サンクトペテルブルクでのEURO 2020開催期間のある1日

Kira Lisitskaya, Peter Kovalev/TASS, Kirill Kudryavtsev/Pool/Getty Images, Legion media
 「サッカー用」メニューを掲げたガラガラのカフェ、エルミタージュ美術館の近くを立つリオネル・メッシ像、酒に酔って外国人と喧嘩をするサッカーファン・・・。2021年に延期されたサッカーの欧州選手権2020の開催中にサンクトペテルブルクで目にすることができるものはそれだけではない。

 おそらくサンクトペテルブルクでもっとも有名な観光地である聖イサアク大聖堂の小さな円柱の前に、数百人のロシア人観光客が集まっている。街の景色をバックにした素晴らしい写真を撮ろうとする者もいれば、階段で円柱に登る順番を待つ者もいれば、もう下に降りようと並んでいる者もいる。

 突然、群衆の中から、大きなサッカーの笛音が響き、細長い展望台はさらに狭くなる。首にロシアの国旗を巻いた大きな男が人々をかき分けて歩いている。外見はビールを飲みすぎたアステリックスのようで、どうやらかなり飲んでいるようだ。樽の半分は飲んだに違いない。

 サッカーファンは目に入った女性に向かって叫ぶ。「今日、ロシア対ベルギー戦があるのを知っているかい?もうすぐサッカーの試合だから、準備をして、力を蓄えてるんだ!」と。「知ってるわ。写真を撮らせてちょうだいよ!」と女性は男を押しのけ、ペテルブルクの屋根をバックに自撮りを続ける。「何も分かってないな。ロシア!ロシア!」と男は答え、別の観光客に同意を求める。 

 こうしたシーンは、ロシアの日で、サッカーの欧州選手権の初戦が行われた2021年6月12日、サンクトペテルブルクのあちらこちらで見られた。

日中

 この日、ペテルブルクにはサッカーのシンボルマークがあちらこちらに登場した。「EURO2020」の文字はバス、店のショーウィンドウ、スポーツバー、カフェでも目にすることができた。街の中心部では、ファンたちが重要な試合を大きなスクリーンで観戦したり、子どもサッカーができたり、記念写真を撮ったりできる無料のファンゾーンへの道順を記した紙があちこちに貼られていた。

 エルミタージュ美術館にほど近い、蝋人形美術館のそばにはリオネル・メッシの銅像が建てられていたが、地元の観光客は、その像のメッシがあまりに背が低いことから、「グノム・グノムィチ(こびと)」と名付けていた。欧州選手権のための準備はすべて整っていたが、一つだけ足りないのがファンの姿であった。先ほど、聖イサアク大聖堂で見かけた男だけが、唯一のサッカーファンのように思われるほどであった。 

 サンクトペテルブルクには十分な観光客がいたが、その多くはサッカーには関心がないようだった。「ロシアの日」が祝われた12日から14日にかけて連休だったため、ほとんどの観光客はただサンクトペテルブルクを観光しに来ただけであった。

 多くの街中のカフェではサッカーファンのための特別メニューが用意されていた。そのほとんどは、栄養満点のバーガーやシャヴェルマ、キノコ入りのブリヌィ、クラシカルなボルシチなどを含むものであった。しかし、試合が行われた日、サッカーを全面に押し出したカフェですら、ほとんど客は入っておらず、カフェチェーン「コルジョフ」のウェイトレスによれば、サッカーにちなんだ特別メニューをオーダーする人はほとんどいなかったといい、観光客はテラス席でワインやアペロール(イタリアのリキュール)を飲むのを好んだという。また地元の市民の一部は街からまったく出かけなかったようである。

 「ネフスキー大通りとその周辺には行かないようにしました。国境が開かれたばかりのときは状況はそれほど悪くありませんでしたが、今はほとんどの観光客がサンクトペテルブルクに来ています。このサッカーの大会に関しては、ほんとに頭がおかしくなりそうです」と地元の住民、アルトゥール・モロゾフさんは言う。

 ハリストス復活教会の近くにあるコニュシェンナヤ広場に、主要なファンゾーンの一つが設置されていた。疲れたボランティア要員らが、メガホンを手に、ファンゾーンは無料ですよと呼びかけていたが、ほとんどの観光客は入り口を避けるようにして進み、そばの通りを混雑させていた。

 ファンゾーンから100㍍ほどのところにテントが立てられ、サッカーのマフラーやプーチン大統領のマグネットなどが売られていた。売り子の一人によれば、サッカー関連商品は売れそうに思ったが、1日に5回も外国人を見なかったという。

 しかも6月9日、サンクトペテルブルクのボリス・ピオトロフスキー副知事は、サンクトペテルブルクは1試合に最大1万人の外国人ファンが訪れると見ており、そのためにロシアは特別にファンIDを持っていればヴィザなしで入国できるようにしたと発表していた。しかし、結局、その日、通りで外国人ファンの姿を目にすることはなかった。スタジアムのそばで撮影された数少ない写真は、インスタグラムの位置情報で探すしかなかった。

 ポーランドのパウェルさんは、ポーランド対スロヴァキア戦の日にカリーニングラードからペテルブルクに入った。カリーニングラードまでは自動車で移動したと言う。

 「大会の全体は悪くないけど、スタジアムに入る入口でのセキュリティチェックはかなり念入りでした。ほとんどロシア人との間で問題はなかったけれど、一度、ファンゾーンでビールを飲んだ人たちがわたしたちに喧嘩を仕掛けて来たことはありました。概して、こちらのレストランも街の雰囲気―つまり銅像や建築物や川などは気に入りました。そしてもちろん、ロシアの女の子は最高です。ただここの人たちが英語を話せない、あるいは話したがらないのはちょっと気に入りませんでした。レストランやパブですらそんなことがありました」とパウェルさんは話している。

 もう一人のポーランド人、オラフ・マシエジョウスキさんはサンクトペテルブルクまで直行便でやってきた。ポーランド対スロヴァキア戦の翌日にはスプラット経由でポーランドに帰るということだった。

 「大会の組織は非常に良く、文句をつけるべきことは何もありませんでした。ロシア人はとてもいい人たちです。わたしたちはペトロパブロフスク要塞や聖イサアク大聖堂を観光しました。同じ日、 エルミタージュ美術館にも行こうとしたのですが、すごい行列で、残念ながら、ウェブサイトのオンラインでのチケット販売がうまく機能していませんでした。どこに行っても行列というのが、この街の問題です」とオラフは不満そうに話した。 

 ホテル「アストリア」のそばでは、ベルギー代表チームの姿を見ようとした数人のグループがちょっとした騒動を起こしていた。ベルギーチームのために街道の一部が通行止めとなったが、人々はこの外国人選手たちを一目見ようと柵を乗り越えて、道路に出て来たのである。

 「誰なの?わたしも知ってる人かしら?」とそばを通りがかった高齢の女性がファンに尋ねる。

 「ああ、有名なパティシエで、おいしいベルギーワッフルを焼くらしいよ」と、尋ねられたファンはジョークで答えていた。

 わたしを乗せたタクシー運転手は、「わたしは神に祈っていましたよ。客がスタジアムだけには行きませんようにと。もし行ったら、12時になっても戻れないからね」と打ち明けた。試合の1時間前、ファンたちは数人ずつのグループになって、プリモールスキー勝利公園をスタジアムに向かって進んだ。ファンゾーンもついにファンたちでいっぱいになったが、最大人数までになったのは、6月16日のロシア対フィンランド戦だけであった。

 この日、ファンゾーンに入れなかったファンたちはスポーツバーに集まった。わたしが出かけたバーチェーンでは、テーブルは数時間前までに予約でいっぱいになり、ビールは、サッカーボールのついた杯の形をした大きなグラスに注がれた。また試合の結果(得点)を正しく言い当てた人には3.5リットルのビールとおつまみが贈られるというイベントが行われていた。 

 「わたしは公正に状況を判断して、3–1でベルギーの勝ちだと思います。1ゴールくらいは決めてくれると思います」と、ガールフレンドのエカテリーナと一緒にやって来たファンの一人、ウラジーミルが楽観的な予想を口にする。

 それから試合が行われている2時間、彼は誰よりも大きな声で、ロシアのゴールを破ったボールにケチをつけ、カーチャと一緒に3リットルボトルのビールを2本開けた。そして後半戦の最後の10分は、ロシアチームに涙ながらに「頼むからせめて1点くらい取ってくれ」と懇願していた。この頃にはいくつかのテーブルにはすでに人はいなくなっていた。がっかりしたファンたちは、試合が終了する前にすでに店を出ていたのである。試合は3–0でベルギーが勝利を収めた。

 試合の中継が終わると、ウラジーミルは、緊張した試合を終えイライラとタバコを吸うガールフレンドと一緒に外に出た。

 「これからどこに行くのですか?」とわたしは2人に尋ねた。

 「賞品のビールをもらえなかったので、次の店に飲みに行くんです。とにかく大事なのは、もうサッカーの話をしないことです」とカーチャは答えた。

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