1. トゥーリスキー・プリャーニク(トゥーラのスパイス入り糖蜜焼き菓子)
古代エジプトで有名だった「蜂蜜パン」がロシアの土地に伝わったのは、9世紀の話だ。当時は、ライ麦粉に蜂蜜とベリーの果汁を混ぜて、つくっていた。プリャーニクという名前がついたのは、12世紀から13世紀、インドや中東からロシアに持ち込まれるようになったプリャーノスチ(香辛料)が加えられるようになってからだ。ロシアで一番有名なプリャーニクは、モスクワから南に200キロのトゥーラ市でつくられる、パヴィドラ(すりおろし果実の砂糖煮)やコンデンスミルクが中に入った、長方形の平らなプリャーニクで、トゥーリスキー・プリャーニクと呼ばれている。
2. パスチラー(果汁と砂糖と卵白の焼き菓子)
ロシアの商人は、アラブの国々と広い交易関係にあった。ロシアで二番目に人気のスイーツであるパスチラーが、ロクムにそっくりなのは偶然ではない。ただ、14世紀にルーシに登場したパスチラーの主な材料は、ロシアの酸味の強いリンゴと蜂蜜だった。最もおいしいとされていた、コローメンスコエのパスチラーのレシピは、フランス人がリンゴのピューレに泡だてた卵白を加えた、新しいスイーツのフランツースキー・ゼフィール(フランスのゼフィール)を発案する19世紀まで、明かされることはなかった。同じく19世紀、ロシアの菓子職人が材料の蜂蜜を砂糖に変え、それが今日のレシピとなっている。
3. ケーキ「鳥のミルク」
どこの鳥に乳が出るのだろう。この意味の通らない名前と、長方形のぶ厚いケーキにチョコがかかっただけの飾り気のない外観のケーキは、ロシア最高のスイーツのひとつだ。レシピは菓子職人のグループが、モスクワのレストラン「プラハ」の製菓部料理長、ウラジーミル・グラリニクの指導のもとで、レシピを考案し、フランスのゼフィールのアレンジ版となった。このケーキは今でもロシアで大人気だ。
4. チャク・チャーク(蜂蜜焼き菓子)
チャク・チャークは、チュルク系民族から伝わった、ロシアで人気の高いスイーツだ。現代でも、ロシアで人口の多い民族である、タタール人やバシキール人の民族料理となっている。パスチラーとは違い、チャク・チャークのレシピは古代からほとんど変わっていない。このアジアのスイーツは、小麦粉と卵を混ぜてつくった柔らかい生地を、バーミセリのような細くて短い棒状や球状にして油で揚げ、蜂蜜をもとにした熱いソースを揚げ終わった生地にかけ、山の形にまとめていく。かたまるまで待ったらできあがり。
5. ケーキ「プラハ」
これはウィーンの「ザッハ・トルテ」をアレンジしたものだが、あまり関係のないチェコの首都プラハの名前がつけられている。考案したのは、ケーキ「鳥のミルク」と同じウラジーミル・グラリニクで、仕事を始めたばかりの頃、製菓工場で、経験交換でチェコスロバキアからモスクワに定期的に来ていた職人に習った。このケーキをつくるには、コニャックやリキュールの入ったクリーム4種類と、ラム酒入りのコルジ(イースト菌の入っていない焼いたパン)が必要となる。
6. ヴァトルーシカ(チーズやジャムをのせた小型パイ)
もうひとつ、歴史あるスイーツの代表がある。ヴァトルーシカは、古代スラブ人の料理にすでに登場していた、最もシンプルなスイーツである。これはレピョーシカ(扁円形焼き菓子)で、イースト菌入りの生地に牛乳、バター、卵などで味付けしたものからつくる。酵母の入っていない生地を使うこともある。パイの上には、砂糖入りカッテージチーズ、ヴァレーニエ(ジャム)、コンデンスミルク、パヴィドラ(すりおろし果実の砂糖煮)などの簡単な甘味をのせる。レシピは簡単だが、需要はあり、店頭でよく見かける。
}
7. チュルチヘーラ(ナッツ飴)
2014年ソチ冬季五輪に行ける人は、クラスノダール地方の保養都市で一般的な、このスイーツを楽しめるだろう。糸に通したナッツを、ぶどう果汁と小麦粉を混ぜた飴状の液体につけてつくる。このスイーツには、グルコース、フルクトース、植物性油脂、たんぱく質、有機酸、ビタミンが豊富に含まれていることから、とても健康に良いスイーツだと言える。できあがるまでの時間は、ここに紹介するスイーツの中で最も長いだろう。チュルチヘーラを日なたで乾燥させるだけで2週間かかり、熟成に3カ月かかってしまう。そのかわり、時間をかけてつくられた味は、カカオ豆が入っていないにもかかわらず、チョコレートに近くなるのだ。
8. 焼きリンゴ
ロシアは北の国で、あまり多くの種類の果物が育たない。そのため、果物を使った料理やデザートというと、リンゴが使われる。さらに、伝統的なロシア種のリンゴは酸味の強いリンゴであるため、古代のロシアの料理人は、どうやってそれで甘い料理をつくるかを考えた。リンゴは初めに、さまざまなシロップや甘い汁などに漬けこみ、次に芯を取り除き、中に甘い詰め物をしてオーブンで焼く。焼きリンゴには、カリウムや鉄分が豊富に含まれている。栄養士の評価によると、焼きリンゴを日常的に食べると、体重を減らせるだけでなく、新陳代謝を活発にし、肌にハリが生まれ、小さなシワが消えるという。
9. スィルニキ(チーズパンケーキ)とオラジヤ(パンケーキ)
オラジヤと、カッテージチーズ入りオラジヤであるスィルニキは、それだけではスイーツという感じにならない。スイーツ業界の一部では、スイーツらしくするために、スメタナ(サワークリーム)、ヴァレーニエ(ジャム)、蜂蜜、パヴィドラ(すりおろし果実の砂糖煮)、シロップなどを上にかけている。
10. ソエヴィエ・バトンチキ(大豆の棒状飴)
社会主義時代の物が不足していた頃、子供たちなら誰でもこの飴を知っていた。あの時代でもいつも店頭にあったし、行列も、このお菓子にかぎってはほとんどなかったのだ。口に入れた瞬間、どこかで味わったことのあるようななつかしい風味が広がる。具体的に何かに似ているというわけではないけれど、砕きピーナッツが中に入っているからそんな気がするのだろう。100グラムで514キロカロリーと、カロリーがとても高いことを念頭に置いておかなければならない。
11. スモクワ(甘露煮の乾燥菓子)
忘れ去られた感はあるものの、ロシアの田舎ではまだ食べられている。古代、これは「乾燥した天国のリンゴ」と呼ばれていた。フルーツゼリーとパスチラーの中間のようなスイーツで、ペクチンが多く含まれたリンゴ、マルメロ、スモモ、ナナカマドなどの果物からつくられる。以前はスモクワとは、乾燥イチジクを意味していたが、一般市民にとってイチジクは高価な食べ物だったため、ある職人が地元の果物を蜂蜜や砂糖シロップなどで煮て、似たような味のスイーツをつくった。18世紀末、フランス料理がロシアに伝わると、果物のスイーツの名前は変わり、ヨーロッパ風になっていき、スモクワは再びイチジクの実を意味するようになった。一部の田舎では、この歴史的なスイーツの名前が残った。
12. チョコレート「アリョンカ」
発案者の好みでは、ロシアにはもっとおいしいチョコレートがあるそうだが、「アリョンカ」はソ連や現在のロシアのチョコレート業界で、もっとも有名なブランドの一つとなっている。一般消費者向け価格ミルク・チョコレート開発の社会食料プログラムで生まれ、1965年に製造が始まった。包装箱のデザインは、モスクワの新聞の一紙で公募された。芸術工房で働く従業員の8カ月の娘の写真が優秀作として選ばれたものの、後に、包装紙に描かれた女の子は、独裁者スターリンの娘であるスベトラーナ・アリルーエワだという噂が立った。
ロシア・ビヨンドのニュースレター
の配信を申し込む
今週のベストストーリーを直接受信します。