フーリエの構想した集合住宅の名に基づき、2002年にオープンし、現在も営業中だ。これらは、他の書店に影響を与え、新たな波を作り出す一因となった。

 

モスクワ:追加サービスが売り

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 こじんまりとしているが人目を引くのが、チェーン店「Magic Bookroom」で、2009年にオープンした。ここははっきりと、『不思議の国のアリス』をはじめとするルイス・キャロルの作品世界を下敷きにしており、楽しい遊び心を追求する。『アリス』には、絶滅した鳥のドードーが出てくるが、それを踏まえた「ドードーの集い」も行われる。ファンタジックな物語の再現は他にも色々ある。

 小さな書店「ホダセーヴィチ」を訪れると、面白いサービスを提供してくれる。古本もあるし、書棚を探すと、ごく安値または無料の本まであるほか、この本屋を図書館として利用することもできる。ひと月250ルーブル(約750円)で、どんな本でも10日間借りられる。予約期間は2カ月、半年、1年間の3通り。

 「新刊は平均400ルーブル(約1200円)はしますから、250ルーブルで自由に月数冊読めるなれば、当然こっちの方が得です」。こう店主のスタース・ガイボロンスキーさんは言う。またこの店には「本の探偵」もいて、どんな稀覯本でも見つけてくれる。もし自分で見つけられなかったら、1000~1500ルーブル(約3000~4500)のサービス料を払って“探偵”に依頼してみてはどうだろうか。

 

サンクトペテルブルク:雰囲気重視

 サンクトで最初に登場した新世代書店は「言葉の順序」(wordorder.ru)で、2010年1月に開店した。書棚には良質のノンフィクションがずらり並んでおり、講演と映画上映も行われる。作家や映画監督もゲストとして招かれる。

 2011年、宮殿広場に隣接して、書店「誰もが自由」(vse-svobodny.com)がオープン。「サンクトの個人の書斎のような雰囲気」だと創立者は言う。「我々にはいくつかの原則があります。第一に本が安いこと。第二に、一過性の際物は売らない、第三に人文系統にしぼる――これが我々に身近ですから。第四に独立性」。ビニール製品の売店とカフェが付属しているのも嬉しい。

 2013年にサンクト2軒目の“コンセプト書店”となる「われら」(my-bookstore.org)が開店。ここは、サンクト有数の老舗でかつては軍事関係の書籍を扱っていた。創立者によると、「自分達の店はより一般的で、一般向けの科学書と児童向けの本に重点を置いています」とのこと。

 この書店「軍事書籍」は新時代に適応できなかったが、ソ連時代から続いているチェーン店「予約購読」は、2012年に面目を一新し、サンクト最高の人気書店の一角を占めている。

 「内装を変え、品揃えを増やしました」と、共同所有者ミハイル・イワノフさんは説明する。「知的な本と児童書に焦点をしぼることにしたのです。海外の本も入荷しましたし、芸術、デザイン、モードのユニークな本もあります」

 店内にはカフェもあり、昔懐かしいLPから音楽が流れ、BGになっている。客は自分の好きなレコードをかけていい。

 さらに最近同店は洒落たキャンペーンを始めた。都市建設とビジネス関係の書籍をサンクトの役人にプレゼントするというものだ。「彼らが最先端の経験に目を向けてくれればいいなと思います」。イワノフさんは動機をこう説明した。

 

地図上に現れては消える…

 ほかにも興味深いプロジェクトは少なくない。モスクワでは、「読書室」、「児童書店」、「ツィオルコフスキー」、「私の本」、サンクトでは「Books&More」など。

 しかし、この手の書店はマップ上に現れるや、すぐに消えてしまうことが多い。大手チェーンには太刀打ちできないからだが、シャシ・マルトゥイノワさんによると、活路はあるという。「ロシア語圏でも、ユニークなコミュニケーション空間という形態で、独立した路線をとる零細書店が生き残れる希望はあると思います」

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