華麗で険しい白鳥への道

=ウラジミル・ヴャトキン/ロシア通信撮影

=ウラジミル・ヴャトキン/ロシア通信撮影

バレエを始めるきっかけはさまざまだ。子供たちの多くは、小学校に上がる前にこの運命的な決定をする。

マリインスキー劇場のソリスト、アナスタシア・コレゴワさんはこう話す。「5歳の時、チェリャビンスクで初めてバレエ『白鳥の湖』を見て、おとぎ話を見たような感動を受けたの。その後すぐに、この職業を選ぶことを固く決意したわ」。

 

始めたきっかけは各人各様 

プリマやプリモの経歴には、子供時代にテレビでバレエを見て魅了され、テレビの前でダンサーの真似をしながら踊っていたという話がたくさんある。ボリショイ劇場のプリマ、アナスタシア・ゴリャチェワさんは、アンナ・パヴロワの映画を見てバレリーナになることにしたという。

時に子供ではなく、親がバレエへの道を決めることもある。有名なバレリーナのナターリア・オシポワさんは、当初体操をやっていたが、「ママをとっても愛していて、がっかりさせたくなかったから、バレエに変えた」と話す。ボリショイ劇場のプリマ・バレリーナ、エカチェリーナ・シプリナさんのように、バレエ一家の子供だと、運命は最初から決まっている。「子供時代は妹と劇場に行くと、必ず舞台のそでに立って、パパとママを見ていたわ。これ以外の道は存在しなかった」。

一旦バレエの道に進むことを決断すると、テレビに映っていた「美」は、毎日の厳しい練習を重ね、何年も経過してからようやく達成できるものだとわかる。

 

入った後のイバラの道 

ストレスはバレエ学校の入試からすでに始まる。子供だからといって容赦はない。健康状態、体型、柔軟性、筋群の強調、姿勢、音感などが調べられる。以前は選定委員会が国内をまわり、僻地などにも赴いて、才能のある子供たちを発掘していた。ボリショイ劇場のプリマ、スヴェトラーナ・アドィルハエワさんはその選ばれた一人だ。だが現在このような委員会はほとんど存在していない。

モスクワ・バレエ・アカデミーやサンクトペテルブルク・バレエ・アカデミーの入試(競争率数十倍から数百倍)も、女児向けしか残っていない。収入が圧倒的に多いプロ・スポーツの躍進で、息子にバレエをさせようとする親が減ったのだ。また、バレエ劇場に所属している青年は兵役を免除されていたが、現在はそれもなくなった。バレエ・アカデミーのふるいわけも厳しく、例えば男の子が毎年行われる試験で5段階評価中2を取ったり、女の子が思春期に体重が増えたりすれば、卒業寸前であっても一般の学校に追い出されてしまう。

厳しい時間割(一般の学校の授業科目、毎日のバレエ・クラス、バレエ史やピアノなどの特別科目で構成)で、自由に遊ぶ時間も確保できない。遠くから来ている子供たちが、親と離れて別の街に暮らすことに慣れるのも大変だ。有名なバレリーナのスヴェトラーナ・ザハロワさんは、寄宿舎の7人部屋で生活した。「子供時代は瞬時に過ぎ去り、生き残り競争が始まった」。

子供の時から競争とは何かを理解しているものだが、バレエ・アカデミーの子供たちは小さい頃からすでに、職業の厳しさを悟り、何のために血が出るまで足を酷使するのか、眠れないのかを知る。

 

トウシューズにガラスの破片? 

卒業の足音が聞こえてくると、最終試験に向けた準備が始まり、誰がどこの劇場に獲得されるかという話題で熱気を帯びてくる。するとトウシューズにガラスの破片が入れられる、コスチュームがナイフで切り刻まれる、コネなしで出世できないといった、劇場に関する怖い(大げさな)噂話が広まって生徒たちを脅えさせたりする。卒業間近になれば、誰がボリショイ劇場に行くか、またマリインスキー劇場に行くかということを先生も生徒も知っているが、最終的な発表は、各劇場の代表者が行う。彼らは名門バレエ学校の試験官でもある。

卒業生の多くはあまりステータスの高くない劇場で我慢しなければならず、外国に行く人もいれば、別の道を選ぶ人もいる。劇場に来たばかりの新人は、花形になれる潜在性があっても、コール・ド・バレエに入る。ここでしつけが身につき、経験を積むことができると考えられているためだ。だが誰もが32人の中で学ぶことを望むわけではない。ベルリン国立バレエ団の芸術監督であるウラジーミル・マラホフさんは、モスクワで卒業後すぐに、ボリショイ劇場が獲得しようとしていた、ポリーナ・セミオノワさんを誘い込んだ。セミオノワさんは現在の国際的なバレエ・スターである。

若きダンサーのキャリアには、創造の喜び、避けられないケガ、内部のもめごとなど、さまざまなことが待ち受けている。それでもひとりひとりが、醜いアヒルの子から白鳥に変わりたいと願っている。この白鳥こそが、有名なロシア・バレエのシンボルだ。

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