宇宙飛行士のグルメ

 モスクワ州イズマイロヴォ村は、一見すると、舗装の痛んだ道路や高層マンションのある、普通のモスクワ郊外の街だ。だがここにはビルリョフスキー実験工場がある。宇宙食の生産に特化したロシア唯一の企業である。
space food
宇宙食=  ロシア通信撮影


 調理から包装までのすべての工程が、完全閉鎖型の工場内で行われる。廊下を通ると、窓の向こうには、白い作業服を着た女性が一風変わったバーミセリやキノコを透明の袋に詰めている様子が見える。食品はどれも非常に細かく、乾燥している。これは国際宇宙ステーション(ISS)に送られる食べ物だ。

 

チューブ詰めからフリーズドライへ

 「1960年代から1980年代半ばまで、チューブ包装の宇宙食が一般的だった。人類初の宇宙飛行士ユーリー・ガガーリンには、スープやジュースなど、チューブに入った食品が9種類つくられた。チューブ食を初めて試食したのもガガーリン」と話すのは、食品濃縮産業・特別食品技術研究所の所長で、宇宙食開発主任のヴィクトル・ドブロヴォリスキー氏。

 現在の宇宙食の見た目はまったく違う。1980年代後半から、昇華脱水(真空乾燥)食品が開発されるようになり、これによって食品の質量を減らすことができるようになったと、ドブロヴォリスキー所長は説明する。

 食品は最初にマイナス70度まで凍結され、次に真空機で乾燥され、包装される。そして小さな透明の袋に入ったミニ食ができあがる。食品の栄養を97%まで維持できる。風味増強剤、着色料、その他添加物の使用は禁止されている。

 包装は宇宙飛行士の食器にもなる。宇宙では、食べる前に、特別なパイプを使って、袋の中にお湯か水を必要な量入れて、元の形に戻す。次に、袋を手でもんで、7~10分待つ。できあがったら、袋のかどをハサミで切り、そこから食べる。

 宇宙食には缶詰めもある。カニ、サケ、チョウザメがアルミ缶の中に入っている。ここ3年は、キャビアも宇宙食になっている。キャビアは熱処理されて宇宙に送られ、半年間保存できる。

 ロシアの宇宙食産業の原材料は国内産のみ。魚卵はヴォログダ州産で、魚は養殖されている。チョウザメはアストラハン市産、カニは極東産、パンとチーズはモスクワの工場の製品。

 宇宙船からは毎回、トマト、ニンニク、タマネギ、レモンなどの新鮮な野菜や果物もISSに届けられている。出荷前に秘密の物質で処理するが、ドブロヴォリスキー所長によると、海外には類似の処理がないという。このような処理を施すと、生鮮品は形状を失うことなく、ISSで40日間保存できる。

宇宙での味覚の変化

 味覚は無重力の条件下で変わることがある。それぞれの宇宙飛行士が、宇宙空間でどのように味を感じるのかを予測するのは難しい。甘いものを甘くないと感じるかもしれないし、塩分を感じないかもしれない。医学的にはこのような味覚の変化はまだ解明されていない。

宇宙でどのぐらい食べるのか

 宇宙飛行士は1日4回食事をとる。3食は主要な食事で、1食は集中的なトレーニングや困難な実験の後の追加的な食事。宇宙飛行士1人の1日の摂取カロリーは3100キロカロリー。

 医師や生物学者が、蛋白質、脂肪、炭水化物、多量栄養素および微量栄養素をどれだけ1人分に含めるかを判断し、材料の農薬、重金属、その他の有害物質の有無を検査する。宇宙飛行士も味見をする。食品の評価が良くなかった時は、メニューには加えられない。

 各国が自国の宇宙飛行士に宇宙食を提供している。だが、ロシアの宇宙飛行士がアメリカの宇宙食を注文する、またはその逆など、他の国の宇宙食も入手可能となっている。「アメリカ人はロシアのボルシチ、ラスソリニク(ピクルス入りの肉や魚のスープ)、ハルチョ(カフカスの肉スープ)などのスープや、カッテージチーズ、缶詰め、魚卵などがお気に入り」とドブロヴォリスキー所長。

 工場は新年の祝いの料理もつくる。宇宙飛行士は希望のメニューを事前に申し込む。ロシアの宇宙飛行士なら、伝統的なピクルスやオレンジなどを頼む。宇宙でアルコールを摂取することは厳しく禁じられている。他の制限は特にない。

宇宙食を身近に

 モスクワの「経済達成博覧会(VDNH)」と「モスクワ・プラネタリウム」に昨年2月、チューブ詰め宇宙食の自動販売機が設置された。現在は、モスクワの鉄道駅や商業施設などにも設置されている。近々、ガソリンスタンドや大学でも販売される予定。ボルシチを含むスープ数種類、各肉野菜料理、カッテージチーズのデザートなどを購入することができる。価格はチューブ1本300ルーブル。

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