伝説的なデザイナー、ジャン・ポール・ゴルチエはかつてロシアのテレビ局からのインタビューに応じた際に、「世界で美女を生み出す国は2つある。それはロシアとブラジルだ」と述べた。
しかし女性たち自身はゴルチエの意見には賛同していない。Lady Mail.ruが行った世論調査の結果によれば 、ロシア人女性の13%のみが自分の外見に不満を持っていない。またロシアの新聞「コメルサント」の女性の美に関する統計では、「自分の欠点を隠すために」、61%の女性が13歳でメイクを始めると記されている。また回答者の37%が毎月、コスメ(美容サービスではなく、化粧品のみ)に50ドルから100ドル(およそ5,500円から11,000円)を使うと答えている。
ロシアの女性たちは実際、美容にいくら使っているのか?そしてそれはなんのために必要なのだろうか?
愛のための美容
24歳のプロモーションモデル、エカテリーナは美容のために毎月72,500ルーブル(およそ12万6,000円)使っている。その内訳はというと、マニキュア、ペディキュアに2,500ルーブル(およそ4,400円)、眉の手入れとまつ毛のエクステに10,000ルーブル(およそ17,300円)、ヨガに5,000ルーブル(およそ8,600円)、ヘアカット、セット、ヘアエクステに30,000ルーブル(およそ52,000円)、脱毛に10,000ルーブル(およそ17,300円)、セルライト消しのマッサージに15,000ルーブル(およそ26,400円)となっている。
列挙したどのお手入れも省くわけにはいかないものだとエカテリーナは言う。これらはすべて、仕事のためだけでなく、夫に愛してもらい、経済的に援助してもらうためでもあるという。
「これは絶え間ない自分への投資です。お金だけでなく、時間とエネルギーも投じています。最近、彼氏に家賃を折半しようと言われたとか、彼氏が食料品を買うのを嫌がる、あるいはタクシー代を払ってくれないと嘆く女の子の話をよく耳にするのですが、男性たちはそれでも自分の彼女には小ぎれいにしていてもらいたがるのです。これは不平等です。男性は女性の努力を評価し、その対価を支払うべきです」。
20歳の英語教師アナスタシヤ・コヴァリョワは美容にかかるお金の大半をシャンプー(金額にしておよそ8,200円)とマッサージ(およそ11,000円)に使っている。アナスタシヤは、自分の恋人のために美しい外見を保たなければならないと感じている。「でないと、別の女性に目がいくようになるので」。
サンクトペテルブルクの23歳のフォトモデル、レーシャ・シトーは、美を手に入れるには、マッサージや美容師のサービスを受けるだけでなく、運動をし、正しい食生活を送ることが大切だと考えている。そこで年間15,000ルーブル(およそ26,000円)でフィットネスクラブの回数券を買い、半年に1度、4,000ルーブル(およそ6,900円)で歯のクリーニングをし、毎月5,000ルーブル(およそ8,600円)でヘアカットとカラーリングをしている。
しかし彼女の場合、美容は男性を惹きつけるためではなく、仕事のためであり、また自分を愛するためだという。
「美しい色に塗られたネイルを見て、自分の柔らかい肌に触れて、美しい、ニキビのない、脂肪のない体を見ていると満足感を得られるのです。自分のことが好きなので、自分の体の手入れをするのです。男性はわたしが太っていても、愛してくれます」とレーシャは確信する。
メイクを通して自分を好きになる
ビューティーブロガーや現代のメディアを含めた美容産業は女性に美の標準を押し付け、それとともに、新しい高価なサービスを押し付けていると指摘するのは、コンフリクトマネージャーのアレクサンドル・ユラノフ。
「現代女性は自分自身に常に疑問を持っています。眉はどうあるべきか、まつ毛は?唇は?顔や体の肌はどうあるべきか?そして基準に照らし合わせて、それがどうしても必要なものであると考え、常に自分の手入れに大金を使っています」。
女性というものはどんな時代においても、男性を見つけ、その男性とともに子孫を繁栄させたいという本能的な願いから自分をきれいにするものだと指摘するのは心理学者のイリーナ・ルィシコワ。しかしながら、法外な出費はこれとは関係ないとも指摘している。ルィシコワによれば、ロシアの女性たちは不完全であることへのコンプレックスを植えつけられており、美容の助けを借りて、そこから脱却しようとしているのだという。
「ソ連の女性たちは、美しさではなく、勤勉さで評価されました。また控えめであることが良いこととされていました。女の子たちは美しくあることより、懸命に勉強し、働くようしつけられました。女の子たちに甘い言葉で“ぼくのかわいい子”とか“ぼくのプリンセス”などと言う人もそういませんでした。これは大切なことではあるのですが。こうしたことから、女性たちは自分に自信を持てなくなっていたのです」とルィシコワは言う。
しかもロシアでは男性よりも女性が多く、ロシア統計局のデータをもとにRTが伝えるところによれば、その割合は、男性1人に対して女性が1,154人という計算になっている。女性たちは、男性からの愛情不足を自分をきれいにすることで補っているのである。
ルィシコワはこうも指摘している。「いま、多くのロシア人女性がメイクや美容によって、自分を好きになろうとし、もっと自信を持ち、向上しようとしています。このことで、女性を非難することはできません。これを変えるためには、彼女たちを奨励し、時間をかけることが必要です」。
節約と自信
ロシア人女性は年齢を重ねても、美容を続ける。全身全霊で肌の手入れをし、念入りにメイクをする人も多い。さらに35歳を超えた女性はほぼすべて、美容院やサロンで高額な料金を支払わないで済むよう、家で手入れをしている。
診断クリニックに勤める35歳の医師、イネッサ・フィラトワはフィットネスに通うのをやめて、自分でジョギングを始め、ネイルサロンに行かずに家で手入れをするようになった。美容ブロガーのアドバイスを参考にして、家で美容に使う基本的なお金は10,000ルーブル(およそ17,200円)以下である。
また主婦で2人の子どもを持つ45歳のアリョーナ・ティシェンコはメイクをするのをやめてもう5年以上になる。最低限のお手入れ(シャンプー、コンディショナー、シャワーソープ、フェイスクリーム、ボディクリーム)には1,000ルーブル(およそ1,720円)もかけていないと言う。
「 お手入れをする必要なんてないんです。わたしは自分に自信があるし、夫を信用しています。それに子どもや孫のために少しでも残しておこうと思うと、年々、節約せざるを得ません」とティシェンコは話す。
熱供給設備で働く55歳のオリガ・チェルネツォワは、数ヶ月に1度、友達のところでヘアカットと毛染めをしている。料金は1,500ルーブル(およそ2,600円)。15年以上、基礎化粧品とメイク用品はAvonのカタログ販売を利用して購入している。普段のメイクの基本は、明るいブルーのアイシャドー、糸のように細い眉、そして真っ赤な口紅だ。
チェルネツォワは言う。「このメイクをしないと、シワでわたしの顔がわからなくなってしまうんです。それにメイクをしないで外に出るのは礼儀に反します。もしかするとゴミを出しに外に出て、プリンスに出会うかもしれないでしょう?」。