和平合意と欧州安全保障協力機構(OSCE)監視団の緩衝地帯への訪問にもかかわらず、ウクライナ東部では相互への銃撃が続いており、しばしば死者も出ている。昨年9月以降、激しい砲撃、銃撃はなくなったが、完全に止まるところまではいっていない。
東部の争いは続いている。それどころか全面的な武力衝突が再開する可能性もあると、独立系国家戦略研究所のミハイル・レミゾフ所長は考える。「『ゴルディアスの結び目』を一刀両断に断ち切る誘惑は、どこよりもウクライナ政府に残っている。紛争地域の軍事バランスは、ウクライナ軍側に大きく偏っており、速戦即決のシナリオを真剣に検討する可能性もある」とレミゾフ所長。
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ウクライナの地方分権と東部の紛争地域に「特別な地位」を与えることを許す憲法改正案を採決できない、とウクライナ政府が認識した場合、このシナリオは現実性を帯びるかもしれない。東部の平和に向けたロードマップであるミンスク和平合意に署名した、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は、憲法改正案の承認に必要な過半数の賛成をウクライナ議会で得られていない。多くの議員が、憲法改正案の内容は東部に譲歩しすぎていると考えているためだ。ちなみに、東部はこの内容を不十分すぎると考えている。議会が行き詰っている状況において、ポロシェンコ大統領への国際的な圧力が高まれば、ウクライナ政府は状況打開を模索する中で、東部で何らかの挑発があったように見せかけて、軍事力の使用に走る可能性がある。挑発があれば、ウクライナ軍は「対抗を余儀なくされる」し、紛争が悪化することで、ミンスク和平合意の履行は二の次になる。
とはいえ、このようなシナリオに発展する可能性は、やはりそれほど高くない。次の2つのシナリオのいずれかが、より現実的であろう。
軍事的解決策で東部の危機を何とかしようとしてきたこれまでの経験から、ウクライナはこの解決策に大きな期待など抱けない。ウクライナ軍はいくつもの敗北を喫してきた。そのため、軍事力を使うリスクは高すぎる可能性がある。
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ウクライナ政府が圧力に屈し、憲法改正案に賛成する票が投じられるのでは、という憶測もある。政治学者で独立系基金「政治工学センター」の理事であるイーゴリ・ブーニン氏によると、ウクライナ政府はミンスク和平合意の失敗の責任を自分たちに向けられるのを嫌がっているという。「改正案が採決されなかったら、アメリカもヨーロッパもウクライナ側に失敗の責任があると理解する」とブーニン理事は話し、こう付け加えた。「このような状況において、西側諸国が結集して圧力をかけたら、ウクライナ議会では必要な3分の2の賛成票が集まる」
とはいえ、専門家の多くは、ウクライナ議会で承認されることに懐疑的だ。次のシナリオすなわち現状維持の可能性が高いという声が多い。
議会で憲法を改正できず、ミンスク和平合意の失敗の責任も取りたくない、となれば、ウクライナ政府はミンスク和平合意の履行への第一歩をロシア政府にふませようとし続けるのではないか。CIS諸国研究所のウラジーミル・ジャリヒン副所長はこのように考える。ただ、このような進路変更は間に合わないかもしれない。
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となると、ミンスク和平合意をあたかも履行しているように見せかける可能性がある。「ポロシェンコ大統領のもとで起こっているのはすべて、改革もどきで政権を維持しようとする試み」と、ウクライナの政治学者で戦略研究所「新ウクライナ」の所長であるアンドレイ・エルモラエフ氏は話す。ミンスク和平合意を履行しているフリは、このウクライナ政治の中心的な問題である東部の問題の解決に新たな政治的策が見つかるまで続く。
とはいえ、新たな策を見つけるには、東部の勢力と対話することが必要となる。ウクライナ政府は東部の反政府勢力を「ギャング、テロリスト」と呼び続け、すでに2年も対立状態にあるため、対話には動かない。このような政治的な行き詰まりの中で、「ウクライナ政府は少なくとも次の大統領選までの2年間、政権を守れる手段を探している」とエルモラエフ氏は説明する。
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