現代ロシアの英雄は誰か

アレクサンドル・キスロフ
 スティーブ・ヴォズニアック、マーク・ザッカーバーグ、イーロン・マスク――彼らに比肩するロシア人は誰だろうか。彼らなくして、我々が宇宙の姿や物質世界の限界を知ることはなかった――そんな人々をご紹介しよう。我々のすぐ隣にいる、ロシアの天才たちだ。

グリゴリー・ペレルマン:宇宙の謎を解いた隠遁者

 想像してほしい。あなたは地上で最も賢く、7つのミレニアム懸賞問題のうち一つを解決した。この功績に対し学界はあなたに100万ドルの懸賞金を出すことを決定した。もしそこで懸賞金を拒み、自宅に引きこもり、電話にも出ないとしたら、あなたはグリゴリー・ペレルマンだ。

 サンクトペテルブルク出身の天才数学者が世界的に有名になったのは、2010年に彼が懸賞金を断った時だ。尤も、彼がポワンカレ予想の証明をインターネット上で発表したのは2002年のことである。超難問の仮説に対する簡潔な証明を「解読」するのには学界も相当の時間を要した。ペレルマンは細部の多くを「当たり前のこと」として省略していたのだ。

 大雑把に言えば、彼が証明したのは前世紀で最も衝撃的な仮説だ。我々の宇宙が三次元の球形をしている、というのがその要点である。彼は8年かけてこの問題を解決した。

 賞金を受け取らなかった理由について、彼は数少ないインタビューで答えている。「私は宇宙を操る術を知った。なぜ100万ドルに飛びつく必要があると言うのか。」

コンスタンチン・ノヴォショーロフとアンドレ・ガイム:大発見はセロテープのおかげ

 この2人は2010年にグラフェンの発見でノーベル賞を受賞した。世界経済を変えた素材だ。ところでこの地球上で最も堅固でも夫も薄い素材は、危うくごみ箱行きになるところだった。

 グラフェンは原子一つの厚さしかない。こうした層が何十億にも重なってグラファイトを形成する(グラファイトからは、例えばシャープペンシルの芯が作られる)。このうちたった一枚の層を取り出せるとは、以前は誰も信じていなかった。ところがノヴォショーロフとガイムは違った。彼らが注目したのは……ごくありふれたセロテープだった。これを使って、グラファイトからグラフェンの層を剥がし、顕微鏡で調べ、その後は捨てていた。必要なのは、グラファイトにセロテープを貼り付けては剥がすという動作を、最後の一枚の膜になるまで繰り返すことだった。天才的なものというのは、概してシンプルなのだ。

 今やグラフェンはスマートフォンや自動車、スポーツ器具に応用されている。グラフェンでジャケットが作られ、髪が染められ、癌との戦いに応用する試験も進められている。これはまだ始まりに過ぎない。

ユーリー・オガネシャン:物質世界の拡大

 40年以上の歳月を、失敗に終わるかもしれない一つの実験に捧げる?うむ、いかにもロシア人らしい。

 まさにこれを実行したのが、物理学者ユーリー・オガネシャンだ。彼は物質世界の範囲を拡げる挑戦を決してやめなかった。

 探求のきっかけは、米国で1955年に発見された101番目の元素だった。物理学者らはこんな疑念を抱いた。もしかすると、元素はずっと多いのではないか。さらに、決して崩壊せず、何十万年も、何百万年も命脈を保つ元素(ウランよりずっと重い)が存在するかもしれない。こうして現れたのが、別の法則に支配された、我々が思いも寄らないような物質世界が存在するという「安定の島」理論だ。

 「我々は地上を探し、月の標本を調べ、アメリカで地下核実験を行い、大きな加速器を作った。だが結果は得られなかった」とオガネシャンは回想している。

 彼が最初の「島」に接岸したのは、2000年のことだ。これは加速器で合成された114番目と116番目の元素だった(地球上の自然界ではこの元素はついに発見されなかった)。2015年の時点では、新しい超重元素はすでに6つ見つかっていた。これで終わりではないかもしれない。新元素の発見者は、何度もノーベル賞の受賞候補に挙がっている。2017年に加速器なしで「安定の島」が見つかったとはいえ、それは我々から370光年離れたケンタウルス座の中のことだ。

イーゴリ・ミトロファノフ:火星に水を見つけた男

 地球外生命を探して惑星や衛星をすでに10年以上も系統的に調査し続けている宇宙船機器の産みの親は、世界でこの人物だけだ。こうした機器は現時点で6つあり、最新のものは2018年に水星に向けて飛び立った。

 火星と月で水が見つかったのはミトロファノフのおかげだ。彼の中性子検出器が米国の火星探査車「キュリオシティ」に搭載されている。ミトロファノフの別の機器は木星に向かった。

 結局のところ目的はただ一つだとミトロファノフは言う。「今私たちの水道の蛇口から流れている水は、惑星間からやって来た隕石によって地球にもたらされた可能性が非常に高い。水星や他の地球型惑星の進化を調べることで、私たちは自分たちの惑星の過去や未来をより良く理解することができる。」

ジョレス・アルフョーロフ:人類を進歩の新しい段階へ

 こちらもノーベル物理学賞受賞者であるジョレス・アルフョーロフは、1968年に米ソ間で展開したレーザー競争の参加者だった。当時学者らは、半導体レーザーという新テクノロジーの開発でしのぎを削っていた。これは電子工学の全くの異世界への扉を開き得る技術だった。

 彼はやってのけた。アルフョーロフが最初に開発したテクノロジーは、その後レーザーターンテーブルやディスク、携帯電話、太陽電池、レーザーメス、光ファイバー(これがなければインターネットは生まれなかった)、その他多くの宇宙テクノロジーに応用された。

 米国とドイツの学者が同分野で功績を残していたため、2000年のノーベル賞は3人同時受賞となった。しかしアルフョーロフはインタビューでこう述べ続けている。「電子部品の製造は私たちのほうが先に始めた。1990年代という混乱の時代がなければ、iPhoneやiPadは、アメリカではなくロシアで先に開発されていただろう。」

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