モスクワ出身のプログラマー、アレクセイ・スタルィフ(37)が仕事の合間に、自分の専門技能を使って作成したピクセルアートが、徐々にインスタグラムや他のSNSで人気を博している。
スタルィフは、かなりの収入をもたらすこのニッチな分野をほぼ偶然見つけた。
「もともとはコンピューターゲームを作ろうと思ったのがすべての始まりです。しかし、ゲームではビジュアルが重要だと強く思い知ることになりました。というのも、だれもそのゲームにどんなコードが使われているなんて興味がないからです。そして自分の技術がそれに追いついていないこともよく分かったんです。つまり、コードは書けても、美しい絵を描くことが出来ないので、多くの人に使ってもらえるゲームを作れなかったということです。それでコンピューターグラフィックスを使って絵を描き始めました。それでこれらの作品を作り始めたのですが、結果としてゲームの方は諦めることになりました。美しいものをつくることの方が面白くなったのです」とスタルィフは言う。
ひとつのピクセルアートを作りあげるのには大体5日かかる。しかし、いくつかの作品はそれだけ時間をかけても十分に元が取れるそうだ。スタルィフはその中の作品を OpenSeaのようないくつかのNFTのサイトで販売している。その中には数千ドルの値がつくものもある。
「これまでいくつかの作品が売れました。もちろん全部ではありません。2021年3月から始めて、次から次に多くのことが起きました。しかし、わたしはセールスマンではありません。下絵を描いて、背景を考え、色付けをしますが、その売り方は知らないのです。世の中には売るのがうまい人もいます。上手に宣伝し、人の注意を惹きつける。そういう人は、最新作を展示して、あっという間に高額で売っています。しかし残念ながらわたしはそういうタイプではありません。わたしは美しいものを創造することに力を入れているんです」。
スタルィフは、お金が一番大事ではないと強調し、デジタルアート製作者としてNFTを作ることは別の価値があるのだと述べている。
「NFT全体について考え直してみたことがあります。皆が言う、ものすごい金額で売るというのは、もっとも大事なことではありません。わたしにとって、NFTはデジタル空間でオリジナリティある作品を創作する機会を与えてくれるものです。オリジナリティある製作者の署名付きの作品なのです。画家が実際に描いて、美術館に掲げられている絵画と比較しうるものです。デジタルコンテンツを製作するわたしにとって、これは大変重要なことです。デジタル空間で実際の印を残すことができるのですから」。
これまで、スタルィフがピクセルアートをつくるために使用した絵画の原作者からクレームを受けたことはないし、これからもないだろうと考えている。
「わたしがやっているのは、再製作と呼ばれるものです。原画や元の写真の作者との直接のつながりはありません。共通のプロジェクトをやっていれば、彼らと一緒に進んでいく意味はあるかもしれないが、わたしはすべてを一人でやっているので、あまり意味はありません。それに彼らの連絡先が分からないことも多いのです。またNFTを売ることは芸術作品の著作権を委譲することではありません。デジタルの世界では、ブロックチェーンの中でのやりとりに過ぎないのです」。
「最近、有名なアーティストの作品(溶岩流の上で波打つ一本の木)をピクセル化したのですが、そのアーティストはわたしの作品を自分のインスタグラムに掲載してくれていました。わたしはその後、作品をNFTで販売しました。もしそれで億万長者になっていたらクレームも来ていたかもしれませんね」とスタルィクは語る。
しかし、にもかかわらずスタルィフは批判にさらされることがあるという。特に同胞からの批判が多いのだそうだ。
「西側諸国の人の芸術の捉え方がロシア人とは異なっていることを嬉しく思っています。ロシアの人々は不思議な反応をすることが多く、わたしのことを、何もせずにすでに存在する芸術を作り直しているだけだと非難するのです。しかしわたしは何も秘密にしていません。オリジナルの作品の写真を分かる範囲で明らかにしています。私は大学で芸術を学んだ訳ではないので、スケッチくらいはできますが、絵を描くことは出来ません。しかし、コードの書き方は知っています。誰が芸術家で誰がそうでないか言うことは難しい。なんらかの芸術を創作している人はそれでもう芸術家なのです。絵が描けるかどうかは基準ではないのです。わたしにはわたしのやり方があるのです」。
スタルィフは多くのものからインスピレーションを受けている。スクリーンショット、古い写真、絵画、映画など、スタルィクにかかればすべてピクセルアートになる。しかし、彼の描く作品の多くは自分が生活している場所からインスピレーションを受けていると言う。
「ロシアに住むわたしは、ここの美的感覚が気に入っています。また、自然が美しい場所の美的感覚も好きです。ロシア人として、子どもの頃から乗っている電車の光景などにもインスピレーションを受けます。しかし、実は、電車に惹きつけられるのはロシア人だけではないことが分かりました。この電車はわたしの現実から来ているのものです。少なくともそれが何かは知っているのです。わたしは知らないことは描けないのです」。