シリアを巡って米露は合意したはず

=アレクセイ・ヨルスチ

=アレクセイ・ヨルスチ

ロシアや外国の専門家が結集する「バルダイ会議」が先週ロシアで行われ、シリア問題などが討議された。国連総会に先立って、シリアを巡るロシアと西側諸国の意見対立、関係者の証言、専門家の意見をまとめてみた。

 アメリカのジョン・ケリー国務長官は、国連安全保障理事会シリア決議案を9月末までに採択するよう要求している。だがそれは現実的には見えない。ニューヨークで始まる国連総会では、ロシアのラブロフ外相とケリー国務長官の会談が行われるが、両国の政府の間で生じた意見対立がここで簡単に収まることはない。ロシア連邦大統領府に近い関係筋によると、ロシア政府はだまされたと考えているという。

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 ロシアとアメリカがシリアの化学兵器の廃棄に向けた枠組みで合意したことは、両国がもっとも深刻な国際問題を共に解決することができるという初めてのアピールになった。しかしながら関係筋によると、アサド政権による化学兵器廃棄の「ロードマップ」の基礎となる、ラブロフ外相とケリー国務長官が署名した合意文書は、歪曲されたという。フランス、イギリス、アメリカは国連安保理にシリア決議案を提出。その中には化学兵器廃棄計画以外にも、シリアに対する武力行使を認め得る国連憲章が含まれていた。アサド政権がその義務をいかなる形で怠っても、攻撃の理由になるのだ。関係筋によると、ラブロフ外相とケリー国務長官の会談では、この件が一切話し合われなかったという。ロシア政府はあくまでも合意された計画を実行するよう、西側諸国に求めている。この計画では、シリアを化学兵器禁止条約に加盟させ、化学兵器禁止機関が作成している推奨事項にもとづいた、シリアに対する制裁抜きの国連安保理の決議案を、採択することが定められていた。ロシア政府は、あくまでもシリアが約束を守らなかった場合に、アサド政権に対する制裁を盛り込んだ新たな決議案を採択することを提案している。

 ロシアとアメリカの協議を知る関係筋によれば、もう一つの原則的な合意として、アサド大統領がその義務を果たせるよう、アメリカ側が同大統領に対する脅しを今後行わないということがあるという。しかしながらアメリカ政府は、このジュネーブで行われた二国間協議について、異なった解釈をしたようだ。アメリカはアサド大統領の問題を国際裁判所に委ねるという独自の計画を発表し、その対人犯罪の証拠集めを始めた。ロシア政府はこのようなことから、アメリカの一部勢力がジュネーブの米露合意を決裂させることにした、あるいは自分たちに都合の良いように見直しを図ったと考えている。

 アサド政権が義務を履行しなかった場合の予備的な「B計画」は、ロシアにあるのだろうか。ロシア政府に近い関係筋によれば、そのような計画はないそうだ。ラブロフ外相とケリー国務長官がジュネーブで合意した計画を西側諸国が回避しない限り、シリアが約束を破ることはないとロシア政府が考えているためだ。一方で、シリアが正式に化学兵器を廃棄すれば、アメリカがアサド政権転覆のための武力行使を完全にあきらめるのかについて、ロシア政府には自信がない。

 誰がどこで化学兵器を廃棄するのだろうか。セルゲイ・ショイグ国防相は、この任務を行う国際同盟にロシアが参加する可能性を伝えた。だがこれは、ロシア政府が単独でその作業に参加するということではない。廃棄作業が行われる地区の安全を確保するため、ロシア、アメリカ、他のヨーロッパ諸国(フランスとイギリスの可能性あり)の軍が参加することになっている。これらの国が参加すれば、シリアの反体制派から挑発を受けるリスクを低減できる。それでもこの任務に参加する人員の安全確保が、重要な課題の一つであることに変わりはない。化学兵器の廃棄に関わる国の参加者の総人数は1万人に達する可能性があり、金額にして10億ドル(約1000億円)超、活動期間は最低1年を要する。だが専門家によれば、シリア紛争が続くなかで廃棄活動が行われるため、化学兵器の搬出にかかる費用や活動期間は、これより著しく拡大する可能性があるという。 

 化学兵器禁止機関のアフメット・ウズムジュ事務局長は、シリアが10月14日に正式な化学兵器禁止条約の加盟国になると伝えた。190ヶ国目の加盟国である。これはつまり、シリアが短期間で、自国の化学兵器、その生産設備および資材を完全に目録化しなければいけないことを意味する。

 シリア政府が化学兵器で攻撃していないということが証明されたら、ロシアとアメリカはどのような動きをとるのだろうか。正式な結論が出た後でロシアやアメリカが後戻りすることはできないため、これについてラブロフ外相とケリー国務長官は話しあっていない。

 シリア情勢は今後どうなるのだろうか。これについてロシアの専門家社会や政府の内部の意見は異なる。ロシア科学アカデミー東洋学研究所の所長であるヴィタリー・ナウムキン教授は、シリアの将来を予測する際、従来の研究方法から離れ、主要な地政学的関係国の利害の一致または不一致について話すべきだと提案した。ロシアと西側諸国の利害の一致は現時点で、不一致よりもはるかに多い。どちらの側もシリアの大量破壊兵器を廃棄すること、シリアの難民の問題を解決すること、過激派に反対することに賛成している。今後のあり得るシナリオについては、モスクワの「カーネギー・センター」の上級専門家であるアレクセイ・ミラシェンコ教授の予測によれば、少なくとも3つの説を打ち立てることが可能だという。その中にはアサド大統領がシリアの次の大統領選挙まで国際社会を欺くなどして、国連安保理の決議の有無にかかわらず、シリアが攻撃されるというものもある。しかしながらどの専門家も、シリア情勢の今後の予測が極めて困難であるという点で同意している。また、「シリアの崩壊を誰も期待していないため、それは起こらない」という。 

 ロシアと西側諸国にとって、シリア情勢は国際関係がいかに予測不可能かという実例になった。だが同時に、ロシアとアメリカが”フェアプレー”の規則を守れば、世界の紛争を解決すべく共にイニシアチブを発揮できることも示した。