クレムリンの厳重警備

クレムリン

クレムリン

アレクサンドル・ヴィルフ/ロシア通信
 国際婦人デーの3月8日、フェミニストがクレムリンの塔の上から横断幕をつりさげている画像が広く出回った。だが、これは偽画像だということがわかった。大統領官邸を特殊機関と連隊が厳重に警備しており、普通の人が上がることは不可能であるため、合成ということに驚きはない。

 2人の女性がモスクワ・クレムリンの角部にある武器庫塔から「国家の理念~フェミニズム」と書かれた横断幕をつり下げ、手に花火を持っている。これほどの大胆な行動を、まだ誰も成し遂げられたことはなかった。

 翌日、これが合成写真であることが判明した。クレムリンとアレクサンドル庭園で抗議行動を行った活動家らによれば、仲間がうっかり合成写真を公開アーカイブに入れてしまい、本物だと勘違いされたのだという

 

 

監視カメラ、センサー、フェンス

 この写真の疑わしさを最初に指摘した一人は、ロシアで人気の写真家でブロガーのイリヤ・ヴァルラモフ氏。「クレムリンの警備レベルを考えると、誰かがこんなことをできたとは思えない」と、自身が2011年に許可を取ってクレムリンの内部を見学した際の状況を説明しながら、書いている

 「どこもセンサーと監視カメラだらけ」とヴァルラモフ氏。掲載された写真から、クレムリンの壁の脇では数メートル間隔で監視カメラが設置されていることがわかる。また、壁に沿った通路は網やフェンスで封鎖されている。壁に沿って歩くことなど無理で、塔に上がることはそれ以上の困難である。

クレムリンの塔で警備にあたるスナイパー。2015年5月9日の 対独戦勝70周年記念式典パレードにて。=マクシム・ブリノフ/ロシア通信クレムリンの塔で警備にあたるスナイパー。2015年5月9日の 対独戦勝70周年記念式典パレードにて。=マクシム・ブリノフ/ロシア通信

国の中枢を守る人々

 また、ヴァルラモフ氏によれば、「(クレムリンの壁の脇の)いたるところにロシア連邦警護庁(FSO)の職員がいて、不審者はすぐに取り押さえられる」という。FSOは政府の安全を守る機関であり、大統領官邸であるクレムリンはその担当領域である。

 FSOの組織には、クレムリン連隊または大統領連隊も入る。連隊の隊員の一人が匿名でロシアの「ザ・ヴィレッジ」誌に説明したところによれば、約500人の隊員が所属しているという。連隊には5大隊あり、うち2大隊はクレムリンの警護を行っている。無名戦士の墓(永遠の炎)とレーニン廟の脇の重要な拠点に立ち、行進に参加している名誉哨兵中隊もいる。

 ザ・ヴィレッジの取材に応じた隊員によれば、クレムリンで内部の関係者が襲撃されたり、危険な目にあったりした場合、FSOの即応予備中隊(「現場スペツナズ(特殊任務部隊)」)、またモスクワ郊外に拠点を構える戦車や装甲車を所有する自動車中隊が呼ばれるという。

 

特別の中の特別

 クレムリン内のFSO組織はクレムリン連隊だけではない。政府要人やクレムリンを訪れる外国の賓客の安全を担うエージェントもいる。エージェントは特別な訓練を受ける。「どう警護しているのか(Kak Rabotaet Ohrana)」という映像によれば、定期的に格闘戦の訓練を受け、射撃の腕を磨いている。標的が群衆の中にいて射撃が困難な状況も設定される。また、世界で過去に発生した首脳に対する暗殺、暗殺未遂事件すべてを入念に調べ、外国の要人のふるまいを分析し、類似した状況をシミュレーションしている。

 クレムリンで公式会談が行われる場合、FSOは事前に大統領官邸の警戒レベルを高める。数日前からクレムリンの博物館のツアー回数を制限し、犬を連れた特殊機関員は通常会談場所となる大クレムリン宮殿(1849年建設)の広間を何度も見回り、不審物などがないかを確認する。FSOは時々、クレムリンで大規模な訓練を行う。特殊機関は昨年11月17日、警察、「国家警備隊(ロスグヴァルディヤ)」とともに、クレムリンに破壊工作員が侵入したというシナリオを作成し、数時間の訓練を実施した。この時、クレムリンは閉鎖された。

 

禁止された領域

 クレムリンに関連する制限は、地上だけではない。クレムリン上空では、クワッドコプターを含む、あらゆる飛行物体の飛行が禁止されている。これにより、観光客が拘束されることもある。FSOは2015年、ドローンでクレムリンを撮影しようとしたドイツ人カメラマン、ホルガー・フリッチェを拘束。罰金を科した。

 多くの人の推測によれば、クレムリン周辺でGPSやGLONASSの信号が消えるという異常は、ドローン対策と関連している。つまり、ナビゲーターの持ち主があたかもモスクワの空港のどこかにいるかのような表示になるという。だが、FSOの関係者は、信号を特別に消しているというようなことはないと、公式に否定している。

もっと読む:クレムリンの新たな観光ルート>>>

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる