ウラジーミル・シドレンコ社長が3月14日に北海道苫小牧市の植物工場を視察している=
吉村慎司撮影3月上旬、JFE子会社が北海道苫小牧市で運営する大型植物工場に、ロシアの農業会社ダリネヴォストチノエの幹部数人が訪れた。一行はミニトマトを栽培する温室など施設内を実際に見て回り、専門職員による詳しい説明に耳を傾けた。
ダリネ社はロシア・沿海地方のアルチョム市にあり、計18ヘクタールの温室を運営する極東屈指の野菜生産者だ。半面、ウラジーミル・シドレンコ社長によれば施設全体の約3分の1が老朽化で遊休状態にあり、近く3ヘクタール程度を新しい植物工場に建て替える方針という。ダリネ社は技術パートナーとなる外国企業を探しており、JFEがその最有力候補ということだ。
JFEは元来、エネルギーや環境関連などの技術を主力とする企業。それがなぜ農業なのか。ダリネ社が視察した日の記者会見で岸本純幸相談役はこう説明した。「我々は原発以外のあらゆる発電施設を手がけており、エネルギー管理の技術が強み。得意な技術の応用先として、多くのエネルギーを必要とする植物工場に着目した」。
特に植物工場が求められるのは、そのままでは農業に向かない寒冷地だ。そこでJFEは2013年に北海道の農業生産法人アド・ワン・ファームと提携し、翌14年夏に苫小牧で植物工場を完成させた。同年、アド社の別の温室にサハリン州からの視察団が訪れたことがきっかけで、JFEにロシアとの接点ができる。15年春には、北海道銀行の橋渡しによってJFE幹部がウラジオストクに渡り、沿海地方政府を訪問。このときにダリネ社と知り合った。
シドレンコ社長は植物工場視察の後、「私たちはオランダなど各国の温室技術を知っているが、JFEには天然ガスやバイオマスなど複数のエネルギーを熱源に使う優れた技術があり、省エネ効果が期待できる」と高く評価。事業の計画を7月までに固めたいと表明した。JFE側によると、ミニトマトやベビーリーフなどロシア市場に少ない野菜をつくる方向で話し合っているという。総工費は15億~20億円で、年内の契約締結を目標にしている。
JFEが、それまで無縁だったロシアと関わってほぼ2年が経つ。これはちょうど、原油価格・ルーブル下落にともなうロシア経済の失速、西側諸国との関係悪化などと重なるタイミングだが、どう見ているのか。アグリ事業担当の山川敏秀常務執行役員は「何度か実際にロシアに行き、消費がさほど冷え込んでいるわけではないと実感している。ルーブル安のおかげで輸入よりも国内生産が奨励されており、プラント販売の当社にとってはむしろ追い風」と話す。沿海地方に隣接するハバロフスク地方では、日揮による植物工場が作物の出荷を始めており、地元民から好評を得ている。早ければ2017年の秋には沿海地方で、日本の技術による農業施設がまた一つ誕生することになりそうだ。
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