野菜輸出国に変わりそうなロシア

アレクサンドル・コンドラチュク撮影/ロシア通信
 ロシアでは冬の温室の建設ブームが起きており、中国、日本などの国への農産品輸出プログラムまで発表されている。

 国の支援体制や、欧米、トルコからの農産品の禁輸措置により、通年温室が今、国内の農業のもっとも魅力的な投資先および急成長分野となっている。

 ここ3年で、季節外野菜の生産量は18%増となった。ロシア連邦農業省のデータがこれを示している。2020年までに、国内で1500ヘクタールの温室が建設される見込み。これは寒い時期の野菜の国内需要をほぼ完全に満たす規模である。

 このような状況において、今後温室事業を強化する予定の農業大手は、農産品の輸出案を真剣に検討している。

 

全体的な傾向

 近隣諸国への輸出について、ロシアNOWに語ったのは、ロシアの大手農業ホールディング「ルスアグロ」。「長期計画として、ロシアおよび近隣諸国の変化の激しい野菜市場に適用可能な、商品戦略を作成している」と、ルスアグロ野菜部門のアレクセイ・スクヴォルツォフ部門長は話す。

 西シベリアを含む、国内の複数の地域で温室事業を展開する会社「温室成長技術(TTP)」は、中国市場への野菜の輸出計画を立てている。同社営業部のイリヤ・ガモフ部長がこれを明らかにした。

 日露合弁企業「JGCエバーグリーン」は、2016年初めにハバロフスク郊外に温室を建設。すでに最初の収穫品をロシア市場に出荷しており、日本と中国に輸出する計画にも言及している。日系企業はロシア極東において、優遇税制のある特区「先行発展領域(TOR)」プログラムの枠組みの中で、温室事業を積極展開している。有限責任会社「サユリ」は今年、ヤクーツク(サハ共和国の行政中心地)近くの通年温室の建設に、2100万ドル(約21億円)を投じている。

 とはいえ、近年の成長を計算に入れても、ロシアの季節外野菜の市場は飽和状態にはほど遠い。年間72万トンの野菜を生産するロシアの産業温室は、国内の寒候期の需要の33%しか満たしていない。農業分析センター「ABセンター」の年次報告書によると、2年前に発動されたEUとトルコからの農産品に対する制裁措置により、野菜の輸入量は30.8%減少している(2014年は200万トンだったが2015年には140万トンになった)。

 

多額の資金

 量的制限となる制裁があり、また農業省が温室規模の拡大を重視しているため、ロシアの複数の富豪がこの事業に関心を向けた。

 億万長者ヴァジム・モシコヴィチ氏が所有するルスアグロは2015年末、季節外野菜に投資することを発表した。タンボフ州に90ヘクタール強の温室を建設する計画を立てている。このようにして、ルスアグロの総温室面積はほぼ300ヘクタールになるため、市場トップになる可能性もある。

 ロシアの通信事業者「ヨタ」の創業者の一人セルゲイ・アドニエフ氏は、温室の会社TTPを2013年に創設。TTPはすでに、モスクワ郊外とチュメニ州に温室複合体を建設しており、さらにロストフ州にもう一ヶ所創設する。

 ロシア最大の小売チェーン「マグニト」のオーナーであるセルゲイ・ガリツキー氏、また自動車ディーラーのアレクサンドル・ヴァルシャフスキー氏も、温室を所有している。実業家ウラジーミル・エフトゥチェンコフ氏の金融・産業複合企業「システマ」は1月、国内最大の温室の一つ「ユジュヌイ」を購入した。

 モスクワの南100キロでは、温室企業「グループ農業」の第一ラインがすでに稼働している。ちなみにアメリカ系経済誌「フォーブス」ロシア語版は、ウラジーミル・プーチン大統領に近い富豪ユーリ・コヴァリチュク氏とこの企業に関係があると書いている。

 「ロシアでは食料自給政策がとられるようになった。政府からのこの分野への投資の呼びかけに、大物実業家が応えたことは、不思議ではない」と、投資会社「レオンMFO」のポートフォリオマネージャー、ミハイル・ボリソフ氏は話す。最低限の採算の保証について、政府と水面下で追加的な合意が行われている可能性も排除できないという。

 大金が投入されることで、ロシアの温室市場は大物プレーヤーらがわけあうことになるかもしれない。小規模の農場所有者にとって、資金を得ることは簡単ではない。「農業関連産業では、行政資源を活用する大手企業が支配的で、良い土地を開墾する。農民は何も得られない」と、ロシア政府農業委員会分析グループのイワン・ルバノフ代表は話す。

 

政府からの事実上の大規模支援

 事実上、ロシア政府は今日、温室事業に前例のない支援を行っていることになる。実業家に低率融資するだけでなく、施設の建設や刷新の費用の一部を補償している。

 農業省は昨年、温室事業の資本コストの補償として、10億ルーブル(約15億円)を割り当てた。今年はそれが30億ルーブル(約45億円)になる見込み。「国は温室建設の資本コストに約20%の投資補償を行っている」と、ロシア果実野菜連合のヤコフ・リュボヴェツキー氏は話す。

 ロシアの温室事業の問題として、「ロシア経済・国家行政アカデミー」農産業政策センターのナタリヤ・シャガイダ・センター長は、高い生産コストをあげる。「国産野菜と輸入野菜の平均価格を冬に観察すると、輸入品の方が安い。だから、禁輸で輸入をやめ、安価な輸入品が持っていた需要を埋めようとしても、採算が合わない」

 この状況の改善策となるのは、ロシア企業がただ温室生産に投資するのではなく、設備投資を重視することだという。「投資家が安く生産できる設備に投資したら、国にも、自分たちの資金にもプラスになるだろう」とシャガイダ・センター長は話した。

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