さて、あなたはロシア人の友人たちに招かれ、宴席を囲み、慎重にロシア料理を試している。その時、ロシア人たちは突然、抒情的な歌を歌い始める!そう、最初はびっくりするかもしれないが、これはロシアの、特に年配層ではおなじみの伝統的な温かい光景なのだ。歌われるのは、ロシア民謡や、ソ連時代の人気映画の挿入歌。ギターやアコーディオンの伴奏がつく事もあるが、楽器が無い場合も多い。以下は、代表的な曲の数々である。
1. 『おおカリーナの花が咲く』
1950年の映画『クバンのコサック』の挿入歌。たいへん抒情的なこの歌は大いに歓迎され浸透し、今でも、民謡だと誤解している人は多い。映画のヒロインは惚れた若者のことを歌うが、気持ちを伝える術が分からず、彼にはどうか自分で気付いて欲しいと願う。
2. 『むかしのままに』
こちらも同じく、『クバンのコサック』の挿入歌で、やはり国民的な歌となった。愛するコサックの男が戻るのを待つ女の物語である。
3. 『細いナナカマドの木』(『小さいぐみの木』)
孤独な細いナナカマドの木が、樫の木の傍近くに寄りたいと願う歌。これもまた、国民的な一曲である。実際には、この曲のもとになったのは詩人イワン・スリコフの1864年の詩である。しかしモチーフは、確かに民族的だ。19世紀から市場で歌われ、やがて宴席でも歌われるようになった。
4. 『金色の灯りは数限りなく』
宴席では非常にポピュラーな歌で、サラトフ市の街灯りを歌う。1957年の映画『ペニコフでの出来事』のために作曲された。ヒロインの周りには独身の男が多くいるが、彼女は既婚の男に惚れてしまい、自分の感情と戦う。
5. 『ななかまどの繁みよ』(『ウラルのななかまど』)
この歌は1953年、ウラル・ロシア民族コーラスが初めて披露した。どの花婿が最も好きなのか、どうにも選べない娘の歌だ。ソ連でレコードが出てから大人気となり、こんにちまで歌われ続けている。
6. 『母がとにかく結婚させようとする』
苦しい境遇を歌った、陽気な調子の民謡(少なくとも、作者は不詳)。母親が娘に何人もの婿を提案するが、不誠実だったり、呑兵衛だったり、チビだったり、娘は誰も気に入らない。ようやく気に入った1人は、娘にはなびかなかった。
7. 『ああサマーラの街よ』
19世紀末~20世紀初めごろ、ヴォルガ川のほとりのサマーラ市で生まれた民謡。この歌が有名になったのは1950年代、ソ連の有名歌手たちのレパートリーに入ってからのこと。宴席でよく歌われる他の歌曲と同様、これも初恋がテーマ。片思いか両思いか、娘が思い悩む内容である。
8. 『古いカエデの木』
1961年の映画『女子たち』で使用された曲で、ロシアでも最もよく知られた歌の1つだろう。作中では、両思いの男女が一緒に歌っている。
9.『黒いカラス』
19世紀前半頃に書かれた詩に曲をつけたもの。自分の死を親族に伝えてくれるよう、黒いカラスに頼むコサックの歌である。
10. 『信じていた、信じている』
愛を歌った、ロシアのロマンス歌曲の古典である。作者は不詳で、民謡として扱われている。
11. 『黒い瞳』
『黒い瞳』は非常に有名な歌で、コンサートでも宴席でもよく歌われるロシア・ロマンス歌曲の代表的な曲。19世紀にはモスクワの流行りのレストランで頻繁に演奏され、やがて世界中に知られるようになった。
12. 『モスクワ郊外の夕べ』
モスクワ郊外の美しい夕べを讃える歌なくして、宴席と言えようか?1950年代半ば、ソ連のスポーツを取り上げたドキュメンタリー映画のために作られた曲だが、1957年の世界青年学生祭典のテーマ曲となり、その後、世界的な知名度を得た。
13. 『小麦色の娘』
ロシア内戦時のパルチザン娘を題材に、1940年に作られた歌である。しかし初公演はずれ込み、1944年にモスクワで行われた。国民的な人気曲になったのは、1973年の映画『出撃するは老兵ばかり』が切欠だった。
14. 『ヴォルガの舟唄』
19世紀のヴォルガ川の船曳き人夫を歌ったもので、人々が耕作地を得るために、木を根こそぎにする様子を題材にしている。フョードル・シャリャーピンが歌ったことで、ロシア全国に知られるようになった。
15. 『馬』
1994年、作曲家のイーゴリ・マトヴィエンコと作詞家のアレクサンドル・シャガノフがロックバンド「リュベー」のために手掛けた曲。ほどなくして国民的な人気を得た。コーラス向きの曲で、プロのアーティストにも、一般家庭の宴席でも好まれる歌である。