=ルスラン・クリヴォボク/ロシア通信撮影
日本の評価基準はソ連と同様
主な理由は、現代のロシアでは、管理者が活動の評価基準を、実績に置いていないからだ。ここ10年、技術分野や科学分野のレベルは著しく低下したが、役人は誰ひとりとして罰せられていない。科学や教育の発展に無駄にお金を使っているが、結果はあまりにも乏しすぎる。資金を割り当てても、成果が得られないのである。資金の使い道については、ぶ厚い報告書を書けばそれでOKだ。
今年、私は大学総長協会の代表団の一人として、日本で最も進んでいる非国立大学のひとつを訪れた。そこでは、4カ所の研究所のうち3カ所を、ロシア人の研究者が主導している。日本人がどのように実績を評価しているかたずねると、1940年代から1960年代のソ連のような方法で、評価していることがわかった。
ロシア的不透明さ
世界では、優れた教育機関を、主要な科学雑誌に掲載された論文の数や、発見、特許、発明などで定めている。ロシアでは最初に不明瞭な基準に従ってリーダーを決め、その後で世界一にならなければならないと言う。しかしながら、国立を含む、どのロシアの高等教育機関も、世界のランキングの上位には入っていない。
強い国家は、教育、科学、イノベーションに十分な財政融資を行わなければならないが、経済改革なしに融資だけを拡大すると、何の効果も得られないか、逆効果になってしまう。国立高等経済学院のヤロスラフ・クジミノフ学長を始めとした、多くの専門家がこう言っている。“権威ある”委員会の決定ではなく、明確な世界基準でレベルを定める必要がある。イノベーションに対する投資の有効性も、その投資がもたらした具体的な経済効果にもとづいて定めるべきだ。
カルディオコード
ロシアのイノベーションが直面している問題は、「ロシア新大学」の研究者が生み出した装置「カルディオコード」の例によく現れている。この心筋梗塞や脳内出血の早期診断をする装置は、ウィーンの病院の試験に合格し、ヨーロッパの認証を受け、少なくともEU加盟国のうち10ヶ国、およびアメリカ、イラン、パキスタン、トルコなどですでに採用されている。つい最近、カナダとも5万ドルの契約を結んだばかりだ。ロシアでは、どんなに努力しても、誰も「カルディオコード」に興味を示さない。
技術を「シーメンス」のような外国企業に売り、その結果、「カルディオコード」をひどい高値で買わされるか、ほとんど望みはないとわかっていながら、ロシア国内の導入を目指して努力するかという、難しい選択を我々は迫られている。この装置を使えば、国民の平均寿命を伸ばすことができるし、多くの外国では、この成果に対して医師や医療関連の役人に追加報酬が支払われたり、ポーランドのように年金が増額されたりする。ロシアの場合、担当地域の寿命が延びても、役人には何の報酬もない。
報告書を書けばOK
ロシア人は、国の医療施設では、医師が書き物をするだけだと不満を持っている。フィンランドのように、医師の仕事の評価基準を、患者の訪問数ではなく、担当地域の平均寿命に定めれば、ロシアでも革新的装置が導入されるようになり、無駄なコストをかけることもなく、肝心の生活の質を高めることができるのだ。
活用できる量子コンピューターは、石油の輸出よりも大きな収益をロシアにもたらすということを、すでに3年も訴えているが、何も動きはない。ロシアの優れた研究者がロシアに帰国して、こういったプロジェクトを進めようとしても、官僚機構の障壁を見たら、もうロシアに戻ろうとは思わないだろう。外国の科学センターはすでにロシアに追いついている。
頭脳流出より恐ろしいアイデア流出
このような状態で、将来が望めるだろうか。イノベーションへの非効率な投資の埋め合わせとして、石油やガスの世界価格が今後も安定的に伸びることに期待するのだろうか。それは考えが甘すぎる。よく、ロシアの科学は終わったと言われるが、まったくそんなことはない。成果が西側に流れてしまっているだけだ。以前は頭脳流出が起こっていたが、現在はアイデアの流出も起こっている。こちらの方が国の失うものが大きく、恐ろしいことなのだ。
*「RBCデイリー」紙、記事の完全版(ロシア語のみ)
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