現代ロシアに生きる仏教

仏教を伝統的宗教とするブリヤート人、カルムイク人、トゥバ人がモスクワに約10万人暮らしている=ラミーリ・シトディコフ/ロシア通信撮影

仏教を伝統的宗教とするブリヤート人、カルムイク人、トゥバ人がモスクワに約10万人暮らしている=ラミーリ・シトディコフ/ロシア通信撮影

仏教徒はロシアにおいて、多数派ではない。だがその人数は着実に増えており、現在は70万人ほどいる。仏教徒は活発な宗教生活を送り、国内で巡礼し、祝日に集まって仏教について語り合っている。ロシア人のほとんどは仏教を寛容に受け入れているが、ヒンドゥー教やクリシュナ教との違いがわからない人も多い。

信者の人数とその地域

 ロシア東部のブリヤート共和国、トゥヴァ共和国、カルムイク共和国、アルタイ地方、またザバイカリエ地方、イルクーツク州では、伝統的に仏教が信仰されている。仏教徒社会はモスクワ、サンクトペテルブルク、その他ロシアの複数の都市部に存在する。

 2012年に行われた社会学的調査によると、ロシアの仏教徒の人数は、人口全体の1%弱にあたる約70万人。モスクワ・ツォンカパ・ラマ仏教センターの ドミトリー・ニキフォロフ理事によると、ソ連時代の無神論の影響で、仏教の関係者や施設がほとんど存在しなくなったことから、今のような状態になっているという。「ロシアで仏教は伝統的な宗教のひとつであるにもかかわらず、あまり多くを知られていない。ヒンドゥー教やクリシュナ教などと混乱している人が多い。これは70年間続いた共産主義体制が原因。仏教は他の宗教とは異なり、ほぼ撲滅された。残ったのはブリヤート共和国のダツァン(寺院)だけ。ペレストロイカの後で、ゼロからの立て直しを余儀なくされた」

 ロシア人はこの宗教に確固たる興味を抱いているとニキフォロフ理事。「ロシア人の間にはそこそこ強い仏教への関心が存在しており、我々のもとにはほぼ毎日、興味本位や学びたい気持ちの人が訪れる。講義が行われる時は講義室があふれんばかりになっている」。数年前から学校教育に基礎宗教学が導入されているため、センターの見学が行われるようになったのだという。

 モスクワでは仏教寺2堂の建設許可がおりているものの、今はその数ゼロである。仏教寺がないと、信者数も増えない。

 仏教徒であっても仏教行事に参加しない人も大勢いるため、モスクワの正確な信者数の把握は難しい。「仏教を伝統的宗教とするブリヤート人、カルムイク人、トゥバ人がモスクワに約10万人暮らしている。集会に参加しなくても仏教徒と呼べる。常設の寺院があれば、信者はもっと多くなるだろう。信者数が何人かははっきりわからないが、約500人がひんぱんにセンターに来て、あと200~300人が講義を受けている。祝日やラマとの面会にも人が訪れるが、全体的な人数を数えるのはかなり難しい。モスクワに当センターのようなセンターは5ヶ所もない」とニキフォロフ理事。

 

巡礼者、ヨガ、チベット語

ロシアでは仏教寺が少ないこと以外、仏教徒としての生活に苦労はなく、書物もたくさんあり、特別な宗教服を身につける必要もない=イゴリ・ルッサク/ロシア通信撮影

 センター自体は小さなクラブのように見える。場所はモスクワの中心部に近い、普通の建物の地下。この部屋は市政府が保有し、特恵条件でセンターに貸している。集会以外にも、チベット・ヨガやチベット語の教室が行われている。「ロシア在住15年のチベット人医師が教えている」とニキフォロフ理事。

 ロシアでは仏教寺が少ないこと以外、仏教徒としての生活に苦労はなく、書物もたくさんあり、特別な宗教服を身につける必要もない。ニキフォロフ理事によると、ロシア人の仏教徒に対する考え方は中立的だという。「仏教徒でいることとは、人生が一度きりではなく、生まれ変わることを意識するもの。特別な規則で縛ることはないため、慣れた普通の生活を送ることができる。書籍は十分にあるが、英語やチベット語からの翻訳が難しいこともある。英語はなんとかなるが、チベット語だとそうはいかない。それでもノボシビルスクには、月1~2冊を出版している、特別な出版社がある」

 ロシアの仏教徒は、仏教が伝統的に信仰されている地を積極的に訪問している。ニキフォロフ理事は、世界観を広げられるような、良好な空気が今のロシアにあると話す。「ロシアには教える人がいて、巡礼地があって、教義を広めることのできる優れた基礎がある。カルムイク共和国、ブリヤート共和国、トゥヴァ共和国にはたくさんの寺院があり、ロシア人や外国人が訪れている。モスクワに一番近いのはカルムイク共和国のダツァン。昨年は当センターから1000人以上 がロシア国内で巡礼を行った」。

 ロシア南部のサラトフに暮らすセルゲイさんは、数年前、35歳の時に仏教徒になった。サラトフには仏教寺がないため、仏教を学ぶためにカルムイク共和国を訪問。1日以上バスに揺られて行ったが、その価値はあったという。ブリヤート共和国やトゥヴァ共和国は遠く、費用が高くなるが、セルゲイさんはそれらの寺院に行くことも考えている。