「顔につけたこんな布っきれがウイルスを遮断できると本気で思っているのですか?避妊具でもすべてのウイルスを阻止できるわけではないと言うのに・・・、ただのマスクなんですよ」。
「捕まったら、監督官を殴ります。絶対にIDは見せないし、渡しません。警察署に行かないと。とりあえずツバ吐いて逃げます」。
「とにかく病気になりませんように。病気になれば、それがどんなに恐ろしいか解るでしょう。わたしは感染したのですが、もう少しで死ぬかと思いました。 ニヒリストにならず、手袋をすることです!」
モスクワの公共交通機関ではマスクと手袋の着用が再び、義務付けられたことを受けて、2020年10月16日、インターネットのニュースチャンネルBazaのチャットでは、このような反応が投稿された。モスクワで導入された新たな制限は10種類以上である。
主な制限の一つがバー、クラブなどの夜の娯楽施設に関するもので、2020年10月19日から、こうした娯楽施設(24時から午前6時に開店している店を含む)に行くスタッフや客のすべては、店に行く前に電話番号を登録しなければならない。モスクワ州では、夜の娯楽施設は24時から午前8時まで営業禁止となった。
モスクワのセルゲイ・ソビャニン市長は、「店に入ると、客はQRコードをスキャンするか、特別な番号にショートメッセージを送らなければならない」とブログに綴っている。店を訪問した客の中からコロナウイルスの感染者が出た場合は、そのとき店内にいた他の客にも感染しているかどうかを調べる検査を受けるよう連絡が来る。
モスクワとモスクワ州の市民のほとんどは、これに否定的な反応を見せている。「次は何が導入されるのでしょう?トイレにも監視カメラが取り付けられるようになるのでしょうか」。「 まもなく、指紋や精液検査が義務付けられるようになるはず。“何かあったとき”に父親を調べるために」。「って言うか、なぜまだクラブが開いているの?」。これは、ロシアのソーシャルネットワーク「VKontakte」の市長の投稿に寄せられたコメントのごく一部である。
「建物の玄関で飲み会するらしい。あなたのところに行っていい?ビール買ってくれます?」。10月15日、ソーシャルネットワークで、母の友達の娘、16歳のアレフチナがわたしにメッセージをしてきた。
アレフチナは11年生。最終学年で、1年もしないうちに、大学入学に必要な国家試験を受けることになっている。しかし、2020年4月から学校の授業はリモートになっている。
彼女曰く、勉強はかなり楽になったとのこと。またソビャニン市長が休校期間を10月18日まで2週間延長したため、自由時間が増え、マクドナルドでバイトもできるようになった。しかし、アレフチナの母親のイリーナは、高学年(6年生から11年生)のリモート授業が11月1日まで延期されたことを知り、「恐ろしすぎて、バルコニーから叫びそうになった」と話す。
「子どもはまったく勉強しません。外を出歩いてばかり。他のほとんどの子どもたちもそうです。彼女のクラスの多くの生徒たちは遠隔の授業を受け入れることができないのです。これは本当の子どもに対するいじめです」とアレフチナの母親は不満を口にする。
子どもたちを家に留まらせるため、モスクワ市長は10月18日まで、児童と学生向けの定期券の使えないようにした。こうした定期券は65歳以上の市民が都市内を無料で移動するのに使っているのだが、これも一時、使えなくなった。10月19日、6年生以下の定期券は使用が再開されたが、年金受給者を含め、それより年上の人たちは無料での交通機関の使用はできないままとなっている。
「娘がモスクワ州の大学に行っています。娘の学校では遠隔授業は行われておらず、自分で交通費を払って授業に行くしかありません。彼女は法律上、割引を受けられる身なんです。この出費は誰が返金してくれるのでしょう」と3人の子どもを持つガリーナ・イツコワさん。彼女の1ヶ月の給料は10,560ルーブル(およそ15,000円)。彼女はホットラインに苦情を送ったが、今のところ回答はないと言う。
この他、ソビャニン市長はモスクワ市内のスポーツクラブの営業を一時停止するよう指示を出した。そしてその多くはオンラインでレッスンを行うようになった。4人の子どもを育てるシングルマザーのナタリヤ・シポワが暮らす2部屋のアパートはファイティングスポーツのレッスン場と化した。
「子どもは6年生と7年生なのですが、2人とも空手をやっています。毎日、ウェブカメラでどんな練習をするかが送られてきて、2人でそれをやっています。ソファを片付け、机を動かし、わたしは近くの机で仕事をしているのですが、目の前でずっとスパーリングをしています」とシポワは話す。
また彼女の話によれば、教師たちは、新しいことを遠隔で説明することができず、20分しか説明せず、またコンピューターを通して実際の知識を評価することは不可能なため、高めの評価をつけるようになっている。
「この1学年はなかったようなものです。感情をうまく表現するのは難しいです。絶望と憤慨を同時に感じます」とシポワは不満げに言う。
高学年や年金受給者、慢性疾病を抱える人々以外に、モスクワ市は10月5日から、モスクワの企業で働く社員の30%をリモートワークに切り替えるよう指示した。モスクワの学術研究所で働く研究員のエゴールもリモートワークに切り替えられた1人である。
エゴールが仕事をしようとすると、外からは騒音が聞こえ、モスクワの通りで作業員らが大量の落ち葉を集める掃除機のガソリンのにおいが漂ってきて、仕事などできないという。
「しかも最大で20℃の暖房が入って、息もできない。リモートワークをしろと言うなら、家にいられるようなまともな条件を整えて欲しい」とエゴールは訴える。
リモートワークへの切り替えを拒否した企業には、30万ルーブル(およそ40万円)の罰金が課され、また職員1人が感染したときには最大100万ルーブル(およそ140万円)支払わなければならない。小さな販売会社を経営するラリサ・マルティネンコは、誰をリモートワークに切り替えればいいのか分からないと言う。社員は数人しかおらず、キャッシャー、配送、販売を担当しているからだ。
「棚に商品を並べて、お客さまの対応をして、レジに立つという仕事をどうやってリモートでやるのでしょう。これについて、市から明確な指示がほしいものです。小さな小売企業はこんな状況で一体どうすればいいのでしょう。罰金を払えと言うことでしょうか?」とラリサは「VKontakte」の市長のページにこのような質問を書いた。
この他、市長は企業に対し、10月12日から、毎週、リモートワークをする社員の電話番号、自動車のナンバー、交通カードの番号を知らせることを義務付けた。こちらも義務を守らなければ罰金が課せられる。個人事業主には3万ルーブルから5万ルーブル(およそ4万円から6万8,000円)の罰金となっている(法人に対しては10万ルーブルから30万ルーブル=およそ13万円から40万円)。
のちに、モスクワ市情報技術局のドミトリー・イワノフ長官は、データは個人を特定するものではないと説明した。
「この情報収集は社員の移動や具体的な居場所を突き止めるためのものではありません。全体的な交通機関の利用客の変化を把握し、リモートワークへの切り替えるための効果的な策を評価するのに必要なのです」とイワノフ氏は言う。
しかし、すべての市民がこれを信用しているわけではない。
「わたしたちの会社で働いているのは、建設作業員、掃除夫、オフィスワーカーなど、リモートワークできない職員ばかりです」と言うのはエレーナ(仮名)。ガレージを建設する会社の経理課で働いている。「しかも、これらのリストを提出するサイトは動いていません。サーバーがダウンしています(2020年10月12日から)。本物の自動車リストは出さないでおこうかと思っています。追跡されないように。それから様子を見てみようと思っています」。
ロシア・ビヨンドはモスクワ市に、こうした市民からの否定的な反応についてのコメントを求めたが、現段階ではまだ回答は得られていない。
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