1. ツバメが低く飛ぶと雨が降る
この考えにはちゃんと裏付けがある。ツバメはブヨを餌にする。雨になりそうだと、湿度が上昇する。そうなるとブヨの羽が湿って重くなり、低く飛ぶようになる。そして、それを追うツバメも低く飛ぶのだ。また、アマツバメにもこの考えはあてはまる。アマツバメもブヨを餌にするからだ。しかし残念なことに、この状況は天気が変化する直前にならないと現れず、実際にはほとんど役に立たないことだ。
2. 赤い夕陽は、夏は風が起こる前触れ、冬は霜が降りる前触れである
太陽光線のスペクトルは異なる色と種類の放射線から出来ている。好天気の時は、すべてのスペクトルが地表に届くので、太陽光はいつも通り、白く見える。しかし天候が悪化したり、(強風や降霜をもたらす)サイクロンが現れると、大気は透明度を失う。大きな空気の塊が太陽からの放射される光のいくつかを遮ってしまうのだが、赤色光は残るので「赤い太陽」になり、沈むときに魅惑的な光景を生み出す。
3. 雨が降ると大漁になる
この天のしるしは、漁師の経験から来ている。事実、魚には身を守るために池や川の底に潜む習性が本能としてあるのだが、大雨や嵐が去った後には表面近くに戻ってくる。魚にとっても穏やかな水のほうが餌をとりやすいのだ。ところで、漁にとっては、悪天候の兆しが地平線上にあるときがよい。理由は、これもまた虫に関係している。嵐から逃れようとする直前は虫が濡れて重くなり低く飛ぶのだ。
4.イリヤの日が過ぎたら海や湖で泳いではいけない
正教会では8月2日にイリヤの日を祝う。その昔、ロシア人の間では、預言者イリヤが水に一片の氷を投げ込んだので、その日以降は水が冷たくなって泳げなくなったと言い伝えられている。しかし実際はそれはまったく正しいとは言えない。第一に、天候は毎年同じではないし、急激に気温が下がったからと言って水の温度が一日で冷たくなることはないからだ。第二に、ロシアでは地域によって天候は大きく異なり、南方では9月の初めでもまだ暖かい。第三に、ロシア全体の気候はこの何百年、徐々に暖かくなってきている。だから、天気に関する知恵も昔のようにはあたらなくなっている。
5. カエルが鳴くと雨が降る
虫と同じように、カエルも天候の変化に敏感である。しかしカエルの天気の予知能力については未だに証明されていない。実際にはカエルが鳴いても雨が降るわけではない。オスガエルはメスガエルを惹きつけるために鳴くので天気が変わっても鳴き止むことはない。また、カエルが大声で合唱すると雨が降り、逆に静かで穏やかに鳴くと天気はよくなり雨があがるとも言われている。
6. 天気が下り坂になると植物は花を閉じる
この言い伝えは必ずしも当たらない。植物には花を水から守るために特別な仕組みがある。なぜなら水がつくと花粉同士ひっついてしまい、虫の身体について別の花に運ばれなくなるからだ。このトラブルを防ぐために、多くの花は湿気が高くなると、夜と同じように閉じる。たとえばスミレがそうだ。タンポポは種が出来ると閉じる。湿ると風に吹かれて種を飛ばすことが出来なくなるからだ。アザミも動物の毛皮や人の衣服によって種を運ぶ。だからその鉤が水に濡れないようにしている。しかし、実際には花は夜にも虫や露から守るために閉じるのであり、かならずしも雨が降るということが理由ではないし、空気が湿っているからと言って、雨が降るとは限らない。
7. 猫が鼻を隠すと寒くなる
猫は濡れた敏感な鼻を使って外界の多くの情報を得るが、それはにおいだけでなく、温度も感じ取る。気温が下がり始めると、それを感じ取ってふわふわの尻尾や足を毛布のようにして鼻を覆い、眠っている間暖かい空気を吸えるようにしているのだ。しかし、これはただ猫がその時に寒いと感じているだけであって、天候の変化を予知するわけではない。だからこの天候変化のしるしはあまり信用できない。これはネコ科の動物一般に見られる自然の本能である。
8. カラスが鳴くのは夏の雨や冬の吹雪の前触れである
この言い伝えは、たんなる迷信で、なんの根拠もない。カラスがたくさん鳴くのは普通のことだ。その理由は別のところにある。夏にカラスたちが鳴くのは、お互いに気を惹いたり、敵や他のカラスから巣を守るためである。冬にはもっと攻撃的になって、自分の餌場を守ろうとする。カラス同士争いもするし、猫や犬、人間さえも攻撃する。そしてそのときももちろん鳴き声をあげる。
9. 雀が茂みに隠れるのは寒波や吹雪がくる前触れである
この言い伝えも科学的に証明できないし、そのような現象を観察することも出来ない。明らかに、これはロシアの北部の言い伝えだ。雀は確かに寒さや嵐が近づくと身を隠すが、それだけが理由ではない。たとえば、夏にも雨や強風から逃れるために隠れることもある。餌をとったあと休むために茂みに入り込み、静かににさえずる。また、敵から逃れるために身を隠すし、それは天候に左右されるものではない。
10. ナナカマドが多くの実をつければ、その冬は厳しくなる
ナナカマドの赤い実はとても目立つ。かつて、人々はナナカマドの実がたくさんなると、厳しい冬になるだけでなく、秋も寒くなると信じていた(今でも信じている人がいる)。
その「理由」はとても不思議なものである。鳥や動物を支配しているのは自然なので、環境が困難になる前に食べるものを与えるというのだ。悲しいことに、この話は正しくはない。ナナカマドの実の付き方がその後の天候によって左右されることはない。