“ビットコインで資金洗浄”

アレクサンドル・ビニック氏(中央)=

アレクサンドル・ビニック氏(中央)=

ロイター通信
 ロシア人男性がインターネット上の仮想通貨「ビットコイン」を不正に使い40億ドル(約4400億円)を資金洗浄したとしてロシア人男性を、アメリカ連邦地裁が起訴した。どんな方法で何をやったというのだろうか?

 不法に得た金を資金洗浄する国際的ネットワークを構築し、世界最大級のビットコイン取引所を破綻させ、7年間にわたり、ハッカーと麻薬密売組織を援助し…これらがすべて、米司法当局の見解によれば、人気のビットコイン取引所を運営するロシア人男性がやったのだという。

 ギリシャの保養地ハルキディキにある五つ星ホテル。38歳のロシア人、アレクサンドル・ビニック氏はすでに2週間、家族と休暇を過ごしていた。ところが2017年7月25日早朝、彼の部屋に警察と特殊エージェントが踏み込んだ。

 窃盗、顧客の個人データの不正使用、麻薬取引への関与、犯罪組織への関与と、米連邦捜査局(FBI)の、ビニック氏への容疑は多数にのぼる。警察当局の見解では、 ビニック氏は、40億ドル(約4400億円)を持ち出し、ビットコインを不正に使い資金洗浄したという。

 ビニック氏はブルガリアにある世界最大級のビットコイン取引所(ネット上でビットコインを取引する)「ВТС-е」の所有者と目されており、この取引所を通じて、盗まれた金を資金洗浄していたという。捜査当局によると、事の発端は2011年にさかのぼる。当時、ビニック氏は取引所を開設し、その口座に、顧客から盗まれた金が集められたとのこと。

 

ビニック氏のビットコイン取引所について分かっていること

 2016年初めの時点のロシアでは、仮想通貨は、資金の進化などではなく、“世界の悪”とみなされていた。ビットコイン取引所「ВТС-е」も、裁判所の判決で閉鎖された(つまり、ロシアでは仮想通貨は不正であり、それで取引を行うことはできないとされた)。当時、ビットコイン取引所「ВТС-е」について分かっていたことは、その二人の運営者・プログラマーの名前が、アレクサンドルとアレクセイであり、ロシア版シリコンバレー「スコルコヴォ」で働いていて、ロシアに住んでいる、ということだけだった。

 「ВТС-е」はこの頃、ロシア語を使用するユーザーにとっては、主なビットコイン取引所の一つで、その取引額では世界で10位以内に入っていた。「ВТС-е」は、閉鎖されると、すぐさま「鏡」(別のサーバ)を手に入れたため、顧客はほとんど失わなかった。

 「ВТС-е」では一日当たり数千万ドルが取引されていた、と推測するのは、「Blockchain.Community」社の取締役で、取引所「Safello」の技術担当のアレクセイ・ブラギン氏だ。ロシアでは仮想通貨、とくにビットコインは、麻薬密売、ポルノ、武器密売などを連想させるので、仮想通貨取引所を運営していた者は事実上誰も身元を明かさなかったのだという。

 「だが時が経つにつれて、この市場も十分合法化されるにいたったが、『ВТС-е』の設立者は、“闇”にとどまった。これはよくない兆候だった」。ブラギン氏はこう考える。氏によると、この取引所の実業界での評判は良好で、大企業も利用していた。「だが、この取引所は常にグレーゾーンで活動してきた。取引を行うための許認可も取得していなかった」

 また、業界筋の話によると、この取引所はキプロスで登録され、サーバはブルガリアにあり、そのオペレーションには数行の銀行が参加し、うち一行はチェコに所在するという。

アレクサンドル・ビニック氏(左側)=ロイター通信アレクサンドル・ビニック氏(左側)=ロイター通信

犯罪者がビットコインを好む理由

 世界で最も人気の仮想通貨、ビットコインは、闇市場での需要が高く、そのため、犯罪を連想させるが、ヨーロッパの数カ国や日本などでは合法だ。

 仮想通貨の魅力は、トランザクションに銀行やブローカーなどの仲介者が要らず、ある財布から別の財布へ匿名で送られることにある。ビットコイン1単位当たりの価格は現在、2600ドル(約29万円)付近で推移している。

 

ビニック氏の手口と露見した訳

 米司法省の見るところでは 、ビニック氏の犯罪歴は彼が取引所を設立した2011年に始まる。そのとき、競合していた東京の取引会社「マウントゴックス」から、ビットコインが消えだした。「マウントゴックス」の個人および法人の顧客の財布に対し、定期的に数年間にわたりハッキングが行われた。その結果として、当時世界最大で、あらゆる仮想通貨による取引の70%近くを行っていた、「マウントゴックス」は、2014年に破たんした。

 WizSec社(ビットコイン・セキュリティの専門家集団)の調査グループが明らかにしたところでは、これらの不法行為のキーマンは、ロシア人男性、アレクサンドル・ビニック氏であった。調査グループは、トランザクションを分析した結果、盗まれた金は(他の取引所から盗まれたものも含め)、同一人物すなわちビニック氏の財布に集まったことが判明。コインはビニック氏の財布に入れられた後、ほとんどがBTC-eに移され、おそらく、売られるか洗浄された(その際、BTC-eのマネーコードを使うケースが多かった)」」と調査グループ。

 

今後の展開は

  「この調査では、ビニック氏をハッカーあるいは泥棒としてではなく、資金洗浄を行っていた者として特定する証拠が得られた」。WizSec社はこうした見方を示し、関連データをすべて米特殊機関に渡したという。

 ビニック氏は、米国に捜査のために引き渡され、20年以下の禁固刑と約50万ドル(約5500万円)の罰金が科せられる可能性があるが、ビニック氏本人は罪を否認している。「ВТС-е」は一時閉鎖となっている。ツィッターでは、現在復旧作業が行われており、復旧まで5~10日間を要する見込みだ、と伝えている

 Zecurion社のアレクンドル・コワリョフ社長は、仮想通貨による詐欺は今のところかなり稀だと述べる。しかし、このスキャンダルのせいで、 仮想通貨のレートはあるていど下がるだろうと、ロシアの専門家たちは見ている

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