シリアのロシア軍を縮小する狙い

画像:アレクセイ・ヨルスチ
 シリアにおけるロシアの軍事活動を縮小化して焦点を定め直すという、最高司令官としてのウラジーミル・プーチン大統領による命令の背後にある真の理由をめぐる論議の結論は、おそらく将来の歴史家に委ねられることになるだろう。 それはまるで、地政学的な性質の謎がパズルという形で提示されたかのようだ。

 表向きは、それなりに説得力があるように見受けられる。 ロシアのプーチン大統領は、軍の主要部隊を撤退させるのは、軍が「大方その目的を達成した」ほか、外交面において、内戦に終止符を打つためのシリア国内の対話開始が設定されたからであると発表した。

 モスクワは、シリア全体を取り巻く劇的状況の関係者全員を包含する、すなわち、シリアのクルド人が同国の将来に関する交渉に参加することを認める、というアイデアを推進した。 「(交渉に) シリア国内のあらゆる範囲の政治勢力が包含されるべきであることは明白である。そうでなければ、これは全関係者を代表するフォーラムであるとは言えないだろう」とラブロフ外相は述べた。

 シリアのクルド人は、アサド大統領に忠誠を誓うアラウィー派やスンニ派と同様に、内戦の形勢が自分たちに有利になるように情勢を逆転させたロシアに対し、ある程度は感謝しているはずだ。 これは、内戦に決着がついていない状況下で突然180度の方向転換がなされた主な理由といえよう。

  

有利な状況を地固めして利益を確実に

 モスクワに隠された動機があるとしたら、それはどのようなものだろうか。 トルコやサウジアラビアによる地上軍投入の警告が現実化した場合に、両国の軍と近接遭遇することを恐れた、という可能性はあるだろうか。

 それとも、シリアの内戦における軍事的および外交的な関与を通じて得られた最有力の利益を確実にするという、慎重に計算された戦略であろうか。

 その論理は次のように説明することができる。ロシアは、米国と共に現在の休戦状態の保証人として、必ずしも敵対的ではないダマスカスの新たな政権と、大方はモスクワの戦略的利益に対して一定の理解を示すシリアのクルディスタンという形に近く「連邦化」されるであろうシリアの分割を監督しようというものだ。

 

識者の見方

 アラブ地域の政治を専門とする国立ロシア人文大学のグリゴリー・コサーチ教授 に、この2つの仮定について解説してもらった。

 「私は2つ目の方により実体があると思います。 モスクワは、巨大な2つの領土を支配することになる各権力に対し、自国が持つ影響力を維持できると考えているかもしれません。 その1つはダマスカスからアレッポの間の地中海沿岸をつなぐ地域、そしてもう1つは主にクルド人が住んでいる北部を包含する地域です。 これが『賞金ファンド』となり、それでおそらく十分でしょう」

 それはロシアで禁止されているイスラム国(IS)やその他のテロ組織に大打撃を与えるという当初の目標にどう関係するのだろうか?

  「ロシア軍の関与により、イスラム過激派がシリアの領土の大部分を奪い取ることを防止したと主張することができます」とコサーチ教授は反論した。

 ロシアが世界のこの特別な地域に和平の仲介役および紛争調停者として戻ってくることを暗示しているとすれば、モスクワは独自の目標を達成したことになろう。 モスクワは、自ら何度も繰り返し主張してきた内容を実証して見せた。それは、比較的ロシアの国境に近い地域的紛争においては、ロシアは敵対する当事者に対し影響力を行使し、問題解決に向けた土台を築くことができるということだ。

 

「退却」なのか、それとも「撤退」か?

 シリアの内戦における当事者間の敵対関係が依然として収まっていない中でロシアが軍事的関与を縮小化することは、ロシアが失敗したことの黙認に他ならない、と懐疑論者が解釈する可能性がある。あれは退却を意味する、と。

 ロシアの外交の支持者の間では、これは並行展開した戦略 (アサド政権の軍事力強化と、穏健派の敵対者を外交的手段により関与させること) が功を奏したことの証明とみなされる。

 後者すなわち懐疑論者にとっては、これは撤退という位置付けとなる。 「退却」が臆病な逃亡を強いられることを暗示するのであれば、それは通常なされる区分にうまく適合する。 逆に「撤退」は、長期的な目的に従った計画的な行動となる。 よく耳にする「これは退却しているのではなく、戦略的撤退 (「転進」) なのだ!」という言い回しと同じである。

 そのタイミングについてだが、それは、株価が下がっている時に買い取り、株価が上昇したら売りに出るという、日常的によく利用されるものの巧妙なやり口に似ている。

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