モスクワの市民が地方都市を訪れたときに最初にイライラするのが、人々の歩く速度が異常に遅いということである。モスクワでは皆、歩くのが早い。特に急いでいなくても、である。モスクワでノロノロ歩いていたら、必ず文句を言われてしまう。
職場まで片道2時間かかるなんてことはよくある話で、これに文句を言う人はいない。なぜなら文句を言おうと口を開いた途端に、そばに通勤時間がもっと長い人が座っていたりするからである。そんなことを言おうものなら、その人の怒った視線が後ろから突き刺さることだろう。
職場のそばに部屋を借りても、普通は問題解決への道にはならない。モスクワでは誰もが自分の家を持つことに必死である。たとえそのために20年間ローンを払い続けることになっても、毎日、自動車で4時間移動することになっても、である。しかし一般的にはその夢を叶えることができるとしたら、それは中心部からかなり離れた場所になる。それにまだアパートを借りるのにお金を払おうなんて人はいない。
なぜなら物乞いはすべてマフィアか詐欺師だからである。彼らには「陣地」があり、元締めがいて、監視係がいて、1日に一般的な市民の1週間分以上の金を稼ぐ。例外はアルコール依存の人たちである。彼らはマフィアではなく、ただ飲み代を集めているだけなので、同情する余地はある。
モスクワの地下鉄には多くの利点がある。しかしながら、一つ大きな問題がある。それはたくさんの人がいること!人々の持つ人間不信は、地下鉄の中で利用客の数に比例して増大する。パーソナルスペースやきれいに磨いた靴のことなど考えてはいられない。人間の多種多様な愚かさが地下鉄の中であなたの問題となり、イライラすることになる。
というのも、毎年、冬がきて雪が降るのに(だってロシアの冬だから!)、公共の除雪サービスはまるで降雪など想定していなかったかのように、除雪ができない状態になるからである。こんなときのためにモスクワ市民は車に必ずスコップを常備している。朝、そして仕事の後、車を雪の中から掘り起こすのである。
シャウルマ(ピタパンに肉や野菜を挟んだもの)やケバブを食べるのは衛生的に安全だと知っている場所に限る。そうでないと、とんでもないことになりかねない。食中毒を起こしても驚く人はいない。鉄道駅で買うなんてもっての外である。
混雑した地下鉄の車両の中や人がたくさんいる場所では、リュックサックはあなたの敵である。そしてあなたの周りにいる人々の敵でもある。リュックサックは人の行く手を阻み、誰かの背中や顔に押し付ける。もしリュックサックを下ろさなければ、周りのすべての人たちがあなたに激しい憎悪を抱くことになり、どこかのお婆さんに怒鳴られるかもしれない。そんなことにはならないように。
モスクワ環状道路はある種の境界線である。環状道路の内側が「本当の」モスクワで、外側はどこか遠くにある、労働者階級が住むつまらない場所という定義である。内側に住む人たちは、外側に住む人たちをあまり好まない。これは階級戦争である。
ただし注意すべきなのは、郊外の高級住宅地も環状道路の外側にあるのだが、これはモスクワ中心部の「飛び地」のようなものだという点である。
観光客のための場所には、まったくいいことなんてない。あるのは値段が異常に高い(そしておいしくない)料理、半地下にある不思議な飲食店。そしてよそから来た人が大勢いて、スリや泥棒がたくさんいて、中国製のつまらないものが置いてあるお土産店がたくさんある場所である。ニコリスカヤ通り、アルバート通りは避けた方がよい。
夜中にどんなものが必要になったとしても大丈夫。花を買いたい、食料品を買いたい、ジムでトレーニングしたい、ネイルをしたい・・・など。モスクワではちょっとググれば、どんな時間にでもすべて見つけることができる。
モスクワ市民は規律正しい「ホワイトカラー」である。そこで1週間の仕事が終わる金曜日は絶対にそれを楽しむ。土曜日に外に繰り出している人は少ないくらいで、土曜に遊んでいる人はだいたいモスクワ以外の都市から出て来た人たちである。日曜はほとんど誰も外で遊ばない。みんな月曜日の仕事のことを考え、睡眠を取ろうとするためである。
地下鉄の出口で、あなたの後ろに誰かがいたら、ドアを押さえておこう。急いでいたとしてもである。これはしなければならないということではないが、第一にドアは非常に重く、押さえなければ後ろから来た人の顔に当たってしまう。そして第二にモスクワ市民は気遣いができる人々なのである。他の場面ではとんでもないことをするかもしれないが、皆、ドアだけは必ず押さえるのである。
モスクワの人々は皆、忙しい。皆、1週間先まで予定が詰まっている。だから、会いたいと思ったら、気にせず、すぐにも約束を取り付けた方がよい。金曜日に会いたい場合はなおさらである。金曜日はすでに誰かとの約束が入っている可能性がある。
モスクワのオフィスで働く職員たちは職場の近くにあるカフェやレストランでランチを食べることが多い。一定のレベル以上のお店にはお手頃価格のランチメニューがある。
モスクワっ子たちは何時何分からラッシュアワーが始まるのかを把握している。たとえば夕方なら5時55分までに地下鉄に乗れなければ、6時には恐ろしい混雑となる。誰もが1分に半歩のスピードで、足をすり合わせて歩き、ポケットからスマホを取り出すこともできない状態で、必ずその人混みをすり抜けて進もうとする人がいて、それを阻まれている。この状態に巻き込まれたくないなら、7時まで待つか、完璧なまでに時間を計算して、ラッシュアワーが始まる数分前に地下鉄に滑り込むことである。
モスクワの家賃は高いため、すべての人がこの問題に関心を持っている。そこで親しい間柄でもそうでない場合でも、この話題は会話の中に出てくることが多い。まず、どこに住んでいるのかという質問があり、どれくらいの大きさの部屋にいくら払っているかという話になる。これがいい家賃で、「おばあちゃんの家」ではない限り、たいていの相手はちょっと羨望しつつも感心しているのを見て取ることができるだろう。
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