ウクライナ軍パイロット事件Q&A

ロイター通信
 ウクライナ軍の軍人ナデジダ・サフチェンコ氏に対する判決公判が21日、ロシアの裁判所で始まる。サフチェンコ事件は欧米にとって、新たな対ロシア制裁をちらつかせる材料となった。物議をかもしているこの事件を、ロシアNOWがQ&A形式で整理する。

Q. ナデジダ・サフチェンコ氏とは誰か?

A. サフチェンコ氏は、ウクライナ軍の上級中尉、またウクライナ議会の現役議員(ロシアの拘置所に入ってから議員の地位を得た)。ロシアに勾留されたのは2014年7月。

 

Q. 問われている罪とは何か?

A. サフチェンコ氏は、全ロシア国営テレビ・ラジオ会社の記者イーゴリ・コルネリュク氏とアントン・ヴォロシン氏の殺害に関与した容疑で身柄を拘束された。2人の記者は2014年夏にウクライナ東部で死亡した。サフチェンコ氏は、記者がいた車列への砲撃の際の観的手だったとされている。

 また、難民を装い、身分証明書なしでロシアとウクライナの国境を不法に越えた罪にも問われている。サフチェンコ氏はウクライナ東部のルハンシク人民共和国の義勇軍から逃れてきたと、ロシアの捜査委員会は考えている。サフチェンコ氏が拘束されたのは、ロシアのヴォロネジ州。

 事件の証拠には、多数の目撃者の証言がある(戦闘に参加し、サフチェンコ氏を捕虜にした、ルハンシク人民共和国の軍人)。サフチェンコ氏があるインタビューの中で、ロシアの記者がいた車列への砲撃の観的手だったことを認めていたことにも、ロシアの検察は注目している。

 原告側は懲役23年を求めている(ロシアでは女性の重大犯罪の最高刑が懲役25年)。

Q. 弁護側の主張とはどのようなものか?

A. サフチェンコ氏は罪を認めておらず、被告側は無罪を主張している。弁護士によれば、記者が砲撃を受けた際、サフチェンコ氏はすでにルハンシク人民共和国の義勇軍の捕虜になっていたため、アリバイがあるという。さらに、義勇軍はその後、サフチェンコ氏を国境経由でロシアの特殊機関に引き渡したという。

 弁護士によれば、これは本人の電話の請求書および義勇兵の一人によって撮影された動画によって証明されている。動画には捕えられたサフチェンコ氏が映っており、動画は記者の死亡前に撮影されている。

 弁護士は、事件が捏造されていると考えている。また、サフチェンコ氏は判決後にウクライナで拘束されているロシア人と交換されるのではないかという。サフチェンコ氏は拘置所で、抗議として、ハンガーストライキを何度か宣言している。4日には「ドライ・ハンガーストライキ(断食断飲)」を始め、ウクライナに帰国するまで続けることを約束している。

Q. ウクライナと欧米はどう考えているのか?

A. 海外の高官からは、この事件に厳しい評価がなされている。ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領はこの裁判を、国際法に反した「茶番」と呼び、ロシアに「すみやかかつ無条件で」サフチェンコ氏をウクライナに帰国させるよう求めている。

 アメリカと欧州連合(EU)は、サフチェンコ事件とミンスク和平合意を直接関連づけている。アメリカのジョン・ケリー国務長官は7日、この裁判を「国際基準およびロシアのミンスク和平合意に対する義務を軽視」するものであるとの声明を発表した。

 この事件を受けて、欧州議会の議員57人が、ウラジーミル・プーチン大統領他28人に対する制裁を要求した。欧州評議会議員会議は、サフチェンコ氏が解放されるまで、ロシア代表団の全権回復を見送る。

Q. ミンスク和平合意がなぜでてくるのか?

A. ミンスク和平合意には捕虜と不法に拘束された者(人質)を解放する義務が定められた項目があると、国際政治鑑定研究所のエヴゲニー・ミンチェンコ所長は話す。ただ、「殺人事件の被告であるサフチェンコ氏は、正式にはどこにも該当しておらず」、さらにミンスク和平合意はウクライナと東部の人民共和国に限られたものである。そのため、ウクライナの首都キエフにいる軍人とサフチェンコ氏を交換することは、法的に不可能である。

Q. サフチェンコ事件はいかに利用されるか?

A. サフチェンコ氏の裁判は、アメリカの対ロシア制裁に影響をおよぼさない可能性が高い。この制裁の根拠として用いられているのは、クリミアのロシアへの編入であるため。とはいえ、事件を政治化することで、「ロシア政府を非難(ミンスク和平合意の失敗)するためのさらなる口実」ができるし、他の対立する問題にも利用できるようになると、ロシア科学アカデミー欧州研究所欧州安全保障部のドミトリー・ダニロフ部長は考える。

 

Q. ロシアが裁判で譲歩する可能性はいかほどか?

A. ロシアの専門家によると、可能性はほぼゼロである。罪の重さと事件の反響を考えると、サフチェンコ氏の裁判はロシアにとって重大な問題となるため、甘い判決は出にくいという。「自国を尊敬する国ならどこでもそうであるように、ロシアも外部からのあからさまな圧力に屈することはないということを示さなければならないため」と、政治学者で、社会経済・政治研究所諮問委員会の委員であるアレクセイ・ズジン氏は話す。

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