ロシアが極超音速ミサイル「ツィルコン」の量産を開始

極超音速ミサイル「ツィルコン」

極超音速ミサイル「ツィルコン」

Sputnik
 「ツィルコン」は防空システムで迎撃できない世界初の極超音速ミサイルだ。2022年にはロシア軍の戦艦に装備される。

 ロシアの22350計画フリゲート「アドミラル・ゴルシコフ」からの「ツィルコン」ミサイルの発射実験が成功したというニュースに、『デイリー・メール』紙の読者は激しく反応した。ミサイルはマッハ9(時速約9500キロメートル)まで加速し、450キロメートル離れた標的を破壊した。これはプーチン大統領が言及した距離の半分だが、海軍が演習を行ったのが白海であったことを補足しなければならない。ここは交通の活発な海域で、大きな商港や世界最大の原潜工場「セヴマシュ」がある。 

 ともあれ、ロシア国防省のセルゲイ・ショイグ大臣はミサイル発射実験が成功したと断言した。これまで水上ないし水中からの「ツィルコン」発射に成功していたのは、最新の885計画多目的原潜「セヴェロドヴィンスク」だった。試験の完了はまだまだ先だが、軍はプロジェクトの成功を確信し、ロシア国防省主催の兵器見本市「アルミヤ2021」で早くもミサイル量産の契約を結んだ。軍がこのような行動に出るのは初めてだ。

 

「ツィルコン」について分かっていること 

フリゲート「アドミラル・ゴルシコフ」からの「ツィルコン」ミサイルの発射実験

 「ツィルコン」については、プーチン大統領が明かした速度(マッハ9)と射程(1000キロメートル)以外、ほとんど何も分かっていない。外観も機密扱いとなっている。分かっているのは、「ツィルコン」が恐ろしいのは、その軌道をレーダーで追跡できず、防空システムで迎撃できない点だということだけだ。

 また、このミサイルが多目的垂直発射装置3S-14から発射されるということも分かっている。この装置は長距離巡航ミサイル「カリブル」や対艦ミサイル「オニクス」だけでなく、極超音速ミサイル「ツィルコン」も発射できるのだ。実質的に3S-14がロシア海軍のミサイル兵器大量更新の鍵となった。 

 新兵器導入を担当する国防省のアレクセイ・クリヴォルチコ副大臣によれば、「ツィルコン」は「マルシャル・シャポシニコフ」といった1155計画戦艦や、949A計画多目的潜水艦、最新の885計画「ヤーセン」型潜水艦「セヴェロドヴィンスク」などに装備されるという。 

 この中で最初に「ツィルコン」を搭載するのは「ヤーセン」型シリーズ5番目の原潜「ペルミ」だ。この潜水艦は2025年以降に海軍に導入される予定である。この決定に至った理由は明らかでない。以前北方艦隊第11潜水艦師団のアレクサンドル・ザレンコフ少将はロシア・ビヨンドの取材に対し、「ヤーセン」型シリーズ2番目の原潜「カザン」も「ツィルコン」を装備する可能性があると話している。海軍はこうすることで「ヤーセン」型原潜の役割分担をしたと考えることができる。つまり、長距離巡航ミサイル「カリブル」と対艦ミサイル「オニクス」で武装した原潜は海上・陸上の目標を破壊するという「古典的な」課題を担当し、「ツィルコン」で武装した原潜はその「ボディーガード」となって、敵の最も危険な対潜艦艇が攻撃潜水艦に近付かないようにする。

ロシアはいかにして最初の極超音速兵器を開発したのか 

 開発者らにとって極超音速はさほど突拍子もない発想ではなかった。ソ連は1960年代にはすでに極超音速を利用していた。例えば核弾頭だ。弾道ミサイルで宇宙まで運ばれた弾頭は、そこから秒速6〜10キロメートルの速さで敵国に落下する。ソビエト版スペースシャトル「ブラン」はマッハ25で大気圏に突入したが、これは現代の「ツィルコン」の3倍の速度だ。MiG-31戦闘機に搭載された空中発射弾道ミサイル「キンジャール」を挙げることもできる。異なるのは、これらの飛翔体は極超音速に達するまでに加速の補助を必要とするということだ。ロシア海軍の新ミサイルは自力で極超音速に達する。

 ロシアがまさに今「ツィルコン」を作り出すことのできたのには、もう一つ重要かつ興味深い理由がある。それは一見軍事計画からは程遠そうな、カーボン・カーボン複合材料製の人工股関節の開発に関係している。近年の兵器見本市でこれを精力的にPRしているのが、レウトフ設計局を傘下に持つ戦術ミサイル兵器コーポレーションだ。巡航ミサイルや航空機搭載爆弾、沈底機雷と一緒に人間の骨格標本を並べるのは奇妙だが、これがまさに「ツィルコン」を理解する鍵となる。この素材は人間の骨組織に似ていて骨と一体化し、チタン製人工股関節と違って後に取り換える必要がない。だがそれだけでなく、摂氏2500度の熱にも耐えられる。これは5分以内に1000キロメートル先の目標まで飛ぶ「ツィルコン」が耐えなければならない温度だ。前世紀にはこれほどの高速飛行を可能にする技術がなかった。

 

*筆者は雑誌『独立軍事評論』の編集長である。

もっと読む:

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる