感性豊かな日本人

マリインスキー劇場の『白鳥の湖』=タス通信撮影

マリインスキー劇場の『白鳥の湖』=タス通信撮影

とあるモスクワのアパートで数年前、天皇陛下の健康を祝して乾杯した。以来、また無性に日本を見たくて仕方がなくなった―。そう語るのは、日本に37回訪れた名プリマ、マイヤ・プリセツカヤ氏と、日本の「1000人のチェロ・コンサート」のために曲を書いた、ロディオン・シチェドリン氏だ。

 ロシアの音楽をこれほど愛し、ボリショイ劇場やマリインスキー劇場の演劇を感動しながら観ることができるのは日本だけだと話すのは、ボリショイ劇場広報担当のカテリナ・ノヴィコワ氏。

 ノヴィコワ氏は日本・ロシアフォーラムの参加者となったが、それはボリショイ劇場が日本で公演しようとしているからではなく、ノヴィコワ氏が日本語を知っていて、日本に1年ほど住んだ経験があるからだ。日本人はそのさまざまな感覚の中で、自尊心がもっとも発達しているため、日本には一様性や同一信仰がないのだという。

 文学研究者のリュドミラ・サラスキナ氏の日本での経験も多くを物語っている。東京外国語大学の亀山郁夫学長がドストエフスキーの「悪霊」を翻訳した際、ドストエフスキー研究者としてサラスキナ氏を東京の記者会見に招待した。サラスキナ氏はその場で、驚くほど正鵠を得た、しかし意外な質問に4時間も答え続け、さらにモスクワに戻った後も、8ヶ月間に渡り、日本人読者の質問に答え続けた。その結果、「ドストエフスキー『悪霊』の衝撃」という亀山氏との共著まで出版されることになった。

 日本では現在、「カラマーゾフの兄弟」がTVドラマ化され、放映されていることもあり、サラスキナ氏は日本のメディアから注目されている。そしてまたたくさんの日本人が、「何が世界を救うのか」、「赤ん坊の涙一滴にどのような価値があるのか」などの質問の答えを、ロシア人とともに探しているのである。

 

 コメント:リュドミラ・サラスキナ、文学研究者

 リュドミラ・サラスキナ=PhotoXpress撮影

 日本では「カラマーゾフの兄弟」が、「東京大学教授が新入生に読ませたい小説NO.1」になっている。亀山郁夫氏が翻訳した「カラマーゾフの兄弟」はミリオンセラーになった。

 ドストエフスキー生存時、この本はロシアで3500部出版され、1976年に20万部が学術出版された。母国でもドストエフスキーの小説がミリオンセラーになったことはない。

 どうやったらロシアで、ロシアの長編小説である「カラマーゾフの兄弟」に、これほどの数の読者を獲得できるのだろう。

 グローバル時代の人々にとって、「カラマーゾフの兄弟」は極めて深みのある物語だ。日本の読者の心をつかんだのは、推理小説的な部分、父親殺害の秘密、「神がなければすべてが許される」という考え方だけでなく、この小説全体にあふれる破滅的な世界の感触だろう。

 長編小説「悪霊」に対する日本人の解釈にも驚かされる。まるで新作を読んでいるような感覚だ。スタヴローギンの悲劇を、自分の身内や友人の悲劇のように読み、この不幸な人物の死を嘆き悲しむ。スタヴローギンは国を問わず、偉大なる人物でも誰にでもなれたというのに、人生は終わってしまう。首を吊って。何が素晴らしい人々を自殺に追いやるのか。これは私たちが一緒に思考を巡らせる疑問だ。

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