=ロシア通信撮影
先週、ウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC・CEOサミット)の首脳会議が開催された。市中心部の金角湾にはAPECに合わせて巨大な斜張橋が登場。今後市民の生活インフラとして大きな役割を果たす。
仲嶋さん大奮闘
高さ226㍍の灰色の主塔。この塔に使われているコンクリートを納入したのは、つい数年前までロシアと縁のなかった日本企業だ。北海道苫小牧市に本社がある會澤高圧コンクリートである。現地企業との合弁を通して、基礎工事の段階から関わった。
「4年前に初めて訪れたときは街のインフラの古さに驚きましたが、着実に変わってきましたね」。會澤の現地責任者として3年強をウラジオで過ごした仲嶋丈晴氏(44)は、変化を肌で感じている。
地方の中堅企業がロシアの国家事業に参入したのは異例だ。日本企業が外国の大プロジェクトに参入する時は日本の有名商社とコンソーシアムを組むのが定石だが、會澤は商社と関わっていない。
実は、會澤はこの工事を受注する前からウラジオの建設市場に進出していた。
今回のAPEC準備には多くの日本企業が参加した。ルースキー島の橋梁工事では、ボーリング機材で伊藤忠商事とIHI、同島への送電ケーブルで丸紅とジェイ・パワーシステムズが参入した。
このほかのインフラ整備事業に新日鉄、双日、川崎重工なども名前を連ねる。近い将来ルースキー島にできる大型水族館には、香川県の日プラによる水槽用アクリルパネルが採用されている。
ロシアNIS貿易会(ROTOBO)からの紹介がきっかけで、地元建材業者のザハール社と合弁会社を設立したのは2008年の夏。出資比率は半々。このときの事業は、崖の崩落を防ぐために覆いとして施す「コンクリート擁壁」の販売だった。構造、耐久性、施工法のどれもがロシアの従来品とは異なり、高い評価を得た。
この合弁会社が翌年2月、APEC関連の橋梁工事を受注しているゼネコンから、主塔用に生コンクリートを納める仕事を受けた。
合弁相手であるザハール社の幹部がこのゼネコンと関係が良好だったことが影響した。契約のわずか3か月後には橋の建設予定地に生コン生産設備を造り、供給が始まった。
現場に常駐する日本人は技術者の仲嶋氏一人。現地採用したロシア人を教育しながら、取引先との折衝や総務的な仕事もやった。ロシア語はわからないが、弱気や妥協の姿勢を見せたら責任者は務まらない。通訳を介し、ロシア人に向かって声を荒らげることも度々だった。
會澤は日露ビジネスのコンサルと契約していない。費用対効果への疑問からだ。このため進出当初は業界の一部から「ロシアを知らないのに無謀すぎる。必ず失敗する」といった陰口も聞かれた。
だが、會澤は大きな問題を起こすことなく生コンの供給を続け今年4月、両岸から伸びた橋桁は中央で無事につながった。「さすがに感無量でした」と仲嶋氏は言う。
受注はAPECで終わらない。ウラジオ近郊での国道脇の整備工事など、新たな受注が続いている。
仲嶋氏は「価格と品質が良ければ成功すると言い切れないのがロシア。現地では信頼できるパートナーを前面に出して、日本企業は裏方に回るぐらいが良いのでは」と語る。日露ビジネスを成功に導く一つの考え方かもしれない。
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