この名前はロシアの代名詞のようなものだ。外国人からすれば、ロシアの男性の半分がイワンなのではないかとも思える。しかし、現実はそう単純ではない。
ロシアの絶対的主人公
「イワン」が最もロシアらしい名前だというのは、ロシアについて最も広まっているステレオタイプの一つだ。厳密に言えば、イワンはロシア語起源の名前ではないが、数世紀にわたってロシアで人気のある名前であることは間違いない。
大衆文化の中で広範に用いられていることが、その人気の一因かもしれない。概して、イワンという名前はロシアの文化と歴史において普遍的に現れる。ロシアおとぎ話に登場するイワンたちを挙げるだけでも十分だろう。
イワンはロシアの民話に欠かせない主人公だ。万人を代表する名前であり、したがって名前自体は物語の内容に比べて重要度が低い。
「昔々ある所に3人の息子を持つ王様がいた。末息子はイワンと言った」――有名なロシア民話『イワン王子と灰色狼』はこの文句で始まる。
「イワンのばか」もロシア民話によく登場する主人公だ。ロシアの民間伝承では、イワンのばかは純真だが幸運な若者として描かれ、しばしば常識外れの行動をするが、結局は成功を手にする。
イワンはロシアの古典文学にもよく現れる。有名な作家や著名な登場人物もこの名前を持っている。代表的なものだけでも、トルストイの『イワン・イリイチの死』や、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』(「ワーニャ」はイワンの愛称)、ソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィチの一日』など、枚挙に暇がない。
教会の影響
イワンという名前がロシアでこれほど一般的である理由は、別の角度からも説明できる。
ロシア革命以前、教会は子供を正教会の聖人に因んで名付けるよう人々に奨励していた。それぞれの聖人に名前の日があるが、「ヨハネ」という名の聖人が最も多いため、イワンの普及に拍車が掛かった(Ivan「イワン」はIohannes「ヨハネ」に由来する)。
米国でジョン(John「ジョン」もIohannes「ヨハネ」に由来する)が最もありふれた名前の一つであるのと同様、イワンもロシアで非常に一般的である。ジョンもイワンも「神は恵み深い」という意味だ。
しかしイワンは、昔からとても人気のある名前であることは確かだが、現在ロシアで最も人気のある名前ではない。ここ20年、ロシアで最も人気のある男性名はアレクサンドルだ。