「欧州経済危機に備えよ!」

ニヤズ・カリム

ニヤズ・カリム

プーチン大統領はロシアの外交戦略を策定した。露外務省で行われた大統領演説の非公開部分では、世界不況に対するロシアの脆弱性と、危機に備えて布石を打つ必要性が述べられた。

非公開部分で語られる本音 

2年に一度外務省で開かれる、大統領と、外交官や上下両院の委員会幹部などとの会合は、大統領が具体的な直近の課題を示すため、省内で最優先行事と認識されている。演説を聞いた高官は、「外交政策に関わっている人間にとって、大統領演説は活動の指針に他ならない」と述べた。

新たな戦略は、2年前にメドベージェフ大統領(当時)が打ち出した内容とはいくつかの点で異なる。まず、政治的パートナーの優先リストだ。

2010年7月、メドベージェフ氏は、外交政策を利用してロシアの現代化と民主化を促すべきだと呼びかけ、ロシアに技術力や財源をもたらす西側諸国との関係を発展させることが最優先だとした。その前のプーチン政権で最優先パートナーとして挙げられていたCIS諸国は、メドベージェフ氏のリストではアジア諸国に続く3位だった。

今回のリストでは、最優先パートナーがロシアと関税同盟を結んでいる2カ国、カザフスタンとベラルーシ、そしてウクライナとなり、2番目が、新興国の中国とインドを筆頭とする、成長著しいアジア諸国だ。3位はメキシコを含む中南米諸国やアフリカ諸国で、西側のヨーロッパ諸国とアメリカは4位に後退した。

迫り来る欧州危機の衝撃

ただし、これは公開された大統領演説の内容で、より重要な話は非公開部分に隠されている。「コメルサント・ブラスチ」誌の複数の情報筋によると、プーチン大統領はEU(欧州連合)との関係を中心議題とし、特に、迫り来る未曾有の欧州経済危機と、そのロシアへの影響に重点を置いた。

非公開部分について、参加者の一人はこう説明する。「大統領は、今起こっている欧州経済危機は構造的なものであり、古き西欧の長い没落のプロセスだと感じている。経済危機の第二波は避けられず、ヨーロッパを先に大きく打ちのめし、ヨーロッパ市場と密接に絡んでいるロシアが、その後で大きな影響を受ける。ロシアと欧州が被る打撃を少しでも和らげるため、あらゆる手を尽くさなければならない」。

この問題でロシアと欧州が一体化すれば、力を増している中国や、世界最大の軍事強国であるアメリカなどに対抗できる勢力となるかもしれない。プーチン大統領は、最初に大統領に就任した2000年代頃、EUとの関係強化に積極的だったことを考えれば、当初に回帰しているとも言える。

ただし、それからユコス事件、旧ソ連圏の「オレンジ革命」、ウクライナやベラルーシとのガス供給をめぐる争いなどが起こった後は、EUとの関係が急速に冷えていった(ユコス事件とは、世界最大の石油会社の一つだった「ユコス」社社長、ミハイル・ホドルコフスキー氏が所得税、法人税等の脱税及び横領容疑により、2003年にロシア政府に逮捕された事件)。

現在、クレムリンはまた欧州との関係強化に乗り出し、対等なパートナーになることを目指している。

「ソフトパワーの強化」

公開された演説では、プーチン大統領は具体的な課題2点を外交官に与えた。一点目は、ロシア企業が外国市場で成功するように、外務省が手助けするというもの。二点目は、「ソフト・パワー」の強化で、プーチン大統領は演説の中でこう述べた。

「ロシアの外交官は、伝統的な外交手法ではなかなかのものだが、『ソフト・パワー』などの新技術の活用という点では、まだまだだ。目下のところ、外国におけるロシアのイメージは、我々が発信しているものではないため、歪んだイメージが多く、実像を反映していない」。

参加者によれば、非公開の演説でも大統領は「ソフト・パワー」に触れたという。「ロシアに否定的な人は、たとえ法的または道徳的に誤っているとしても、自分の主張を宣伝するのに長けている、と大統領は言っていた」。

別の高官も、プーチン大統領が外交官に「積極的にマスコミを使うよう」指示を出していたことを明らかにした。

いかに西側の宣伝に対抗するか

外国の記者は、露外務省の課題を「コメルサント・ブラスチ」誌に指摘してくれた。ここ数年、外務省広報部は、毎日短い記者会見を行い、外務省のサイトを4ヶ国語で更新し、「ツイッター」や「ユーチューブ」に省や各国大使館のアカウントを開設するなど、なかなか目覚ましい。だが、外国人記者がロシアの状況を伝えるためには、西側の優れたコンテンツの質まで高める必要があるという。

プーチン大統領が突然「ソフト・パワー」に注目し始めたことには、それなりの理由がある。「世界政治におけるロシア」誌編集長フョードル・ルキヤノフ氏は「大統領にとって『ソフト・パワー』とは、カウンター・プロパガンダ(対抗宣伝)だ」と説明した。

ロシア政府当局者の西側諸国への渡航が制限されかねない、「マグニツキー法案」のような法案を西側が採択しようというなかで、ロシアにとっては特に、自国の利益を守り、イメージを良くすることが重要になってくる(*弁護士セルゲイ・マグニツキーは、2008年に、内務省の汚職を追及していたが、当の捜査当局により逮捕され、1年近く拘禁された末、翌年末に獄死した)。

それができなければ、大統領が目指すヨーロッパとの協力関係の実現は、たとえ経済危機の状況下にあっても不可能だろう。

「コメルサント・ブラスチ」誌の記事の抄訳

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