外の気温はマイナス13℃。老齢の女性が足下を気にしながら、傘をさして、小さな広場をとぼとぼと歩いている。ふと女性がふと頭をあげると、そこには白い馬を連れた女性警官の姿があった。
「撫でてやってください。噛みついたりしませんから」と第一騎兵連隊第一中隊第一小隊第一課のエレーナ・アガルコワ上級軍曹は微笑みながら話しかける。「まぁそんな、怖いわ・・・」と言いながら、女性は馬の顔を撫でようと手を伸ばした。
エレーナさん曰く、パトロール中、高齢の人たち、子ども連れの家族、外国人観光客たちと遭遇すると、彼らは馬を見て喜び、撫でたがったり、一緒に写真を撮りたがったりするという。
エレーナさんと馬のディクタートルが配属されている騎馬警官隊第一機動連隊は、40年前の1980年、ロシア内務省の付属組織として創設された。第一機動連隊の課題には、集会、コンサート、フェスティヴァル、サッカーの試合など、大規模なイベントにおける秩序の維持が含まれている。
連隊にはおよそ250頭の馬がいるが、いずれも最良のロシアの厩舎から選ばれた。連隊の中の1頭であるゾロトイ・ルーチ(黄金の光)は、2018年にウラジーミル・プーチン大統領から贈られたものである。
普通、連隊に配属されるのは、すでに背中の強い3〜4歳の馬である。同じ年に生まれた馬には、たとえば同じアルファベットで始まる名前がつけられる。
配属された馬は数ヶ月かけて訓練を受ける。特別に教育された職員が鞍をつけて歩くことや障害物を避けること、道路にいる大勢の人や騒音を恐れないことを教える。
騎兵の教育は9ヶ月から1年かけて行われる。男性は兵役に就いたことが条件とされる。まず騎兵を目指す職員たちは、身体検査および心理テストを受け、それを受けて、医師らが馬との訓練の期間を決定する。一般的には3ヶ月か6ヶ月だとエレーナさんは言う。しかしこれはまったく初期の段階である。
最初、騎兵たちは乗馬の訓練をし、馬に装具をつける練習をし、滑り止めのスパイクを装着し、うまく交流できるようトレーニングする。
騎兵はどんな馬とも行動できるよう、訓練はさまざまな性格のさまざまな馬―気性の激しい馬からおとなしい馬まで―と行われる。
しかしこのような訓練に全員が耐えられるわけではないという。
「それぞれのトレーニーに馬が1頭ずつ与えられ、その馬の世話をし、掃除をします。しかし過去にはそんなことはしたくないと言って辞めていった人もいます。またあるときには馬の毛のアレルギーを発症して、騎馬警官隊にいられなくなり、歩兵連隊に移ったという女の子もいました」と話すのは、特別連隊副司令官のヴャチェスラフ・フランツーゾフ少将。
この訓練を終えた後、騎兵たちは教育センターに入り、職務、法、戦闘に関する教育を受ける。そしてそれが終わると試験を受け、勤務を開始することになる。
エレーナさんは騎馬警官隊に入って4年目になる。警察専門学校で学び、若いときから双子の姉妹とともに乗馬をしており、今は2人とも騎馬連隊で働いている。
「エクスカーションで来たときに、専攻と趣味がぴったりの職場で、これしかないと思ったんです」とエレーナさんは回想する。
エレーナさんの夫で、第一連隊第一中隊第二小隊第二課の騎兵で上級軍曹(それにしても複雑極まりない役職名!)のミハイル・アガルコフさんも騎馬警官隊に配属されている。若い頃から、内務省か軍に勤務したいと考えていたそうだ。
「軍隊に行く前、乗馬に興味があったんです。それでその両方を合わせることにしました。座ってする仕事は好きではありませんし、オフィスワークは興味もありません」とミハイルさんは言う。
この写真では、プリンセス(黒)とスカースカ(白)という2頭の馬と一緒に映っているが、勤務時には「自分の」馬に乗っていることが多い。エレーナさんの馬はディクタートル、ミハイルさんの馬はエレヴァンである。
「ディクタートルは常に人と交わっていないとダメなんです。とても友好的で、動いているのが好きで、同じ場所にじっとしていられないのです。そばを通りがかったのに撫でてやらずに通り過ぎると、耳を抑えるのです」とエレーナさんは自分の馬について語っている。
一方、ミハイルさんは自分の馬、エレヴァンは一言でいって、「怠けもの」だと話す。互いに、どの馬もご主人さまに似ているのだとジョークを飛ばし、互いの気分を感じ取るのだと言う。だからこそ、良い精神状態で出勤し、好きなもので喜ばせてやらなければならないのだそうだ。
一般的な冬の日、騎兵たちのシフトは8時45分に始まる。まず連隊に集まり、指示を聞き、1日のスケジュールを確認し、必要であれば、犯人についての情報を得る。騎兵たちは自分の馬の用意をし、手錠、トランシーバー、棍棒、データベースが入ったタブレット、書類などの必要な道具を受け取る。馬は6頭ずつ、特別な車両で、主に森林公園に運ばれて、任務につく。その後、連隊に戻り、自身の任務について報告を行った後、帰宅する。
コンサート、集会、サッカーの試合など、イベントで勤務するときには、 シフトの開始時刻は変動する。こうした場合、騎馬警察の職員たちは馬から降りて、歩いて任務につくこともある。
騎馬警察隊はマイナス25℃になるまで任務を行う。マイナス10℃を下回ると、騎兵たちは交替で任務をこなす。数時間ごとに、勤務するチームと輸送機関の中で暖をとるチームとに分かれる。
酷寒の日のライフハックについて、エレーナさんは、「レギンスを履き、防寒下着を着て、フリース生地のトレーナーを着て、靴の中敷と手袋にはカイロが入っています。馬にも特別暖かい上着を着せますが、座ったままのわたしたちに比べて、馬は常に動いているので、わたしたちほど凍えません。マスクも顔を覆っている部分は寒さからも風からも守ってくれます」と語っている。
アガルコフ夫妻は、自由な時間にも常に馬と過ごしているという。曲芸をしたり、連隊の仲間たちの間や別の乗馬クラブと 一緒に行われる馬術の大会に参加したりしている。
「 6時間も馬具をつけたままでいるというのは体力的にとても大変です。酷寒もつらいですし、大会で任務を果たすのにも神経も使います。しかし、この仕事が最高なのは、ただ書類を作ったりしているだけなく、イベントに参加したり、馬術の技を磨いたりしているということです。わたしたちは馬を家族のように思っています」とエレーナさんは語っている。
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