ロシアにはおよそ200の民族が住んでいる。多くの地域で彼らは独自の伝統文化や言語を守っている。これらの都市は独自の色彩に富み、ロシアの他の都市とは大きく異なっている。
1. トゥヴァ共和国の首都、クィズィル
シベリア南部にある小さな共和国はホーメイと呼ばれる喉歌が有名である。トゥヴァ共和国の首都で最大規模の都市であるクィズィル(トゥヴァ語で「赤い」を意味する)には、11万人が暮らしている。多くの人々は、ロシア語と並んで共和国の公用語とされているトゥヴァ語を話す。地元メディアでもトゥヴァ語が使われ(主要なニュース番組の司会者は民族衣装を着ている)、お芝居もトゥヴァ語で演じられている。ロミオとジュリエットなどの演劇もトゥヴァ語に訳されている。
クィズィルは普通のロシアの都市とは似ていない。ここには地元の叙事詩の英雄を象った変わった彫刻がたくさんあり、仏教寺院、ヒンドゥー教寺院から仏教僧に贈られた贈り物である祈祷のための太鼓などがある。「伝統は、平均的なトゥヴァ人の人生において重要な場所を占めています。年配の人を敬う気持ち、アジア的な控えめさ、自然を愛する気持ちなどです」と話すのはクィズィル出身の写真家、ダヤン・ダンシュルユンさん。「もうすぐ、民族的な祝日、シャガアなのですが、通りには民族衣装を誇らしげに身につけて歩く多くの人々を目にすることができるでしょう」。都市では、民族音楽フェスティヴァルや伝統的なスポーツであるトゥヴァ民族工芸のワークショップなども開かれている。
トゥヴァの人々の間では、仏教とシャーマニズムが一般的であるが、地元の人々はロシア正教にも敬意を払っている。ダヤンさんは、「子どもの頃から、パスハ(復活大祭)の日には家族が隣に住むロシア人たちにお祝いの言葉をかけていました」と回想している。
2. ダゲスタン共和国、デルベント
「デルベントはロシアの最古の都市の一つであり、他の都市とは比較できない」と話すのは、仕事の都合で、シベリアから引っ越してきたマルガリータ・サモイロワさん。「家も通りも、わたしが生まれた街のそれとは似ていません」。
ダゲスタン共和国のデルベントは、もっとも変わった都市の一つである。まず、この都市はすでに2000年以上前から存在すること(2015年に創建2000年を祝った)。都市には8世紀半ばから、イスラム寺院のある古代のデルベントの要塞が保存されている。第二に、この都市はロシアでも最も多民族な国である。12万人5,000人が暮らす都市には、イスラム教寺院(シーア派もスンニー派もある)、正教会、シナゴーグがあり、ダゲスタンのさまざまな民族のお祭りが開かれている。
マルガリータさんは言う。「ここには数十の民族が暮らしています。わたしが会ったことがあるのはレズギ人とアヴァール人だけですが。彼らは自分の民族同士では自分たちの言語を話し、わたしとはロシア語で話します」。そんな場所が他にあるだろうか?
3. カルムイク共和国の首都、エリスタ
ロシア南部のステップ地方にある小さな都市。仏教文化の中心地であり、チェスの都である。10万人の人口のうちの3分の2が仏教徒であるカルムイク人であるため、エリスタとその周辺には仏教寺院がいくつもある。地元の住民であるアラン・マフトさんは、「現在、カルムイクの文化や遺産を守るため様々な取り組みが行われています。エリスタにはヨーロッパ最大の仏教寺院があります。2005年に建設された釈迦牟尼仏黄金僧院です」と語っている。
1997年にはエリスタ南東に、世界チェスオリンピックのためのシティ・チェスが作られ、参加者が宿泊した。アランさんは「エリスタで一番好きな場所の一つです」と言う。シティ・チェスでは、それぞれの家に「クイーン」、「ホワイトルーク」などのチェスにちなんだ名前が付けられている。また本館であるチェス宮殿の床はチェス盤のようになっている(その上でチェスをプレイすることができる)。
4. チェチェン共和国の首都、グロズヌイ
グロズヌイは高層ビル、ショッピングセンター、広い大通りを備えた、東洋風の近代都市である。グローズヌィの女性は頭部をスカーフで覆い、長いスカートを身につけている。ここでは喫煙は歓迎されないため、外でタバコを吸う人たちを見かけることはほとんどない。アルコールもあまりよしとされないため、お酒は大型スーパーで朝8時から10時までしか売られておらず、夜は特定のレストランでしか手に入らない。
バーやナイトクラブはチェチェンの首都にはないが、近代的な設備の整ったサッカー場、劇場、多くの公園がある。劇場ではロシア語とチェチェン語の両方で芝居が上演されている。
またここにはヨーロッパ最大のモスク「チェチェンの心」がある。1万人を収容するこのモスクには、素晴らしい庭と噴水、ホテルが備えられている。乗馬のインストラクター、ディアナさんは、「チェチェンの心は、街で一番美しい場所の一つだ」と話す。「他にも、花の公園や展望台“天国への階段”、乗馬公園“シラディン”などがあります。わたしにとって、この街は100%快適な場所です!」
ディアナさんはグローズヌィの人々は訪れる人たちをいつも暖かく迎えると話す。「観光客が来てくれるのは本当に嬉しいことです。すべての人を美しい心で迎えています」。
5. ヤクート・サハ共和国の首都、ヤクーツク
ロシアの最も驚くべき都市の一つ。ヤクートの民族性と、マイナス50℃のシベリアの寒さと、永久凍土帯の上にたつ建築物がうまく溶け合った街である。ここでは、家の中を暖かく保ち、また永久凍土帯に浸水しないよう、すべての建物は高床式になっている。また玄関は鮮やかな色で塗られていて、酷寒の霧の中で方向を見いだすのを助けてくれる。冬になると多くの住民たちは、伝統的なヤクートの靴ウンティとロシアのワーレンキを履く。普通の靴では遠くまで歩けないからである。
ヤクーツクでは、若い設計士たちが、新たな公園や休暇の場所を作ろうと懸命に働いている。建築家のセルゲイ・ペルミャコフさんは、「建築家たちは近代的な都市を作ろうとしています。気候の特徴を考慮に入れた公共の場を作るのがわたしたちの課題です」と語る。街では、送電線や通信設備などもヤクート独特の模様で飾られたパネルで覆われている。