「どんなに落胆したか想像もつかないでしょう。試合の最中は何も考えられず、とにかく1ポイント1ポイント取ろうと努力しました。(中略)以前は(彼女に)勝っていたのに」。2016年のフェンシング女子フルーレのオリンピック・チャンピオンである31歳のイナ・デリグラゾワ選手は、7月25日、東京オリンピック2020で手にした銀メダルについて、こう語った。
イナは決勝までは順調に駒を進めたが、結局、アメリカのリー・キーファーに13対15のスコアで破れた。イナの落胆は簡単に説明することができる。6度世界王者の座に就き、ヨーロッパ選手権を4度制し、オリンピックで3度入賞しているイナは負けることに慣れていないのである。
イナはクールスク州(モスクワから474キロ)のクルチャトフという小さな町で生まれた。雑誌Championat.ru.によれば、イナが8歳になったとき、通っていた学校にコーチのリディア・サフィウリナが若手選手の発掘に訪れた。
イナは言う。「わたしは選択を迫られました。新体操がとても気に入っていて、フィギュアスケートも好きだったのです。そしてフェンシングというものが一体どういうスポーツか想像もつきませんでしたが、結局、フェンシングをするということになったのです。わたしは母のところに行って、フェンシングしてもいい?と訊いたくらいです。母はとても驚いて、 フェンシングはどちらかというと男の子のスポーツで、三銃士がやっているものだ、などと言いました。でも、とても面白く感じられて、クラブにレッスンに行くようになったのです」。
はじめ、イナは女友達と一緒に、ただ面白いからという理由だけでレッスンに通っていて、ときにレッスンを休むことすらあったが、まもなく本物の剣を手渡され、町の大会に初めて参加した。 その時初めて、デリグラゾワは、このスポーツが本当に好きになったことに気づき、大会での勝利する醍醐味を感じたと言う。
12歳のとき、より経験豊富な16歳の選手に勝利し、10年生になってからは、学生が参加する大会などに精力的に参加するようになった。そして学校の成績は下がった。
それでも、イナは学校卒業後、クールスクのユーゴ・ザーパド国立大学に入学、法律家になるための勉強を始めた。学業は容易ではなかったが、イナは大学指導部の厳しさに感謝した。
イナは18歳で結婚。1年後には女児を出産した。イナ曰く、妊娠中も、トレーニングを続けていたという。
「選手としての人生がより困難なものになるだろうことは理解していました。戻れるかどうか自信もありませんでしたが、コーチは妊娠中もトレーニングをしてくれ、8ヶ月のときには座った姿勢でのレッスンをしてくれました。出産後に復帰するのはもちろん大変でしたが、まだかなり若かったので、体の回復がとても早かったのがよかったのです」とデリグラゾワは語っている。
2010年にデリグラゾワ選手はロシア代表チーム入りを果たす。その1ヶ月半後、ロシア選手権で2位に入賞。さらにその数ヶ月後、若くして母親になったデリグラゾワは、ヨーロッパ選手権大会初出場で、個人、団体で銅メダルに輝いた。準決勝では、経験豊富なイタリア人選手、ヴァレンチナ・ヴェツァーリ選手に敗れた。そして2011年、世界選手権で、団体総合で金メダルを獲得した。
それから2年後、イナはロンドン五輪に参加し、団体戦で銀メダルを獲得した。2016年、デリグラゾワはリオデジャネイロ五輪で個人戦で金メダルを手にした。ロシア選手がオリンピックでこれほどの快挙を果たしたのは1968年のソ連選手エレーナ・ベロワ以来のことである。
デリグラゾワは、自身の勝利について、次のように語っている。「対立する性格の中では勇敢さが勝っています。オリンピック・チャンピオンになって、自分が限界に到達したとは思っていません。5回オリンピック・チャンピオンの座に就いている人もいます。さらに目指していくべき、より高い成果があるのです」。
東京五輪に向け、イナは基本的には故郷であり、今も住んでいるクルチャトフで準備を進めた。
「わたしにとっての休暇は、この故郷クルチャトフでのトレーニングです。土曜日以外毎日、1日2回トレーニングしますが、自分の町では負担がそれほどなくやれるのです」。
2019年、デリグラゾワは離婚し、母親と一緒に娘のディアナを育てている。娘のディアナもフェンシングとダンスに夢中なのだそうだ。イナ自身は自由時間があるときには、ロマンティックな音楽を聴き、水上バイクに乗り、小説を読んでいる。
決勝では、「スターウォーズ」のインペリアル・マーチに乗って登場した。
イナの対戦相手リー・キーファーは最初から攻撃に出た。デリグラゾワは何度も同点に追いついたが、勝利の女神はキーファーに微笑んだ。
デリグラゾワ選手は団体戦でも金メダルを狙っている。2024年のパリ五輪への出場についてはまだ考えていないという。
ウラジーミル・プーチンとイナ・デリグラゾワ 、2016年リオデジャネイロオリンピックで優勝した選手を祝う会にて
Mikhail Metzel/TASS「今、考えなければならないのは団体戦のことだけです。オリンピックはまだ続いています。オリンピックが終わった後は数ヶ月休んで、それからどうするか決めようと思っています。でもまだ競技は続けたいと思っています。そして良い成績を残したいです。しかしそのためには、大きな決意と健康が必要です。ですから様子を見るつもりです」と1回目の試合の後、デリグラゾワは語っている。
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