“オブエクト775”というコードネームのこの戦車は1964年に誕生した。当時は世界中の軍隊がミサイル兵器を搭載した初の重装怪物を作り出そうとしていた。
そしてロシアは、試験的に2つの対空ミサイルシステム“ルービン”と“アストラ”を統合し、一台の戦車に装備した。こうして誕生したのが“オブエクト775”だ。
外見
新しいモデルを“古典的な”戦車から隔てていたのは、乗員2人が砲塔内の個室に配置されていたという点だ。したがって砲塔が回転すれば、乗員も一緒に回転した。
乗員の新しい配置方式は、新型戦車を“扁平にした”。技師たちは車高を170センチメートル(当時の他の戦車より約1メートル低い)まで低くし、当初の想定では、戦場での生存率を高めることに成功した。
しかし車体の低さが原因で乗員の視野も狭まり、1メートル半の戦車にとっていかなる障害も深刻な障壁となってしまった。
ミサイル
この戦車の主要な利点はその装備だった。“オブエクト775”は施条つき125 mmロケット砲を搭載した鋳鋼製の砲塔を持っており、誘導ミサイルも無誘導ミサイルも使用できた。
「誘導ミサイルの弾頭には成形炸薬弾が搭載され、赤外線レーザーで目標まで誘導されていた。ミサイルは戦車から4キロメートル離れた目標を破壊し、250ミリメートルの鋼鉄製の装甲板を貫通することができた」と軍事専門家ヴィクトル・リトフキン氏は語る。
彼によれば、この戦車は自動装填システムを搭載しており、射撃(正確にはロケットの発射)は指揮官たるオペレーターが制御盤で行った。
「これに加えて、無誘導のミサイルは目標に命中すると周囲数十メートルに拡散するフガス榴弾を備えており、これは敵の人的兵力に対して効果的な武器だった」と専門家は指摘する。
このような砲弾は最大9キロメートル先の敵を仕留めることができるが、これは現代の戦車の能力に匹敵する。
さらに、“オブエクト775”は誘導ミサイルを24発、無誘導ミサイルを48発輸送できた。つまり弾薬基数は計72発だった。
しかし、この一見先進的で恐るべき兵器には非常に重大な欠点があった。
短所
“オブエクト775”のそれ以後の製造を阻んだ主要な短所は、まさにその赤外線レーザーである。
「どんな障害でも、それが煙幕であれ、戦車の誘導ミサイルを完全に制御不能にしてしまった。事実上、一番の長所となるはずだった特徴が、最大の短所となってしまった」と我々の対談者は付け加えた。
また、ミサイルシステムは通常の戦車の砲弾より遙かに高価で、この戦車の価格を吊り上げてしまった。“低すぎる”操縦室からの視界の悪さが、戦車にミサイルシステムを搭載することの潜在的な利点を完全に無にしてしまった。
そんなわけで、軍司令部は企画の発展や量産計画をあきらめた。現在世界に存在する“オブエクト775”はたったの一台で、モスクワ近郊の博物館に展示されている。