ロシアがISSに積年のプロジェクト、実験棟「ナウカ」を送る

Space Center "Yuzhny"/Roskosmos
 宇宙実験モジュール「ナウカ」は14年前に打ち上げられる計画だったが、道程は厳しかった。打ち上げは画期的な出来事と言って良い。なぜそれほど重要なのか、ISS(国際宇宙ステーション)の運用終了時期が迫る中、なぜ必要なのか。

「ナウカ」:「クルードラゴン」よりも大きい本格的な宇宙船、ISSの新たな一部

 「ナウカ」はロシアの11年ぶりのISS用モジュールで、ロシア初の宇宙実験棟でもある。しかしそれだけではない。これは事実上大きな宇宙船で、軌道上に出た後自力でISSにたどり着き、ドッキングする。欧米のモジュールでこれが可能なものはない。例えば、NASAのモジュールは自分で飛ぶことができず、中身の詰まった胴体にすぎない。シャトルの貨物室に入れて軌道まで運び、ロボットアームを使ってドッキングする。

 「ナウカ」の重量は21トン以上で、ロシアのモジュールとしては最も重い。長さは13㍍、直径は4.2㍍だ。7月21日にバイコヌール宇宙基地から打ち上げられ、予定では打ち上げ8日後の7月29日にISSにドッキングすることになっている。

胚の成長に関する実験が行われる

 「ナウカ」は当初から実験モジュールとして作られた(名称の「ナウカ」は「科学」の意)。現時点でISSのロシアセグメントには、「ザリャー」と「ズヴェズダ」という2つの大きなモジュール、宇宙船の係留所として使われる3つの小さなモジュールがある。

 「ザリャー」は主に倉庫として使われている。残る「ズヴェズダ」がロシアの主なモジュールだが、2つの船室と生命維持システム、操縦システムがあるのみだ。実験台が入る余地はない。装置を使うには「通路」に置くしかなく、後で保管場所にしまわなければならない。

 「ナウカ」の空間は十二分に広い。乗組員用の作業場が船内に14、船外に16あり、学術実験用に個別の実験室がある。例えば、人工的に引力を作り出し、さまざまな大きさの引力がさまざまな胚にどのような影響を与えるかを調べられる遠心機がある。

 もう一つの重要なイノベーションは、モジュールの外側に欧州ロボットアームが付いている点だ。これは操作可能な「宇宙の腕」で、ISSでの修復作業や技術的な作業、研究活動のために宇宙に送られることはめったにない。他の実験モジュールの場合、実験用のセンサーや装置は宇宙飛行士が船外に出て設置しなければならない。

 概して「ナウカ」は、ロシアセグメントとしても、またISSのその他の3つの研究用モジュール(米国の「デスティニー」、欧州の「コロンバス」、日本の「きぼう」)と比べても、十分に革新的だ。しかし留意点もある。実験台はそれ用に作られた装置としか互換性がない。他の実験モジュールでは大部分の規格が統一されている。

14年間打ち上げられなかった「ナウカ」、その苦難の歴史

 「ナウカ」はISSのロシアセグメントで最も多難なプロジェクトの一つで、工程は遅れに遅れた。ロシアがプロジェクトに取り掛かったのは2000年代初めで、しかもゼロからスタートというわけではなかった。「ザリャー」の予備版を実験モジュールに改造することになったのだ(「ザリャー」は宇宙に打ち上げられた最初のモジュールだが、ロシアセグメントに属するとはいえ、資金を出してこれを所有するのはNASAだ)。 

 「ザリャー」の双子は宇宙実験棟に改造されると決まった時点で8割完成しており、打ち上げは2007年に予定された。しかし、それ以後この野心的なプロジェクトは技術的・財政的な問題から恒常的に延期されていった。

 最大の「頭痛の種」が2013年の出来事だ。モジュールの燃料の配管に100ミクロンほどの小さな金属の削りくずが見つかった。同じような金属くずが燃料タンクでも見つかった。これはどうしても除去できなかった。「怒涛の清掃作業が総動員で行われた。二交代制で週7日働いた。恒常的な委員会、清掃、恒常的な実験。タンクが綺麗になったという調書を受け取ったかと思えば、しばらくしてまた汚染が見つかる」とモジュールを製造していたフルニチェフ・センターの関係者は語っている。 

 この金属くずが「ナウカ」を永久に地上に留め置いてしまう可能性があった。燃料タンクや配管に外的な粒子があると、理論上エンジンに達してこれを止めてしまう可能性があるからだ。そうなればモジュールは宇宙待機軌道で動けなくなり、その後大気圏で燃えてしまう。タンクの交換は論外だった。これを製造した「鎌と槌」工場はすでに営業をやめて取り壊されていたからだ。同じ規格の代替品を作る工場はロシアにはすでに存在しなかった。ちなみに、「ナウカ」の予備の燃料タンクも金属くずで汚染されていることが判明した。

 結局、タンクの清掃が何度も行われた後、委員会は作業を先に進めることを認めた。ただし、タンクと配管が使われるのは一度きり、打ち上げとドッキングの際だけで、ISS全体の複雑な燃料系統には接続しないということになった(さもなければステーション全体の安全性を脅かすことになる)。

「ナウカ」によってISSの寿命が延びたが、延命期間はそう長くはない

 ISSの運用期限は2024年に切れる。その後どうするか、参加国が思案しているところだ。2020年には、主導的な設計企業であるロケット宇宙会社「エネルギア」のウラジーミル・ソロヴィヨフ副社長がこう述べている。「現在すでに深刻な損傷を受けて運用できなくなりつつある部品が多くある。その多くは交換不能だ。2025年以降、雪崩のように多くの部品の故障が起こると予想している」。 

 海に沈めたり、月と地球の間のハブ基地にしたりといった案が他の国々によって検討されている。ロシアは2028年か2030年まで運用期限を延長する立場で、その後はISSプロジェクトから離脱して独自の宇宙基地(ROSS:「ロシア軌道サービスステーション」)を作る計画だ。「ナウカ」のドッキングにより、ロシアセグメントの運用期限はもう数年延びるかもしれない。

 とはいえ、「ナウカ」がその後ROSSの一部となることはない。「いや、『ナウカ』は地球で現行のISSの知見とあまりにも密接に結び付けられており、新しいステーションに適合させることは全く不可能だ」とソロヴィヨフ氏は2021年4月に語っている

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