グルメの「黄金の環」

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 「黄金の環」の旅の魅力は、こじんまりした中世の教会やクレムリンに尽きない。ウラジーミル大公国の古都群の文化遺産は、炭火焼の料理にも生きている。

 「黄金の環」といえば、ロシアの古都群をめぐる観光ルート(ただし、古都群を「黄金の環」としてひとまとめにブランド化する発想は、比較的最近のものだ)。すでに半世紀、ロシア中から、そして世界中から旅行者が訪れる人気のルートになっている。公式にはそれは、モスクワを輪舞のようにめぐる8都市から成っている。すなわち、セルギエフ・ポサード、ペレスラブリ・ザレスキー、ロストフ・ヴェリーキー、ヤロスラヴリコストロマ、イワノヴォ、スーズダリ、ウラジーミル。

 賛否両論あるが、さらに5都市が加えられることもある。アレクサンドロフ、ユーリエフ・ポーリスキー、トゥタエフ、ウグリチ、プリョスだ。

 年間100万人以上の観光客が「黄金の環」を訪れ、「本当のロシア」を自分の目で確かめようとする。それは齢千年の中世建築や民芸品の中心地だけではなく、地元料理と伝統のレシピに接するためでもある。

ロストフ・ヴェリーキーの玉ねぎ王国

ユリア・シャンドゥレンコ撮影ユリア・シャンドゥレンコ撮影

 ロストフ・ヴェリーキーで地元商人が繁栄を極めていた時代、黄金の代わりに取り扱われたのが、ロストフの玉ねぎだ。すでに数世紀にわたり、地元料理の主なメニューの一つとなっている。

 フランス人でも、地元住民の発明の才は認めるだろう。玉ねぎのスープ、ポタージュ、肉詰め焼き、さらに玉ねぎジャム、テカテカと黄金色に輝く玉ねぎパン(パンの中身が玉ねぎということではなく、玉ねぎが生地の主な材料に使われている)。

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 それからカワカマスも。ロシア民話では、魔法の魚として登場し、願い事をかなえてくれる、あの魚だ。ネロ湖で捕れるカワカマスは、地元の珍味とされている。カマスのコトレタ(ロシア風カツレツあるいはハンバーグ)と、玉ねぎのマルメラードをいっしょに食べると、ロシア料理への認識が変わるだろう。マルメラードの味が肉の味に面白いニュアンスを加え、ハンバーグの独特のソースになる。

 ちなみに、玉ねぎのジャムとマルメラードは、お土産として持ち帰りができる。

食べられる場所:単品レストラン「カマス宮殿」とカフェ劇場「玉ねぎ村」。支払いは現金のみ。

ペレスラブリ・ザレスキーの黄金の魚

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 この街の食のシンボルは、サケ類の淡水魚で、「ペレスラフスカヤ・リャプシカ」という。帝政時代以前は、戴冠式に際しての大宴会のメニューの一品でもあった。

 ペレスラブリ・ザレスキーのこの珍味は、プレシチェエヴォ湖にしか棲んでいない。ちなみに、この湖は、ロシア海軍を創設したピョートル1世が、軍艦の最初のモデルをテストした場所でもある。

 5月~9月が漁のシーズンで、この時期なら、ニキーツキー修道院のそばで商っているおばあさんたちから買えるし、カフェで焼き魚を食べることもできる。

 地元の人は、こんな食べ方をすすめる。皿の上で、魚の腹を下にして、背中をナイフで軽く叩くと、驚くほど簡単に肉が背骨から剥がれるという。

食べられる場所:ツーリストセンター「Fisсh Herberg
 

ヤロスラヴリ製スカモルツァチーズ

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 ヤロスラヴリの農家は、対ロシア経済制裁と輸入代替の条件の下で、創造性を発揮せざるを得なくなった。そのおかげで、グルメ旅行者にとって新たな名所が出現。ここでは、ロシア、オランダ、フランス、スイス、イタリアの各種チーズを、味見するだけでなく、その手作りの様子を目の当たりにできるようになった。その場所は、民間のチーズ製造工場「Signore Formaggio」だ(ヤロスラヴリ州)。

 ヤギのクリーミーな、白カビで覆われているチーズ「シェヴィエ」から、1年かけて熟成させる固い種類にいたるまで、ありとあらゆるチーズが地元のミルクで手作りされている。工場で食べることができるだけでなく、お土産として買うこともできる。 

図書館での飲食を…許可する  

 世界で唯一、飲食が禁止されないどころか、逆に歓迎されるという図書館が、ヤロスラヴリ州セミブラトヴォ村にある。村興しに熱心な村民は、これを「ジャムの図書館」と呼んでいる。ジャムと言えば、ロシアではお茶のデザート、お茶菓子として人気抜群だ。

 “味わい深く”、ためになる、この図書館の蔵書は、例えば、こんなことを教えてくれる。イワン雷帝はどんなスイーツが好物だったか、ロシアの娘たちがジャムを使ってどうやって恋人、婚約者の心をつかんだか、詩人プーシキンが好んだベルセネフスコエ・ジャムはどうやって作るかなどなどなど。しかも、これらすべてを、図書館で、サモワールでお茶を飲みながら試食できるのだ。

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 いちばん風変りなのは、トウヒの球果(マツボックリ)で作るジャムだろう。ここで試食できるし、美味しい風邪薬としてお土産に買うこともできる。球果は柔らかくて香りが高く、咀嚼して食べられる。マツの風合いは、お茶に合うだけでなく、ロストフの玉ねぎパンなどにもぴったりだ。