ロシアの若者がジグリを崇拝する――なんで?!

 「ボエヴァヤ・クラシカ」(「戦闘クラシック」の意)のメンバーにとって、これは移動手段ではなく、人生のスタイルだ。

 早朝、モスクワから西に延びる連邦道路を、何台ものジグリが一列に進んで行く。強い雨が降りしきる。ひ弱なワイパーとフロントガラスの弱い空調が視界を悪くする。ドライバーらはサイドウィンドウを開けて頭を出し、向かってくる雨の雫に顔を晒してアクセルを踏む。前方には、レースサーキット「モスクワ・レースウェイ」と、そこに集まった「ボエヴァヤ・クラシカ」運動のメンバーらが待っている。

 「ボエヴァヤ・クラシカ」は、「ターズ」の愛好家の非公式団体である(「ターズ」とは「金盥(かなだらい)」の意。ロシア人はアフトヴァズの製品を、その品質を皮肉って冗談交じりにこう呼ぶ)。VAZ-2101からVAZ-2107までのジグリの全モデルのドライバーが、団体名と同名のインターネット・コミュニティーに集い、首都や地方でドリフト走行をしている。彼らは年に一度、仲間と会うために指定された場所に集結する。2019年6月29日、ターズ愛好家がモスクワ郊外のレース場のトラックを占領した。

金盥に乗る未成年

 券売所を過ぎると、イベント参加者はモスクワ郊外のレース場の狭い廊下を通って、たくさんのジグリで埋め尽くされた巨大な空間に出る。

 錆びて廃車同然のものから見違えるほど改造されて車体がピカピカのものまで、ロシア全国の「ボエヴァヤ・クラシカ」(団体のメンバーはジグリをこう呼ぶ)が整然と列を成して駐車している。

  見たところ、ここは死んだ(時に文字通りの意味で)ターズが行き着く場所らしい。

 「ある老人がこの車を13年間所有し、その後亡くなった。車は彼の死後3年間ガレージにあった。売りに出された時、私はそれを6万ルーブルで購入した。私は18歳だった」と21歳のエヴゲーニー・ガルコフさんは話す。

エヴゲーニー・ガルコフさん

 購入後、エヴゲーニーさんは真剣にVAZ-2105「ピャチョルカ」に投資した。「私はフロント・サスペンションを完全に改造し、レバー、ダンパー、スプリングを入れ替え、ニーヴァのエンジンを搭載し、82年製風の外観にした。バンパー、ライト、ワイパーなど、82年製のものから手に入るものは、すべて取り付けた」とオーナーは嬉しげに話す。彼の計算では、自分のターズの改造に、最初の価格以上の金額を注いだことになるという。

 実は、イベントの参加者の大半は未成年だ。「ボエヴァヤ・クラシカ」の魅力は、中高生でも手に入り得るということである。念願のターズを手に入れるためなら極端な手段に出ることも憚らないという十代の若者も珍しくない。

 リャザンのセルゲイ・ヤクーシンさんが最初に「ピャチョルカ」を買ったのは13歳の時だった。「私はプレイステーションを持っていたが、それを3万ルーブルで売った。父がその金で冬のドリフト用の車を買うよう提案した」とセルゲイさんは話す。彼はちょうどこの日17歳になった。

セルゲイ・ヤクーシンさん

 この間に彼は最初の「ピャチョルカ」を売り、3万5千ルーブルでVAZ-2107「セミョルカ」を購入した。「ボエヴァヤ・クラシカ」には付きものだが、根本的な投資なしには使い物にならなかった。

 「私たちはただの金属片になるまでに車を分解し、溶接し、染色し、2年かけて組み立てた。新しいサスペンションを設置し、プリオーラの新しい150馬力エンジン、ピストン、シャフト、単発マフラーを取り付けた。車室はスポーツタイプ風に改造した。2018年12月30日に初走行を行った」とセルゲイさんは完成品を自慢する。

 この高校生はターズにすでに30万ルーブルを費やしている。その分、車は相応の見た目になっている。今のところセルゲイさんはリャザンの雪上や濡れた路面でドリフト走行をして交通警察を恐れているが、「今年の夏にもれっきとしたドリフト用の車を作る」ことを計画している。

金は重要でない

 なぜ国産のターズが、改造に不相応な大金を注ぎ込む気になるほど若者を惹き付けるのか。答えは、多くの人にとって、「ボエヴァヤ・クラシカ」が人生のスタイルだからだ。

 「私はこれを見るなり、私にぴったりだと悟った」とイヴァノヴォから来た26歳のエヴゲーニー・スラヴェフさんは自分のVAZ-2101「コペイカ」について語る。80年代以降に生まれた若い世代にとって一台のターズの改造が夢の限界点である一方、より上の世代や生活の安定した人は、自分の趣味をビジネスに変えている。

エヴゲーニー・スラヴェフさん

 33歳のアレクセイさんは、そうした企業家の一人だ。彼は自身のガレージで車をカスタマイズし、それと平行してジグリのコレクションを収集している。「ボエヴァヤ・クラシカ」の集会には、イギリスの左側通行に合わせた右ハンドルのVAZ-2104「チェトヴョルカ」に乗ってやって来た。彼の家にはあと7台のマイカーのコレクションがある。

アレクセイさん

 「これはとても高価な喜びだ。子供と同じだ。子供を持つなら車は持たない。車を持つなら子供は持たない」と髭を生やしたこの男性は意味深な定式を持ち出した。

 この企業家にとって、ジグリは第一にノスタルジックな価値を持っている。彼はジグリに乗って街を駆け回りながら成長したのだ。「今はトヨタで駆け回っているがね」と彼は笑う。

 彼のコレクションで最も高価な車は、74年製のVAZ-2102だ。アレクセイさんは、50万ルーブルは下らないと見積もっている。

 だがターズの愛好家たちが自身の「ボエヴァヤ・クラシカ」を評価するポイントは金額だけではない。

 「私は街でよくレンジローバーやランドクルーザーに停められ、私のジグリを法外な値段で売るよう持ち掛けられる。そんな時私はいつもこう言う。『あんた、こういう車が欲しいんだったら、自分で作れ』と。」

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