魚の王様

=Lori/Legion-Media撮影

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ロシアの歴史学者の計算によれば、まだ18世紀に、ロシア人の一日の食事量の50%~60%が、川や湖で獲れる魚だったという。その穏やかで美味しい味覚は、香辛料で損ってはならないとされていた。

魚は、夏は斎日に、冬はほとんど毎日食された。庶民にとってその他の食物は貯えが乏しく、氷面下の漁が行われることはまれだった。

多様な調理法 

 魚は、食べ飽きないように、いろいろな方法で調理された。ロシア料理では、魚は日干しにしたり、そのままの姿で焼いたり細かく刻んで炒めたり、蒸し煮したり、詰め物をしたり、燻製にしたりする。ついには澄んだ魚のスープ「ウハー」を作ったりもするが、この種のスープは世界の料理にも例を見ない。

刺身やカルパッチョに似た調理法さえある。極北地方では生魚のまましっかりと凍らせた魚を紙のように薄く切り、その融けかかったばかりの魚をマリネにして出す。これは「ストロガニーナ」という料理だ。またシベリアのいくつかの地域では、獲れたばかりの魚を「串刺し」にして料理する。内臓を取った魚をまるのまま、棒の割れ目に差し込み、それを大きな焚火のそばに刺して、ゆっくりと回転させる。

淡水魚の宝庫 

もっとも、ごく簡単な調理法でも、ロシアで出合う多くの魚が嫌になるのは難しい。ここの川や湖の淡水域、とくに北部の淡水域には、カナダや北欧のいくつかの地域を除けば、西欧では普通、知られていないような美味しい種類の魚が棲息している。たとえば重さ10~20キロのコクチマスのような、ウスリーシロザケ科のいくつかの魚がそれにあたる。お祝いの日の食卓を飾るのは、ロシア・ヨーロッパ部の水域で、まれに見られる小さな淡水チョウザメ。

オカ川流域にチョウザメが 

残念ながら、多くの種類のユニークな魚が、すでに絶滅してしまった。たとえば、ロシア帝国北西部のベーロエ湖に棲息していた有名なチョウザメの亜種は、すでに19世紀に絶滅した。そこの河川に水位調節の閘門を備えた運河が建設されたせいだ。運河は水路による交易を促進したが、チョウザメの産卵地への水路を遮断してしまった。ダムでふさがれ、密漁者によって乱獲されたボルガ川でも、チョウザメの事態はさほど思わしくない。 

しかし近年、産卵地への水路になるくぐり穴がダムに作られたり、川や湖に稚魚が放流されるなど、状況はいくらか改善されてきた。最近、オカ川流域でもチョウザメが見られるようになった。オカ川といえばモスクワのすぐ近くで、100年ばかり、その水域でチョウザメが獲れることはなかった。

素材の味を生かす 

 全体としてロシア料理は、2つの基本的な流れに分類できるだろう。大半の料理では、地元の料理人は、日本料理のように、素材の自然な味を強調しようと努める。少数の料理には、インド料理のように、素材がわからぬほどに味を変えようとするものもある。魚料理は普通、前者の調理法だ。ニンニクは海水魚だけに使い(海水魚のレシピのほとんどは借りもの)、遡河魚(海から川に産卵にのぼる魚)や淡水魚には使わないという不文律がある。穏やかな味を損わないために必要なのは、塩と黒コショウだけだ。青ものとレモン汁もよいが。もちろん、例外はある。チョウザメの肉を使った、香ばしい魚のスープ「サリャンカ」がそれで、これにはニンニク、唐辛子、黒コショウ、レモン、ケーパー、トマト、オリーブの実を入れる。

私たちにとって魚は、過去も未来も、食物の王様であり続けるだろう。幸い、ロシア人がこの王様を王座から引き下ろすことはできずにいる。

レシピ:珍味「昔風の魚の蒸し焼き」 

ここで、由緒正しい料理だが、あまり知られていない料理を何かこしらえてみよう。たとえば、「昔風の魚の蒸し焼き」。

材料 

最適なのは、たとえばペリャッチのような、ウスリーシロザケの仲間の小型魚だが、一人前で重さ300~400グラムほどのニジマスもよい。身はピンク色でも白身でもかまわない。

作り方 

魚のうろこを取り、内臓を取り、背骨から丁寧に血抜きをする。熱を加える15分前に塩をふり、挽きたての黒コショウをふり、レモン汁をかるくかける。蓋をする前に、溶かしたバターを魚の背にぬり、腹部にエストラゴン一本と薄荷2本を入れる。やわらかくなるまで、大きさによって20分から30分蒸し焼きする(最初は強火にし、水が沸騰したら中火にする)。

ソース 

バター小さじ2杯を、乳清から分離させて溶かす。または溶かしたバター小さじ1杯半を取る。その中で、篩にかけた小麦粉大さじ1杯を、赤みがさすまで炒める。ソースを入れたフライパンに魚の下からすくったブイオン小さじ数杯と、腹部から取り出して、細かく刻んだ香草の葉(茎ではない!)を加える。出来上がったソースをよく混ぜ、温める。ただし煮立たせないように。お好みにより、塩、コショウをふる。

 ソースは別のソース入れに入れて出し、魚には、皮をむいたレモン数切れとパセリを添える。