「大量の変わった名前のWi-Fi回線が、一気に表示されるのを想像してみて」
「ゾンビの黙示録が集中しているかも」
「その半径1マイル以内でティンダーが反応する」
これらのすべてのジョークは、サンクトペテルブルクに隣接するレニングラード州クドロヴォ市に作られたもっとも大きな多層住宅「ノーヴィ・オケルヴィル」に関するものである。建設事業者のデータによれば、このアパートには9200人が居住することができ、その数は小さな都市の人口に匹敵する。この多層住宅を含める住宅街に2万人くらいの住人がいる。
「ノーヴィ・オケルヴィル」は実際、まるで都市の中の都市のようである。こちらをご覧いただきたい。
このマンションの写真がインターネットのサイトに紹介されるや否や、Redditのユーザーたちはその大きさに驚愕した。最初の1日でこの投稿には5万件のいいね!がつき、コメント欄では、フードデリバリーがどのように行われているのか(かわいそうな配達人たち!)について議論が交わされ、またこれはロシア版のトレーラーパークなのではないかという説まで飛び出した。一体ここにどのようにして人々が暮らしているのだろうか。住人たちの声を紹介しよう。
なぜ人々はここに暮らしているのか?
すでに、「ロシア・ビヨンド」では、これほど広大なロシアで、なぜ人々がこのような「蟻塚」のような住宅に暮らしているのかについてお伝えした。(読んでいないという方はぜひこちらをどうぞ)。「ノーヴィ・オケルヴィル」は、そういった意味では、「蟻塚の皇帝」と名付けることができるだろう。このマンションには35もの入り口があり、3,708室もの部屋があり、階数は最大で25もある。
作られているのは主に家族用の住宅で、2ルームの部屋となっている。1つの階には平均4〜6室あり、それぞれの入り口に4つの高速エレベーターが付いている。この巨大マンションができたのは2015年で、不動産市場ではたちまち人気の物件となった。
人気のサイト「ピカブー」で、このマンションに住むEkz0さんは次のように書いている。「なぜこの家に住むことになったかと言うと、最初は部屋を借りていたのですが、このマンションが好きになり、当時350万ルーブル(およそ510万円)で部屋を買ったのです。しかし、いまは560万ルーブル(およそ820万円)にまで値上がりしています」。
一方、Redditのユーザー、everlastsunさんはさらに詳しい情報を寄せている。「マンションに住んでいる人のほとんどは賃貸です。快適な生活を求めていて、ほとんど仕事場にいることが多い人たちです。家賃は安く、必要なものはすべて近くにあります。小さな町から大都市に引っ越してきて、新しい生活を始めるために仕事を探す若者にとっては、パーフェクトな場所です。見かけはかなりひどいものに見えるかもしれませんが、実際はそんなことはありません」。そんな彼はここに住んで8年になるという。
エレーナ・チェレポワさんは、このマンションができた当初からここに住んでいる。「ペテルブルクでも色々物件を探しましたが、中古のマンションは気に入りませんでした。建物自体も古くて部屋の状態が悪いか、あるいはものすごく高いかのどちらかでした」と語るエレーナさん。彼女の住む階には8室あり、そのうちの2ルームの部屋は2つしかなく、あとはすべて1ルームの部屋だという。「ほとんどの部屋は賃貸だと思います。というのも、隣人が入れ替わっているからです。あとは多くの人が、高齢の両親に1ルームの部屋を買って、ここに住まわせ、自分たちは、大きな部屋に住んでいるのだと思います」。
一つの場所に作られた大きな街。独自の学校、医療センター、食料品店があるのか?
こうした住宅には普通、1階には店舗や施設が入っていることが多い。とはいえ、児童センターや幼児教室、塾などが入っていることは少なく、普通は店や美容院、カフェなどであることがほとんどである。そして「ノーヴィ・オケルヴィル」も例外ではない。
Ekz0さんは言う。「マンションには食料品店が7軒、美容院が3軒、生ビール店が1軒、花屋、建材店、民間の保育所、カフェが3軒、オンラインオーダーの受け取り場所が1カ所、薬局、診療所、幼児の体操教室、ペットショップ、子供用品店、文房具屋、コンピュータークラブがあります。それ以外にも何か忘れているものがあると思います。住宅のすぐそばに学校と幼稚園、角にスーパーマーケット、500㍍ほどのところに大型スーパやその他色々なものがあります。半年くらい、この住宅周辺から外に出ていません。なんでもここにあるし、このところずっと家でリモートワークをしていたからです」。
このような場所ではインフラは非常に重要なものだとエレーナさんは話している。「道路を渡ったところにプールがあり、毎日通っています。店、薬局、美容院も歩いていける場所にあります。自転車の部品を売っている店も近くにあります」。
住宅に住む人々は、最寄りの地下鉄駅までは徒歩25分またはバスに乗って行くことができると話しているが、そこはもうサンクトペテルブルク市内だという。サンクトペテルブルクの中心部であるセンナヤ広場までは6駅、ヤンデクス・メトロ・ナヴィゲーションによれば、所要時間は26分である。「ノーヴィ・オケルヴィル」の住人のほぼすべてが、クドロヴォではなく、サンクトペテルブルクで働いている。
ただ、駐車場については、事前に支払いをしないと、問題が生じることがあるという。人々は、住宅の近くに無料で駐車しているが、その車列はいくつにも重なっている。夜になると、自動車を停める場所を探すのは困難である。3つある公園も自動車の列で埋め尽くされている。Ekz0さんはこれについて次のように話している。「一番の問題は、マンションの前に、巨大な有料の駐車場が3つあるのですが、その1日の駐車料金が最低で150ルーブル(およそ220円)もするということです。タバコ1箱よりも高いのです。しかし、この駐車場はいつも半分ほどは空いています。わたしは面倒なことは考えず、お金を払ってここに駐車しています。誰にも邪魔されず、誰にも文句を言われません」。
マンションの近くに学校はないが、近くに1,600人の児童を受け入れられる学校がある。しかしこの学校には、この住宅地全体から子どもたちが通っている。「4年前、娘をこの学校に連れて行きました。児童の受け入れ数1,600人の学校に2,200人が通っていました。1年生は10クラスあり、1クラス36人でした。大勢の生徒全員を受け入れるために、学校では2部制が導入されていました。8時半から授業が始まる生徒と11時半から授業が始まる生徒に分けていたのです。しかし、それはひどいもので、結局、その学校はやめることにしました」とエレーナさんは話している。現在は、クドロヴォに2つ目の学校が作られ、状況の改善が期待されている。
隣人が多くて面倒ではないのか?
「まったくそんなことはありません。隣人に会うこともほとんどなければ、声を聞くこともありません」とeverlastsunさん。「住宅から音が聞こえてくることはほとんどなく、たまに金曜日に酔っ払いが遠くで少し大声を出していることはあっても、それも気にならない程度です」。
「壁は厚くて、隣の部屋の音も聞こえません。エレベーターでは、特に知り合いでなくても、皆、挨拶します。問題を起こす人も、騒ぐ人もいません」。
住宅には、入り口が35個もあり、1つのドアを使う住人はそれほどいないと、家族と暮らすアレクサンドルさんは言う。「隣人に会うことはほとんどありません。わたしの住む10階には10部屋しかないんです。以前は400室あるマンションに住んでいましたが、そこは入り口が1つしかなく、エレベーターの前にはいつも地下鉄並みの行列ができていました」。
Everlastsunは、「窓越しに話したりはしません(窓が非常に近く、おしゃべりをするのには不便なため)が、共同のバルコニーで会って、タバコを吸いながら、話をすることはあります」と言う。また、everlastsunさんによれば、ソーシャルネットワーク上には、マンションの住人たちが、ニュースを共有したり、協力を求めあったりするいくつかのグループがあるのだという。そんなグループの投稿で、ある若い女性は書いている。「毎晩、大音量で音楽を聴いている隣人たちとの問題を収拾するのを手伝ってくれる人はいませんか。警察はまったく動いてくれません」。
Everlastsunさんは、犬を飼う住人たちの匿名グループに入っている。「わたしは大きな犬(ジャーマン・シェパード)を飼っているのですが、周りに犬を飼っている人がたくさんいます。普段は一緒に散歩に行ったり、特定の場所で会ったりします」。一方、エレーナさんは、「何度かりんじんたちとクイズ大会をしましたが、まもなく、それもなくなりました」。
太陽の光は十分か?
都市の評価テストで有名な人気ブロガーのイリヤ・ヴァルラモフさんは、クドロヴォと「ノーヴィ・オケルヴィル」を訪れたあと、こう述べている。「この家がどのように作られているのか見れば、これが、ある土地にできるだけ多くの部屋を作るにはこうすべきだという模範であることが分かるでしょう。土地を持っていて、コンピュータプログラムで、できるだけ高い建物にするためにどうすればよいか計算するのです。ここでは、日射量の基準を満たすために、ブロックが少し低めに作られています。つまり、このマンションはすべての基準に合致するように作られています。ただそれ以上は何もない、質素な建物です」。
どうやら、基準には合っているようだ。というのも、太陽の光が入らない(この地域では太陽が出る日は少ないとはいえ)という不満を言う人はいないからだ。Ekz0さんは言う。「わたしの部屋の窓は中庭に面していますが、朝から陽の光が窓から差し込んできますし、日中は涼しくて快適で、夕方になると、逆方向に太陽が差すので光は十分です。また照り返しもあるので、光は十分すぎるほど足りています」。
生活費はどのくらい?
クドロヴォの中では、このマンションは高級マンションと位置付けられている。アレクサンドルさんは、「どのマンションよりも質がよいから」と述べている。アレクサンドルさんによれば、このマンションには空き室はほとんどない。同じマンション内に、オフィス用に2つ目の部屋を借りようとしたが、なかなか大変だったと話す。
「家賃は、リフォームされた1ルームの部屋が19,000ルーブル(およそ28,000円)。共益費が6,000ルーブル(およそ8,800円)、床暖房がついています。家具や設備はすべて新品です。新しい2ルームの部屋を買うと750万ルーブル(およそ1,100万円)です。それより安い部屋はもうすでにありません」。
概して、住みやすい住宅なのか?
Everlastsunさんは、それは非常に難しい質問だと打ち明ける。「個人的には、一生住みたいとは思いません。しかし最悪な場所というわけでもありません。学校や幼稚園も近くにあるし、必要なものはすべて揃っているし、良い森林公園も徒歩30分のところにあります。それに安全です」。
一方、アレクサンドルさんは、過去20年に住んだどの家よりも素晴らしいと絶賛する。「主なメリットは3つあります。まず、家の質が良いこと。広々としたエレベーターが4つもあり、家具を運ぶこともできます。それに監視カメラが付いているので、駐車するのも安心です。2つ目は、サービスがよいことです。すべてきれいに清掃されていて、エレベーターの鏡は家の鏡よりもきれいなぐらいです。ゴミはすぐに運ばれていて、溜まっていることはありません。3つ目は、店があちこちにあることです。1〜2分歩けば、店があり、なんでも買えます。学校は1分、幼稚園は2分のところにあります。本当に幸せな生活を送っています。他にもこのマンションに住む人を2人ほど知っていますが、皆、満足しています」。
Ekz0さんも、「疑いなく、最高です」と言う。ただ1つ気に入らないのは、1ルームの部屋の公共料金が夏は1,400ルーブル(およそ2,100円)なのが、冬には5,500ルーブル(およそ8,000円)と一定でないことだという。それが原因でいつも管理会社と揉めることになり、管理会社が定期的にお金を返してくれるのだそうだ。それと朝晩の渋滞はなかなか厳しいという。
「それ以外では、人口過密や干ばつ、伝染病には苦しんでいませんし、駐車違反をする連中には、7,000〜8,000ルーブルでレッカー車を呼び、ルールを教えることができますし、デリバリーの配達人たちが家から出られなくて、浮浪者になることもありませんし、太陽が足りないからという理由でドラキュラになるという話も聞いたことがありません」。