日本文化のブランド力を実感

「花のあと」、中西監督。=写真提供:kinopoisk.ru

「花のあと」、中西監督。=写真提供:kinopoisk.ru

第46回日本映画祭

 

「こんなに来てくれて本当に嬉しいです。ぼくの映画は、原作はこれが言いたいんだろうということを表すようにしていて、観客受けする要素を加えたりはしません。地味だと思われるかも知れない。客席がガラガラだったらどうしようと心配していました。ところが満席。しかも、日本で笑ってくれるところで笑いが起こり、静まるところはシーンと静まりかえった。ホッとしました」。この映画祭のために日本から駆けつけた中西健二監督が笑顔を浮かべて話す。監督は新作の仕事でオープニングには間に合わなかったが、撮影を終えて夜中に荷造りし、一番集客が見込める土曜と日曜の映画上映と、その後の質疑応答のためにモスクワに来てくださった。

原田親仁駐ロシア大使の挨拶で始まった日本映画祭は、今回、46回目にあたる。年に一度の開催なので、半世紀近く続いている歴史ある催しである。かつてのソ連時代には、外国に向かって開かれた文化の窓のようなものだった。最近では、ロシアの各地で頻繁に日本のアニメ・フェスティバルが開かれ、コスプレの催しも多くの熱烈なファンを集めている。それで今回は劇映画ばかり9本を、都心の人気館である「35mm」映画館で11月14日から7日間上映した。

中西監督の作品は、女剣士の復讐劇を美しい桜のイメージの中に描きだした藤沢周平原作の「花のあと」と、いじめの問題をかかえる学校に赴任してきた吃音の先生と生徒たちの交流を描いた重松清原作の「青い鳥」の2本。他には「トロッコ」、「君に届け」、「阪急電車 片道15分の奇跡」、「岳」、「ゲゲゲの女房」、「書道ガールズ!!私たちの甲子園」、「武士道シックスティーン」で、時代劇から現代もの、シリアスなものからコミカルなものまで多様多彩な作品が入っている。

会場は連日満員で、しかも映画上映後の9時頃から始まる質疑応答にも、土日の二日間で約200名が参加した。「青い鳥」の後では、ロシアにもいじめはあるので、日本の状況を詳しく聞きたいという質問や、この映画の中で自然の描写は雨しかないのはなぜかとの問いに、自然がないのは学校の中を普遍的な空間として描くためであり、雨は現実のつらさを表しているというやりとりがあった。また「花のあと」では、立ち居振る舞いの作法が今も残っているかとの問いに監督が残っていると答えると、驚きの声が上がった。

9月から12月までだけでも40を超える日本文化行事がモスクワでは行われ、それぞれが多くの日本文化ファンを魅了している。日本文化はすでにブランドであり、今回もその力を実感している。

 

日下部陽介

在ロシア日本大使館参事官(国際交流基金)

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