Alamy/Legion Media撮影
ガラス製のティーポットの底にタイムの細かい紫色の花を振り入れ、乾燥したメリッサの葉とスグリの葉を入れて、最後に高山植物サガン・ダリ(カラフトミヤマツツジ)の葉を少し加える、というのが私流。キッチンは5分後、タイガ、山、シベリアのベリーの繊細で豊潤な香りに満たされる。
Lori/Legion Media撮影
ルーシでは古くから、紅茶を2つの作法で飲んでいた。それは「かじり」紅茶と普通の「入れ」紅茶。「かじり」(または「砂糖通し」)とは、大きな砂糖のかたまりをくだいて小さな欠片「白い石」にし、それを前歯ではさんだまま、熱い紅茶を飲む作法のこと。こうすることで紅茶が甘くなる。
シベリアでも昔から「かじり」茶が飲まれていたが、シベリア特有の言い方(一般的にはЧай «вприкуску» - Chai «vprikusku»だが、シベリアではЧай «с прикуской» - Chai «s prikuskoi»と言う)で、茶会の新しい意味が込められていた。1895年の書籍「シベリア生活の思い出」には、「かじり茶を飲むのか、と奥さんに聞かれたので、飲む、つまり砂糖をかじっている、と答えた」と書かれている。シベリアのかじり茶とは、茶を飲みながら甘いパイや手製のケーキを食べることを意味する。お供はヴァトルシカ(チーズやジャムをのせた小型パイ)、ジャム、またはシベリアでエスヴィトと呼ばれるビスケットなど。
シベリアで茶は、農民にとっても、貴族にとっても、商人にとっても、ずっと重要な飲み物となってきたし、トムスク県の県知事が20世紀初め、生活必需品を免税にせよとの命令を出したのも妥当であった。そう、この中には茶が含まれていたのだから。茶のお供の焼き菓子は茶会には付き物で、シベリアっ子の家に招かれたなら、きっと納得できるだろう。
Alamy/Legion Media撮影
シベリアの遊牧民、トゥヴァ人、ハカス人、アルタイ人は、乳と塩の入った茶を飲んでいた。この茶の伝統はシベリアならではというわけではなく、モンゴルやチベットにも昔から存在していた。そのため、しょっぱい茶を煎れる伝統は世界中にたくさんある。
茶を「スッツグ・シャイ」と呼ぶトゥヴァ共和国では例えば、今日の茶道とはどのようなものなのだろうか。板状の緑茶を冷たい水に浸し、そのまま沸騰させ、ラクダや羊の乳(これが最高とされる)を追加する。そして大きなスプーンで乳の入った茶をすくい、高い位置から叩きこむように戻しながらかき混ぜていく。再び沸騰したら、塩を加える。溶かしたバターや脂肪の多い羊尾を入れることもある。塩と乳の入った茶はお椀に注ぐ。
このような飲み物をトゥヴァ人は古来から大切にしていた。のどの渇きをいやし、力を与えてくれる。広大な大自然の中を集団で移動していた遊牧民にとって、これは特に重要だった。寒く、ステップや山岳地帯で冷たい川の水と氷しかない時、熱い茶は体を温め、病気を防いだ。トゥヴァ共和国では今日、乳と塩の入った茶を道端のカフェ・ユルト(移動住居)、カフェ、民族料理店などで味わうことができる。クラスノヤルスクやオムスクには、例えば、トゥヴァ茶を試飲するだけでなく、その茶道に参加し、シベリアの遊牧民の伝説や歴史について聞くことのできる「喫茶ユルト」と呼ばれる場所がある。
ハーブ茶
Shutterstock/Legion Media撮影
だがシベリアでもっとも愛飲されているのはハーブ茶。シベリアっ子が自然豊かな野外に遊びに行く時は、ティーバッグで煎れる普通のハーブ茶ではなく、ハーブの混合物から煎れた茶を、魔法瓶に入れて持っていく。職場、オフィスなどでこのような茶を飲むと、まるで夏の森林の中にいるような気分になる。
シベリアっ子が茶に入れるハーブは多種多様。例えば私は朝、コーヒーの代わりにサガン・ダリの葉の入った紅茶を飲む。サガン・ダリとは、サヤン山脈の標高の高い場所、チベット、ブリヤート共和国の丘陵地帯で育つ低木で、滋養強壮効果がある。チベット人はサガン・ダリの葉について「寿命を延ばすハーブ」と語っていた。
逆に落ち着きたい時、リラックスしたい時、ぐっすり眠りたい時、シベリアではティーポットにタイム、メリス、スグリの葉、マジョラムを入れる。シベリアではハーブ茶のお供として、蜂蜜、コケモモ、チェリーパイ、松の実をテーブルに並べる。また、どこかの家庭でもてなされる時、荒々しくてとても香りの高いモミ茶がふるまわれることもある。シベリアのハーブ茶の人気は、地元の家庭の枠を超えて、ロシア全土に広がりつつある。
ロシア・ビヨンドのニュースレター
の配信を申し込む
今週のベストストーリーを直接受信します。