ロシア外務省の声明は次の通りだ。「我が国は、敵国に対し何らかの『先制核攻撃』を行う脅迫を含む公的な声明を発表することは絶対に容認できないと考える」
この声明では、史上最大規模の合同軍事演習を展開した (3月7日に開始) 米国と韓国に対し、敵意を煽ったとの非難もなされているが、主なメッセージは北朝鮮に対するもので、結果を顧みずに軍事力をひけらかして敵を挑発することは、同国に対する軍事行使の法的根拠となりかねないと警告している。 モスクワはさらに、攻撃の脅しは言うまでもなく「核攻撃」の脅しは、「国連憲章に謳われている国家の自己防衛権」の発動につながるという指摘も加えた。
これまでの発言内容を見る限り、これはモスクワが平壌に対して発した通告の中ではもっとも厳しいものとみなすことができよう。 あらゆる意味で画期的な出来事なのだ。
専門家の間では、ロシア外務省の声明の深刻さが確実に受け止められた。 「ロシアは、北朝鮮の扇動的なレトリックは、主に韓国と米国を中心とする敵国に対し、軍事行動に踏み切るための正当な根拠を与えることになると指摘しているのです」という、地域情勢に詳しい専門家クリストファー・グリーン氏の発言は、英国ガーディアン紙に引用された。
この英国日刊紙の時事問題解説者はまた、次のようにも述べている。「まだ平壌との友好関係を維持している数少ない国までもが、ますます対立姿勢を高める北朝鮮に対し懸念を抱いています」
ロシアが北朝鮮の「友好」国であるという仮定は疑わしいものの、主な結論は正しい。ロシアだけでなく中国も、朝鮮半島の両国間の軍事行動の緊迫化に対し本当に懸念しているのだ。
ロシア科学アカデミー・対アジア戦略センター所長のゲオルギー・トロラヤ教授は、ロシアNOWに自身の視点を説明してくれた。
北朝鮮の指導者の金正恩氏はある程度、誰にとっても頭痛の種になりました。 彼の指揮のもと今年行われた核実験やミサイル発射試験は、韓国における米軍の強化と軍事力の増強を道徳的かつ実用的に正当化する根拠を与えました。 これは我々にとっても問題ですが、中国にとってはなおさらそうです。 外務省の厳しい声明は、そのような懸念を反映したものです。
私は、ロシアが北朝鮮に対する制裁に参加すべきかどうかの賛否両論を分析した学術論文を執筆しました。 それに対する明らかに真っ二つに分かれたコメントから、2つの的を射たアプローチが表面化しました。 一部の専門家は、米国から何らかの方法で「報酬」が得られるため、制裁に賛成することが正しいと主張しました。 もう一方の専門家は、それは何の目的も果たさず、米国がロシアに対して好ましい印象を抱くわけでもなく、ロシアは北朝鮮とのつながりを失ってしまうだけだと主張しました。
間違いなくありあります。また、軍部に対する影響力を強化したり、人民の間で人気を高めるといった目的もあります。 しかし、それは「なだめ」とはほど遠いものです。なぜなら、軍の指導部は最近の粛清で完全に震え上がっているため、金家の跡継ぎが持つ最高権力に挑戦することなどとても考えられないからです。
南北朝鮮間で継続する対立を増大させることは、ロシアの利益に有害だ。 第一に、どう考えても、朝鮮半島までる不安定の弧が延々と続くことをモスクワが望むはずがない。
第二にそれは、地域の提携国との経済的および通商的なやり取りを量と質において徐々に増加させていくことを目指すロシアの「アジア重視」の長期的戦略に悪影響を及ぼすであろう。
モスクワは、過去6ヶ月間に北朝鮮に寄港した船舶による韓国の水域への侵入を禁止するなどといった、北朝鮮に対して独自の一方的な制裁措置を強化するという韓国の決定を重く受け止めた。 この禁止により、ロシア産の石炭を北朝鮮の港湾都市の羅津を介して韓国に輸送する目的の「羅津・ハサンプロジェクト」が実質的に中止されることになる。
最後に、朝鮮半島における潜在的な対立関係が持続すれば、ロシアに利益は何ももたらされず、失われるものは多大となる。 北朝鮮の無責任な行為に対抗して米国がより高度の兵器を韓国に配備すれば、韓国は在韓米国軍が足かせとなり、北の同胞に対する友好的な外交の可能性が制限されるであろう。
孤立した北朝鮮の政権と予測不可能な統治体制とよりポジティブに接触する機会を提供するはずだった6か国間交渉は、今回よりも悲観的なムードだった2008年に崩壊したが、上記の対応は6か国間交渉の再開に対し障害となるだろう。
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