仏教は、正教会やイスラム教と並んでロシアで最も普及している宗教の一つだ。住民の大半がこの宗教を信仰している地域もある。
1.ブリヤート共和国――ロシア仏教の精神的首都
壮大なイヴォルギンスキー・ダツァンは、ロシアの全仏教徒の主な巡礼の地であり、パンディト・ハンボ・ラマの住まいである。寺院は1945年に共和国の首都、ウラン・ウデから30キロメートル離れたところに開かれた。ダツァンには巨大な図書館と仏教大学があり、見習い僧を育成している。僧院には、19世紀後半から20世紀初頭を生きたハンボ・ラマ12世、ダシ=ドルジョ・イチゲロフの腐らぬ遺体が保管されている。伝説によれば、1927年、彼は蓮華の体勢を取り、生体反応がなくなるまで瞑想を続けたという。彼はそのままの状態でヒマラヤスギ製の特別な立方体の棺に入れて埋葬された。2002年に遺体を調べた時にも、遺体は腐っていないままだった。巡礼者は、イチゲロフがどんな宿願でも叶えてくれると信じている。
イヴォルギンスキー・ダツァンから90キロメートル離れたところに、1825年に建立されたアツァガツキー・ダツァンがある。これはロシアで最古の仏教寺院の一つだ。ここから仏教の精神的指導者が数多く輩出した。アツァガツキー・ダツァンは、チベット医学の一大中心地としても知られている。20世紀初頭、中国とモンゴルから医院に医療薬剤が運び込まれ、外国から講師が招かれた。1936年、ソビエト政権はこのダツァンを閉鎖し、身寄りのない子供の収容施設として利用した。信者に寺院が返還されたのは、1991年のことだった。
ブリヤート共和国のもう一つの仏教聖地であるニーロワ・プスティーニは、サヤン山脈の麓、ウラン・ウデから500キロメートル離れたところにある。現地住民は、ここに山の霊が住んでいると信じており、家内幸福を願いに訪れる。
ブリヤート人の間では、山々は多くの伝統と結び付いている。例えば、ウラン・ドゥシェ山は、地上に舞い降りて鍛冶に携わる天空の竜の守護者と考えられており、赤みを帯びた光を目にした者は生涯の幸福を手にするという。
2.トゥヴァ共和国――シャーマンの国
このシベリア東部の共和国の基幹民族は、かつて遊牧民だった。彼らは、現在のトゥヴァ共和国の領域がモンゴル帝国の一部だった中世以来チベット仏教を信仰している。トゥヴァ人の間では、仏教は現地のシャーマン信仰の伝統と結び付いている。人々は状況に応じてシャーマンに頼ったり、ラマに頼ったりする。
20世紀初めには、共和国には20ほどの寺院が営業していたが、ソビエト時代にはそのすべてが閉鎖され、現在でも一部しか業務を再開していない。
主要な寺院はツェチェンリングで、首都クズルからそう遠くないところにある。トゥヴァ語の寺院名は「無限同情僧院」と訳せる。寺に入る前には周囲を時計回りに3度回り、堂のすべての角に触れなければならない。ツェチェンリングが建てられたのは1998年だが、目を凝らせば、すでにすべての角の色が剥げていることが分かる。ここは単に信者が礼拝に訪れる場所ではなく、精神的な中心地でもある。ここではチベット語やヨガ、仏教哲学の講習会が開かれている。
3.イルクーツク州――バイカル湖畔の仏教徒
イルクーツク州はブリヤート共和国と接しており、ここでも現地住民の多くが仏教を信仰している。他の地域と同じく、ソビエト時代は当局によってダツァンは破壊され、20世紀末にようやく再建が始まった。大半の寺院は、イルクーツクに程近いウスチ・オルディンスキー地区にあった。最古のものは、1814年に建立されたアラルスキー・ダツァンだ。
2011年、ウスチ・オルディンスキーにもう一つの寺院、トゥブデン・ダルジェリンが開かれた。チベット語の寺院名は、「仏陀の教えの復活の地」を意味する。
ところで、バイカル湖に浮かぶオリホン島には、「巫女の岩」として知られる特別な場所がある。ブルハン岬とも呼ばれる。現地住民は、ここにバイカルの主神が住んでいると考えている。かつてここでシャーマンの儀式が行われ、伝わるところでは、残酷な生贄の儀式もあったという。現在ここには仏壇がある。
4.カルムイク共和国――ヨーロッパの仏教地域
ロシア南部のこの地域は、ヨーロッパで唯一の仏教信仰地域だ。カルムイク人の祖先は17世紀初めにモンゴルのステップからここへ移住し、仏教の伝統をもたらした。カルムイク共和国では仏教寺院はフルルと呼ばれている。最も有名なフルルは首都エリスタにある。
2005年に建てられた釈迦牟尼の黄金僧院は、街の主要な名所の一つだ。金で装飾されたこの壮大な白い建物には、ロシアおよびヨーロッパで最大の仏像(高さ9メートル)がある。フルルには誰でも入ることができるが、注意点は、履物を脱ぎ、エネルギーの循環を保つために必ず時計回りに歩く必要があるということだ。
5.アルタイ共和国――良き風習の地
山々のエネルギーは、心の悟りを求める人々を常に引き寄せてきた。アルタイ共和国は、そうした謎めいた場所の一つである。現地住民はブルハン教を信仰している。これは仏教信仰と古来の風習とが混ざり合った宗教だ。彼らは「黒魔術」に否定的な態度を取っている。明るい霊だけを信仰し、生贄を捧げたり、あの世の力に頼ったりしない。シャーマンは彼らの間では悪の力の使者と見なされている。
また、特定の行動規範を遵守することに多くの注意が割かれている。例えば、タバコは吸わない、湿った森の木々は伐採しない、白と黄色の柄のある帽子をかぶる、といったことだ。
今のところ唯一のブルハン教寺院であるアク・ブルハン・ダツァンは、ゴルノ=アルタイスク市にある。
6.サンクトペテルブルク市――最北の仏教寺院
街外れにあるグンゼチョイネイ・ダツァンは、20世紀初めに建てられた。ステンドグラスは、ロシアの有名な画家、ニコライ・レーリヒのスケッチを基に制作されたものだ。今日、この寺院は世界最北の仏教寺院と考えられている。
ここでは多くの礼拝が行われる。寺院の中央に、金箔で覆われた高さ5メートルの仏像が祀られている。心だけでなくお腹も満たしたい人のために、寺院にはブリヤートの伝統料理が食べられるレストランがある。