宇宙空間で人体はどうなる?

地球帰還直後のロシアのミハイル・コルニエンコ氏やセルゲイ・ヴォルコフ氏、また、米国のスコット・ケリー氏=

地球帰還直後のロシアのミハイル・コルニエンコ氏やセルゲイ・ヴォルコフ氏、また、米国のスコット・ケリー氏=

キリル・クドリャフツェフ撮影/ロシア通信
 2015年3月27日に地球を出発した二人の宇宙飛行士が、一年間の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在ミッションを終え、2016年3月2日に帰還を果たした。ロシアのミハイル・コルニエンコ氏と、米国のスコット・ケリー氏だ。軌道上で過ごした340日の間、二人は重要な医学実験を行った。研究は将来的に、無重力空間での長期滞在に人体を適応させるのに役立てられる。

消化

 無重力空間では、食べ物には重さがない。そのため、頻繁にお腹が空くようになる。ロシアNOWの取材に応じた学術実験リーダーのボリス・アフォニン氏によれば、ただでさえ身体活動が低下するところへ、さらに食欲が増進するとなれば、宇宙飛行士は体重を増加させてしまうかもしれない。

 また、宇宙空間では、味覚も変わる。「地上で試食した際おいしく感じられた製品が、宇宙空間ではそう感じられなくなる。おいしくない、と飛行士が文句を言うこともある。どうして嗜好が変わるのか、解明が待たれる」とアフォニン氏は語る。

 地球に帰還を果たした後も、すぐに通常の食事に戻ることはできない。「適応期間が必要だ。はじめのうち、地上の食品は、味が濃すぎるように感じられる。これは、無重力空間で消化管の緊張がゆるみ、機能が低下するためだ」とアフォニン氏。

 実験の目的の一つは、気管支のどの部分が特に変容をこうむるか、病理学的変異のリスクはあるか、という点を突き止めることだった。実験データは将来的に、消化器系を保護する手段を開発し、宇宙飛行士の最適な食餌メニューを考案するのに役立てられる。

 

代謝

 水分補給不足症、つまり、人体における、血液など液体培地の再分配という問題もある。ロシアNOWの取材に応じたロシア科学アカデミー医学生物学問題研究所主席研究員ガリーナ・ワシーリエワ氏によれば、「無重力では大量の血液が体の下部から頭の方へ移動する。体は非常事態を感じ取り、この状況に適応するために、余分な水分を排出しようとする」

 正反対の現象が着陸後の飛行士に見られる。重力が戻ってくるのに応じて、血液の、体の下部への急速な逆流が起こる。帰還直後の宇宙飛行士が立つこともままならないのはこのためだ。宇宙と地球の両方で、より簡単に、よりすみやかに適応が進むようにすることを目指し、研究が進められている。

 

呼吸

 データの解析には一月以上の長い期間がかかることもある。ミハイル・コルニエンコ飛行士は今も体を入念に検査され、観察されている。 呼吸器系を調べる実験にUDODというものがあるが、これもやはり水分補給不足症に関るものだ。無重力状態の宇宙飛行士は、逆さまにぶら下がった人と同じような感覚を味わっている。同研究所のアレクサンドル・スヴォーロフ所長によれば、この問題の解決には、特殊な機器を介した呼吸が有効だ。それにより、胸部の圧力を下げ、頭部からの血流をうながすことができる。「無重力では、足の筋肉と同様、呼吸筋も弱くなる。呼吸が楽になるためだ。その点、マスクをつけて、息を吸う際の負荷を大きくすれば、一種のトレーニングになる」とスヴォーロフ氏。

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