ローゼンバーグ夫妻を原爆スパイとして処刑

逮捕されたローゼンバーグ夫妻、1951年 写真提供:New York World-Telegram and the Sun Newspaper Photograph Collection

逮捕されたローゼンバーグ夫妻、1951年 写真提供:New York World-Telegram and the Sun Newspaper Photograph Collection

1953年の今日、6月19日に、電気技術者であったジュリアス(当時35歳)とエセル(37歳)のローゼンバーグ夫妻が、原爆製造に関する機密情報をソ連に渡したとして、電気椅子で処刑された。この事件の核心部分にはいまだに謎が残っている・・・。

ベノナ計画の資料でスパイ行為は明らかになったが 

 1950年2月にイギリスで、ドイツ出身の核物理学者クラウス・フックスがスパイ容疑で逮捕された。彼は、マンハッタン計画でアメリカの原爆製造に貢献したが、同時にソ連に機密情報を流していた。

 そこから芋づる式に、同年6月に米国で、ロスアラモスの核施設に勤務していたデヴィッド・グリーングラス(エセルの実弟)とその妻ルースが、そしてローゼンバーグ夫妻が逮捕された。

 1995年にベノナ計画の資料の一部が初めて公開されたことで、現在では、ジュリアスが多くの機密情報をソ連に流していたことは、明らかになっている。

 ベノナ計画とは、米英の協力による暗号解読の極秘プロジェクトであった。

 

原爆製造の最高機密の漏洩はあったのか 

 ただし、現在にいたるまで、ジュリアスが流した資料のリストは完全には公開されておらず、そのなかに、“原爆製造の最高機密の漏洩”が含まれていたかどうかは分からない。

 ソ連のスパイ、パーヴェル・スダプラトフによると(彼は、レフ・トロツキーなど、一連の暗殺の組織者だ)、ジュリアスは、原爆製造機密の主な情報源ではなく、主に化学とレーダーに関する情報を入手していたという。

 だがジュリアスは、判決文にあるように、「幾千万の生命を脅かすがゆえに、単なる殺人よりも悪い」と糾弾された原爆機密のスパイで、死刑を言い渡されたのであった。

 このように事件の核心部分は今日まで謎として残っている。

 

妻エセルの死刑への疑問 

 ジュリアスの妻、エセルの極刑については、さらに疑問が大きくなる。

 裁判では、グリーングラス夫妻は、デヴィッドがロスアラモスの核施設で盗んだ機密情報をエセルがタイプしたと証言し、彼女がスパイ活動に直接関与していた、と主張した。

 ところが、米国立公文書館は2008年、裁判に先立って提出された大陪審の940頁に上る証拠を公開したが、それによると、ルースは、エセルがタイプしたとは証言しておらず、ルースが自分で機密情報を手書きしたと証言していた。その情報はジュリアスを通じてソ連に流されたという。

 デイヴィッドは、2001年になって、「自分の妻をかばうために法廷で偽証して、姉エセルの罪を重くした」と告白した。

 なお、デイヴィッドは、獄中から友人に書いた手紙でも、自分はローゼンバーグ夫妻に罪を被せるために偽証したと述べている。この書簡は夫妻の弁護側の手に入り、最高裁で証拠として提出されたにもかかわらず、なぜか却下されている。

 

国際政治と連動 

 よく指摘されるように、ローゼンバーグ事件が起きたのは、ソ連の原爆保有(1949年)が明らかになった翌年で、死刑判決(1951年4月5日)は、朝鮮戦争で、米軍が中朝軍に圧されて一方的に後退し、ようやくソウルを奪回したという時期であった。判決文には、「核の情報を得ていなかったら、共産軍はおそらく、朝鮮に手を出さなかっただろう」と書かれており、夫妻の死刑判決が国際政治と連動していたことを示唆している。

 最高裁の死刑判決後も、大統領官邸と夫妻の収監されている監獄との間には、直通電話が架設され、最後の瞬間まで、夫妻がスパイ容疑を認めれば、大統領令によって刑一等を免ずる手はずになっていたが、夫妻は潔白を主張し続け、死を選んだ。

 夫妻は、確認されているかぎり、米国でスパイとして処刑された唯一のケースである。

 

息子たちへの手紙 

 「あなたたちが大きくなるうちに、きっと分かってくることですが、よいことは悪いことのなかでは、ほんとうに栄えられないものだし、自由とか、ほんとうに満足のゆく、生甲斐のある生活のもとになるようなものはみんな、大変な犠牲をはらわないと、求められないこともあるのです。・・・・・・それに生きるために命をすてなくてもいいほどには文明は進歩していなかったし、それに又、ほかの人たちが後をうけついでくれるとかたく信じて、お父さんとお母さんははげまされていたんだ、とこう考えて心を慰めてください」

 

(「愛は死をこえて」(夫妻が獄中から幼い2人の息子に送った書簡集)。